きっと手を繋ぐためにふたりでいる@
夢主が勝手に勘違いしてすれ違う話。
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尾形と何度か会うようになって数日が経った。
多分、尾形の事は好きなんだと思う。けれども、相手から何か言われた訳でもなくて。この関係に名前を付けるなら何なのだろう、と考えることが屡々あった。
体のいい捌け口なのだろうか。付き合って欲しいだとかそう言う訳でもなくて。只、尾形からの呼び出しがある日は決まって身体を重ねていたから、あぁ、自分はセフレなんだなぁと納得せざるを得なかった。そして、それを理解した途端、胸が苦しくなった。
尾形のことが好きなのだと認めるしかなかったのだ……。
自分の立場を弁えなければならないと思った。けれども、心に蓋をして会えば会うほど溢れ出そうになった気持ちをもう隠しようがなくて。段々精神がすり減っていく。そうして夢主が選んだ選択は、尾形と会わないことだった。
残業や用事があると断り続ければ、ぱたりと尾形からの連絡は来なくなった。元々なまえから連絡をする事が殆どなかったから、自然消滅するのも時間の問題だったのだ。
そしてトドメは、尾形と綺麗な女性が一緒に歩いている所を目撃してしまったことだ。
勝手に好きになって失恋していれば世話がないなぁと自嘲する。
それからというもの、仕事に追われるように何でも引き受けた。
そしてそんな時、大きなミスをしてしまった。データの納期を間違えてしまうという失態をおかしてしまったのだ。何とか間に合ったが、同僚や先輩にかなり迷惑を掛けてしまった。
「……はぁ……死にたい」
「そりゃー困る話だな」
「っ!?お、尾形さん……どうして」
「どうしてかって?」
急ぎの仕事は片付いたが、他の仕事が手付かずで夢主1人で処理をしていた。自己嫌悪になりぽつりと呟くと、背後から声がしてびくりと身体を跳ねさせた。
振り向くと、腕を組んだ尾形が聞き捨てならないとでも言いたげに眉間に皺を寄せて立っていた。
「(連絡しても)残業や予定があると断られたら誰だって避けられてると思うだろうが」
「別に避けてる訳では……」
「ははぁ、嘘つくならもっと上手につくんだな」
目を泳がせてしまい、尾形に鼻で笑われる。
尾形は自身の頭を撫でつけると、なまえの隣の席に腰掛けた。
「……にしてもひでぇ顔してんな」
「っ、」
「お前の先輩が見兼ねて連絡してきたぞ」
「……」
尾形はなまえに近寄ると、少しカサついた指でなまえの目元を撫でた。その目元には隈が出来ていて、不健康そのものだった。
「……まだ残ってるので、尾形さんは先に帰って下さい」
「……チッ。貸せ。さっさと片付けて帰るぞ」
「あっ」
ふいっと顔を背けてしまうなまえに尾形が舌打ちする。何がそこまで自分と距離を置きたがるのか理解出来ず苛つく。
尾形は溜息を吐くとパソコンの電源を入れ、なまえの仕事を奪っていった。
パチパチとキーボードを叩く音と紙を捲る音だけがする空間が、今のなまえには苦痛でしか無かった。
嬉しいのに、胸が苦しい。
︙
部署が違うものの、仕事が出来る尾形は難なく仕事をこなしていく。凄いなぁ、と横目で盗み見る。
尾形が手伝ってくれたお陰で1人で処理するよりも早く仕事が片付いた。
ありがとうございました、と尾形の方を向くと、尾形の整った顔がすぐ近くにあり吃驚して目を見開く。抵抗する間もなく、唇が重ねられた。
尾形の胸を押して抵抗するが、がっちりと後頭部を押さえ付けられていて逃げられない。
口内を荒々しく舐る舌に翻弄されて身体が嫌でも震えた。
ぽろり、と涙が零れ一度溢れると止めどなく流れ落ちた。尾形がぎょっと目を瞠る。
『なんで……』となまえがぽつりと呟いた。
「私、もう尾形さんの都合のいい女でいる事が出来ないです…」
「……は?」
「尾形さんの事を好きになってしまったから、」
セフレを辞めたい……と嗚咽を堪えて言うなまえの言葉に、尾形は後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。一度もセフレだと思ったことは無い。寧ろ本気なのだ。本気を通り越して執着までしていると言うのに。
お前が覚えてないだけで、こっちは前世を引き摺ってるし、本当なら閉じ込めてやりたいというのに。祝福を与えておいて逃げるとは許さんぞ、と喉まで出掛けた言葉を飲み込む。
「おいおい、誰がセフレだって?」
「だって、それ目的で呼んでるんですよね……」
「……俺はお前のことが、」
『好きなんだよ』照れ臭くて口をもごもごさせて告白する。はぁ、と溜息を吐いて目元を覆う尾形の耳が真っ赤になっていた。
信じられず一瞬引っ込んだ涙が、今度は嬉しくて涙が出た。今度は尾形がふっ、と柔らかな笑みを浮かべて両手を広げ、なまえは怖ず怖ずとその腕の中に飛び込んだのだった。