遊泳、醒めない夢の中
尾形と付き合っていると言う女が明治にトリップしてきた話
何かしんみりしちゃったな……。
まだ名前変換ないです。
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尾形の恋人だと言う女が突然現れた。何処からともなく。何事かと身構えたものの、此方の状況などお構い無しに女は眠そうに再び瞼を閉じた。
どんな神経をしているのか分かり兼ねるが、尾形の殺気を肩を竦めてやり過ごすだけで、何なら尾形に抱き着いて寝入るのだから、とんでもない奴だと思った。尾形がどう思ったのかは分からないが、ここにいる全員がそう思ったに違いない。
尾形は瞳孔を細めて目の前の女を呆然と見ている。女がぐりぐりと尾形の腹に額を擦り付けると、尾形が息を呑み、ぴしりと固まった。何だか見てはいけないものを見せられているような気がして頬を染めて、目の前にいる子供の目を片手で覆って、杉元も反対の手で自身の目を覆う。けれども、好奇心が勝って指の間から覗き見る。
流石に耐え切れず、尾形はぷるぷると拳を震わせた後女の頭を容赦無く叩いていて、それはちょっとやり過ぎではないかと可哀想になった。
女は痛む頭を撫でながら渋々といった様子で尾形から離れた。
『百ちゃん、何その格好。コスプレ?』と《こすぷれ》というものが何なのか分からないが、きょとんと目を瞬かせて言った言葉よりも、尾形のことを《百ちゃん》と呼び、尾形のことを知っている風なのが気になる。
尾形と女のやり取りを交互に見比べるが、尾形は女のことを知っているでもなく、しかし女の方は尾形のことを知っているみたいで。どういうことだ?と困惑する。
よくよく聞いてみれば『3回ほど交合っていました!』と静寂した空間に響いて、思わず吹き出してしまった。
女もそこまで大きな声で言うつもりはなかったようだが、此方が吹き出したことにより尾形以外にも人がいることに気付いたようである。
君の危機感というか、緊張感はないのかい?と誰もが思ったであろう。
尾形は女の突拍子もない返答についていけず、早々に思考回路を停止させた。
︙
取り敢えずどういうことなのか詳しく聞きたい様子だった杉元さん(ここではそう呼んでおく)達(百ちゃん除く)だけど、夜も更けているから翌朝に話をしよう、とアシㇼパちゃんに言われて、皆複雑そうな顔をしながら寝ることになった。
私はと言うと、百ちゃんの隣で寝たかったけど、百ちゃんが無の顔をして嫌がったから一人ぽつんと蹲っている。
皆が寝静まったのを見計らって、火から離れて太い木の根元に移動すると体操座りをして両膝に額を押し付けて目を閉じた。
そうしたって寝付くことも出来ず、『帰りたい、百ちゃんに会いたい』と呟いた。呟いたことで寂しさが込み上げてきて、涙が流れた。ぐす、と鼻を啜る。
皆寝静まっていたと思っていたけど、不審者がいることを警戒して寝ていなかったのか、私の言葉が聞こえていたようだった。
それを百ちゃん以外が顔を見合わせて切なげに眉尻を下げていた。
本当は杉元君たちのことも知っている私は、そのことは黙っておくことにした。只でさえ怪しいのに、杉元君たちのことも知っていると言えばどんな反応をするか想像に容易いからだ。
醒めない夢の中にいるのではないかと思った。朝になっても景色は変わらず、ここが百ちゃんがいた元の場所では無いことが思い知らされて、泣きたくなった。
顔を上げると、ずっと同じ体勢でいたから身体の節々が悲鳴をあげた。まだ皆は寝ている。
私は物音を立てないように川へと向かった。
水面に浮かんだ私の顔は酷い有り様だった。全く眠れず、泣き腫らして浮腫んでいる。はぁ、と溜息を吐いて冷たい水を掬いあげて顔に押し付ける。指の間から地面に水が零れていく。私は数回繰り返して、最後の一回の時に暫く両手で顔を覆っていた。ぽたぽたと服が濡れるのも気にせずに……。
思い返すのは、ここにはいない百ちゃんの顔だった。ふ、と吐息混じりに笑って私を呼ぶ百ちゃんの声が耳に残っている。今すぐ会って百ちゃんに抱き締めてもらいたい。
くよくよしていても現状は変わらない。戻れるのかどうかも分からないことへの不安はあるけど、生き抜くしかないのだ。唇を噛み締めた後、気持ちを切り替えるために両頬を叩くと、ゆっくり立ち上がった。
︙
踵を返すと、軍人百ちゃんがいて吃驚した。音もなくそこに佇んでいるのだ。心臓が飛び出すところだったじゃないか。
「吃驚した……おはよう、ございます…尾形さん」
「……」
彼を百ちゃんなんて気安く呼ぶべきじゃないだろう。目を逸らして、『戻りますね』と聞かれてもないことを告げる。軍人百ちゃんは黙ったまま、じぃっと此方を見ていた。監視しているのだろうか。
彼を見る度に切なくて、悲しくて、心が悲鳴をあげる。触れられる距離にいるのに、触ることも許されない。何もかも同じなのに、私のことを知らない。
ああ、私は百ちゃんに依存しているのだな、と今更に思う。百ちゃんと過ごす日々は、私にとってなくてはならないかけがいのないものなのだ。
何も言わない軍人百ちゃんの沈黙に耐え切れず隣を通り過ぎようとすると、不意に腕を掴まれた。ビクッと身体が跳ねる。恐る恐る視線を向けると、相変わらず何を考えているか分からない無表情がじぃっと此方を見ていた。
「どうかしました?尾形さん」
「……」
「あの……」
「チッ……いつも通りにしろ」
「ええっと……」
「……」
いや、盛大な舌打ちしたよ、この人。思わず掴んでしまったといったところだろうか。いつも通りということは、百ちゃんにしているようにしろという解釈で良いのだろうか。
「…百ちゃん?」
怪訝な顔をしつつ尋ねると、軍人百ちゃんはこくんと頷いた。うわ、可愛い……百ちゃんがいなくて沈んでた気持ちが少し浮上した。
泣き笑いのような変な顔になっていたかもしれないけど、『百ちゃん』ともう一度軍人百ちゃんを呼ぶと、真っ黒な瞳がきゅっと細くなった。
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《後書きという名の言い訳》
あゆ、宇多田ヒカル、中島美嘉を流し聴きながら書いてたから、ちょっとしんみりした話になってしまったような。
杉元は最初主のこと警戒して敵なら殺すと思ってたけど、主が皆の前では気丈に振舞ってるけど、人の目が無くなるとしくしく泣いてて、不憫に思えて同情する。あと、乙男だから恋の話聞きたいし、何なら元の世界に戻れるまでここにいなぁ?って色々世話を焼き始める。アシㇼパ然り。
猫ちゃんは構われると逃げるけど、相手が離れようとすると構って欲しそうにするんですかね。猫飼ってないんで勝手な想像ですが。馴れ馴れしい主が急に態度変えて素っ気なくしてきたから、いつも通りにしてろって言いたいんだと思います。
いつ書けなくなるか分からないので書けるだけノンストップで突き進むつもりですので、お付き合い頂けると幸いですm(_ _)m