His room is full of coats!




! ヴィータ名バレ有り



人伝の情報を元に人混みを見渡す。
じっと目を凝らせば、先の方に特徴的な姿が見えた。


「ユーゴ!!」
「げっ!」


賑わう人々を掻き分けてその腕を掴めば、この上なく嫌そうな顔が振り返る。
もう冬だっていうのに、相変わらず肌を晒したその姿に思わずため息をついた。


「またお前、こんな寒そうな格好して。今の季節分かってる?」
「毎度毎度うるせえなあ、わざわざ人探ししてまで説教垂れるとか暇人かよ」
「それはいつまで経ってもユーゴがちゃんとしないからだろ!」


あからさまな舌打ちと共に腕を振り払われる。
が、こちらも負けじともう片方の腕を掴み直す。
ちょっと乱暴な仕草をされたくらいで引くような性格はしていない。
そもそも、何年幼馴染みをやってると思ってるんだ。


「だいたい、どうしてコートを買うお金もないって言うんだい。碌に働いていないのは分かるけど、そんなんで凍えて死んだら元も子もないじゃないか」

くどくどと毎年恒例となってしまった忠告をしてやれば、今度は大人しく掴まれたまま聞いてるフリだ。
どうせ、どうやってやりすごそうかなんて考えてるんだろう。


「ユーゴ、聞いてるかい?ユーゴ!!」
「あーもう、うっせえ!お前こそその名前で呼ぶなって何度言えばわかんだよ!!」


耳もばっちり別の方向を向けて全くこっちの話を聞いていない様子に、ぐいと腕を引いて大きな声で呼びつければ、逆に怒鳴り返された。
なんだ、またその話か。

隣の家に生まれ、歳も近く、幼馴染みとして共に育ったユーゴは、いつからか突然『フラウロス』だなんて聞きなれない名前で呼ぶようにと言い始めた。
暴れん坊のユーゴの機嫌を損ねたら面倒くさいということで、みんなその通りに呼ぶようになったけど、僕はその当時から頑なに拒否し続けている。
だって、僕は彼の『ユーゴ』という名前が好きなのだ。


「ふん、お前の名前はユーゴだろ。正しい名前で呼んで何が悪いってんだ」
「俺の名前はフラウロス、だ!」
「本名はユーゴだろ」


本題から外れた言い合いが始まる。


「はっ、何が美しい魂だ。寒気がすんだよ、んな名前」
「なんでだよ。お前にぴったりじゃないか」
「はぁ?」


均等に配置された斑模様に、まるで揺らめく炎のような飾り。
鋭い爪や牙からは野生の気高さを感じる。
それでいて纏った鎧には騎士の誠実さが宿り、瞳には知性が滲む。
獣のような見目なのに四つ足ではなく二つ足で立つ姿には、凛とした力強さがあった。

それは、小さな頃から僕が見ていたユーゴの魂だ。

どういう訳か、子供の頃から僕には人の魂が見えた。
全てのヴィータの頭の上あたりに、その人の魂の形が浮かんで見えるのだ。
といっても大抵の場合ははっきりとした形なんて取れずに、ぼんやりとした何かにしか見えないのだけれど。

そんな中ユーゴだけが唯一、その魂の形をはっきりと僕に見せてくれた。
乱暴者の彼とずっと仲良くしていられたのはそのおかげだ。
どんなに適当でも、どんなに嘘つきでも、その魂がとても美しい姿をしていることを僕は知っていたから。


「ユーゴ、お前は知らないかもしれないけど、お前の魂は誰よりも美しい豹の姿をしているんだ」
「…そういえば昔もんなこと言ってたな」
「僕はお前の魂が美しいって、ずっと知っているからね」


そんなことを言っていれば、毒気が抜けたのか、ユーゴは逃げるそぶりを止めていた。


「だから、僕はこれからもお前のことをユーゴって呼ぶ」
「…そーかよ」


抵抗しないなら、と掴んでいた腕を解放して荷物の中からお目当てのものを取り出す。
それは上質、とは言い難いがしっかりと寒さからは守ってくれる1着のコート。
今年もまたこれを渡すためだけに、ヴァイガルド中を探し回ったのだ。
なんとか冬を越す前にユーゴを見つけられて良かった。


「ほら、これ着ろ」
「おおっ、あんがとな!」
「そのコートこそは売るなよ。そんなに良い物じゃないんだ、二束三文にもならないだろ」


毎年のようにコートを届けてやっているが、次の年には必ずまた薄着になってるんだからどうしようもない。
そんな1年で着られなくなるような物じゃないから、どうせ春前には売り払ってしまうんだろう。
言うことを聞くとは思えないが、これも毎年恒例と一応売らないように言い聞かせる。


「へーへー、分かってるっての。な、どうせだったら再会を祝して飯でも行こうぜ!」
「そうやってお前、僕にたかる気だろ」
「まあ気にすんなって!」


コートを与えればあからさまにご機嫌になったユーゴに苦笑しつつ、大人しく従ってやる。
そっとその頭の上を仰ぎ見れば、豹の耳もピコピコと嬉しそうに跳ねていた。

…ああ、やっぱりこいつの魂は美しい!



xxx



「フーくんのお部屋、なんでこんなにコートがあるの?」
「勝手に入ってくんなよ、ちび」


アジトの自室に勝手に侵入してきたコルソンを追い出して、ぐるりと部屋を見渡す。
言われた通り、ほとんど物がないからこそコートの量が目立つ。
毎年幼馴染から渡されるコートは、どうしてか売り払う気になれなかった。
それなのに何故か毎年着回すこともしないから、1年に1枚ずつコートが増えていく。


きっとまた、来年の冬にはほとんど裸みたいな格好でその辺をほっつき歩くんだろう。
あの馬鹿が新品のコートを片手に、俺を見つけ出すのを待って。


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