あの虹彩の色を覚えている
大手IT企業エリートサラリーマン尾形(記憶有)と主(記憶無)
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「……それで、なまえはまだ見つからないのか?尾形」
「……ああ」
「なまえちゃんならきっと見つかるって〜、尾形ちゃん」
「そうだぜ、尾形。落ち込むなよ」
「別に落ち込んじゃいねぇ」
何が悲しいかな、前世では敵だった奴らとまたこうして会うことになろうとは、誰が想像出来ただろう。
カウンター席について早々に話しかけてきたのは、小蝶辺明日子だ。尾形が返答すると、白石由竹、杉元佐一の順に口を開く。
ぽんっと肩を叩いて励ましなのか眉尻を下げて言う杉元の手を、はっと吐息を漏らして払う。
一瞬場がしんみりしたが、明日子の『私達も捜すからな!』と、だから安心しろとでもいうように鼻息荒く言われ、尾形は『ははぁ』と気の無い返事をした。
ハイボールの入ったグラスを傾けながら、視線は何処か遠くを見ている尾形に、杉元達はそれ以上何も言えなかった。恐らく、前世でのことを思い返しているのだろう。
尾形は、前世の記憶を持っていた。《来世も一緒に……》と言って散々尾形の気持ちを引っ掻き回した女は、何処にいるのか分からない。酷いものである。
ふぅ、と小さく吐息を漏らすと、前髪を後ろへと撫で付けた。
輪廻転生している筈だ。根拠はないが、そうでなければ困るのだ。
稼ぎもしっかりあり、安定した収入と住処もタワーマンションであるから安心だ。あとは、なまえ、お前だけだと夜空を見上げてここにはいないなまえを想う。
アルコールにより少し上気した頬が、夜風に当たって心地好い。スリーピースの胸ポケットから煙草を取り出すと、1本口に咥えて火を付けた。
ふーっと肺一杯に吸い込んだ煙を吐き出すと、自宅へと向かった。
なまえが支店から本社に異動してから、数ヶ月が経った。漸く本社での仕事に慣れてきたなまえは、先輩に誘われてカフェに来ていた。
キャラメルラテを持ち帰りして、店を出ようとした時、店内に入って来ようとした男性とぶつかりそうになり、すみませんと軽く頭を下げた。
「……なまえか?」
「えっ?」
視線を足元から上へと移動させていくと、きちっと着こなしたスリーピーススーツに、ツーブロックで前髪を後頭部へと流しており、特徴的な眉毛と真っ黒な瞳がじっとこちらを見下ろしていた。
雰囲気からして、何処ぞのやばい人にも見えるが、その整った容姿は女性が黙っていないだろう、と言うのが第一印象だった。
「……知り合い?」
「えっと……?いえ、」
先輩が男となまえを交互に見遣る。なまえにはこんなイケメンの知り合いなどいない。いたとしたら記憶の中に残っているだろう。
何処かで会った事があるのだろうか。大学時代のサークルとか?合コン?……は正直苦手だからほぼ参加しないので確率は低い。
過去の記憶を遡ってみるが、やはり男と面識があるとは思えない。
男の後ろにいた同僚らしき人物が、『百之助、この子って……』と呟いていて、どうやら男二人はなまえの事を何らかの形で知っているらしい。
「あ、の……人違いです」
「あ?」
「ひぇ」
困惑してそう言うと、百之助と呼ばれた男がじろりと何言ってんだこいつはとでも言いたげに見つめてくる。猫に睨みつけられた鼠のように、背中に嫌な汗が流れた。喉からは声にならない悲鳴が漏れた。
店の入口で立ち止まっているものだから、店に入りたい人と出たい人が固まっている。なんだなんだと好奇の視線が突き刺さって痛い。
誰も男の雰囲気に声を掛ける事も出来ないでいる。
「……チッ、あんたは適当な理由つけて先に戻ってろ。お前はここで待ってろ」
「っ、はい……」
男は盛大な舌打ちをすると――それにすらビクついてしまう――いいな、と有無を言わせない圧力を掛けてさっさと飲み物を注文しに行った。
その《いいな》と言う一言に、逃げたらどうなるか分かってるよな?というのも含まれているのだろうと、嫌でも察してしまったなまえは、邪魔にならない所へ移動し、待っている間生きた心地がしなかった。
「……で?」
「へ?」
涙目でおろおろしているなまえを見た尾形は、背中がぞわりとした。どうしてこうも加虐心を擽るのか。
『後で詳しく聞かせてよね〜』とニヤニヤして言う宇佐美をしっしっと犬猫を追い払うように手を振る。
だが、ここでなまえを怖がらせてしまうと逃げられ兼ねず、こほんと小さく咳払いして人の良さそうな顔をして《尾形百之助》だと名乗ると、ぽってりと美味そうな、基、血色の良い唇が『尾形百之助……』と呟いた。
少しだけ警戒をといた気がするが、そう直ぐに信じるなよ馬鹿が、と内心溜息を吐く。これが他の男の前でもそうなのかと思うと苛ついて仕方ない。
顔も分からぬ男を殺してやりたいとすら思う程に。
それで先程に話が戻るわけだが。なまえを逃がさないように手を掴んで近くのベンチまで引っ張って行った。
尾形に《で?》と聞かれ、で?とは?と言うに言えなかった――そんな雰囲気でもなかったので――なまえは、へぇ?と間抜けな声を出したのだ。
「今までどこに居た?」
「あ、えと…◯◯支店にいて、数ヶ月前にこっちに異動になったんです」
何処まで教えて良いか逡巡した後、尾形の視線に耐えきれず、ぽつりぽつりと呟く。
その割には出会わなかったな、と尾形はなまえの横顔をガン見しながら思う。
まるで取り調べでも受けているかのような空気感に、なまえは呼吸が上手く出来なかった。
何より、ぴたっと隣に座る男の距離の近さ。
ふわりと風にのって香水の匂いが鼻を擽り、無意識にすん、と嗅いでしまう。良い匂いにくらりと目眩がしそうな気がしたなまえは、何やってるんだと自嘲し、薄らと頬を染めた。
「え、っと…尾形さんは?」
「俺か?……ほら」
「あ、ありがとうございます」
どちらにお勤めですか?とちらりと見遣り、尾形と目が合うと、さっと逸らす。イケメンの目力がえげつない。
名刺入れから1枚取り出すと、ほら、と手渡してくれた。それを受け取り、視線を手元へ移動させる。
「……あの時のこと、覚えてるか」
「あの時……?」
「ははぁ、俺は弄ばれたわけか。酷い女だな」
「!?なっ、何言って!」
頭の中で尾形の肩書きを読み上げていると、足元の影が重なった。尾形の匂いが濃くなった事に気付き振り向くと同時に、至近距離に尾形の顔があり息を呑んだ。
唇に吐息が掛かり、全身の熱が一気に顔に集中する。にやりと口端を吊り上げて囁く尾形から目が離せない。
あの時の事と言われても身に覚えがないのだ。『近いです……』と尾形の胸を押すが、びくともしない。それどころかなまえの手首を掴んでくるくる親指の腹で撫でられ、背中が粟立つ。
困惑してじわりと涙が滲む。嫌なのに、目の前の男を突き飛ばす事が出来ない。尾形の声音に、何故かぎゅっと胸が締め付けられるのだ。
「……お前が俺を変えたんだ。さっさと思い出せ、なまえ」
「っ、」
耳元で甘ったるく囁くこの声音が、今は悪魔の囁きとしか思えなかった。
尾形はなまえのポケットから社員証を取り出すと、『返して欲しければ19時にロビーで待ってろ』と言い、なまえの返答を待たずにその場を去っていった。
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《後書きと言う名の言い訳》
《誰かの願いが叶うころ》《明日世界が終わるなら》《DESTINY》《アイシテル》《DEEPNESS》聴いてたら尾形さんと主やーんってなってめっちゃ捗りました笑 まぁ私の勝手な解釈なので( ´ㅁ` ; )
前世で散々冷たく夢主に接していた尾形さんが、死を間際にした時に愛と罪悪感を知り、夢主が自分の為に命を懸けてくれた事で、尾形さんの胸にすとんと何かが落ちた。
離脱した2人が密かに生活してても良いし、あのまま2人で息絶えて、発見された時にそれはもう幸せそうな表情を浮かべてても良いなぁとぼんやりとした設定にしました。ええ、見切り発車ですからね(𓐍ㅇㅂㅇ𓐍)エェ…
金カム新参者故手探りで書いてますので、おかしなところがあるかと思いますが、ここまでお付き合いありがとうございました!
今後は尾形さんの、お前が俺に愛を与えて変えたんだ責任取れや〜みたいな感じで、押して押して押しまくる尾形さん。夢主を見つけたからにはもう逃がすつもりはない。
前世の尾形さんはどこへやら…:(•ㅿ•`):と言った感じですが、誰か1人にでもお気に召して頂ければ幸いですm(_ _)m