ラッキーストライク、のちにキリマンジャロ

「愛也」
「ん?んぅ、」


燐音とのキスは好きだ。
好きで好きでしょうがないその悪戯っ子みたいな顔が近付いてきて、少しかさついた唇が触れるのが心地好いし、普段は荒々しいのに壊れ物に触れるかのようにそっと触れてくるのが愛おしい。
20歳になった途端に吸い始めたタバコの苦味をわずかに感じるのも、遠い日々がほんのりと思い出されてたまらなかった。



「ちょっとお、僕ん家でいちゃつかないでくれません?」


不意打ちで与えられたキスに夢中になっていれば、背後から呆れ返った声がする。


「んだよニキ、邪魔すんな」
「いやいや人ん家で今にもおっぱじめそうな雰囲気出されたら止めるに決まってるでしょ。ご飯できたんだからさっさと机片してくださいよ」
「悪いな。ほら燐音、雀牌しまって」


テーブルの上に所狭しと料理が並べられていく。
流石の手際の良さで作られた料理たちはどれも見栄えバッチリだ。


「だいたい愛也くんは久しぶりのお休みなんでしょ?僕ん家じゃなくてどっか出かければいいじゃないっすか」
「ニキきゅん分かってねえなァ〜。愛ちゃんは今をときめく<王子様>だぜ?」
「そこは変装とかでなんとかなるんじゃないっすかあ?」
「却下。わざわざめんどくせえし、一応燐音だってアイドルだかんな。男同士でラブホでも入んの見られたら流石にやべえだろ」


徐々に徐々にメディア露出が減っていった燐音だが、今も変わらずアイドルとして事務所に籍がある。
それでいて競馬にパチンコ、ボートレースなんてアイドルらしからぬ場所に行きまくってるんだ。
ただでさえギリギリの状態なのにそれ以上のスキャンダルなんて起こさせるわけにはいかない。


「だからって僕ん家をラブホ代わりにされるのは許可しかねるっす」
「だってよ、燐音」


それでも俺たちが会うにはニキの家以上の場所がないのは事実で。
俺の自宅周辺はいつもパパラッチが見張ってるから、素行があまりよろしくない燐音を連れ込むのは厳しい。
本音を言えば一緒に買い物とかも行きたいところだけど、実行に移せずにいるのはその問題のせいだ。
俺が〈王子様〉でいるためには、周りにおく人間も選ばなきゃいけない。


「はん、俺っちもここに住んでんだから俺っちの家でもあんだろ」
「あんたはただの居候ってかヒモっす!もうやだ!愛也くんさっさとこの人引き取ってくださいよお!」
「俺だってできんならそうしたいんだけどなー」


オフの度に毎回ここに来ては似たようなやりとりを繰り返す。
ニキだってなんだかんだ言って無理やり追い出したりしないんだ、案外楽しんでじゃねえかとも思う。




そうやってぎゃいぎゃい騒ぎながら食卓をつついていれば、たくさんあった料理はあっという間に姿を消す。
まあ、その大半はニキの胃袋に収まったわけだが。


「ごっそーさん」
「お粗末様でした」


食後のコーヒーまで飲み終えて、一息つく。
相変わらずニキの作る料理は絶品で、この家の居心地の良さを加速させる。

作ってもらうばかりは悪いから食器洗いくらいはと食器を重ねて流しへと向かえば、とてとて、と足音が追ってくる。
どうせ燐音だろうから、わざわざ振り返って確かめるようなことはしない。
ついて来るだけついてきて、特に何もせずに俺が皿を洗い出すのを眺めているようだ。



「んっ」


洗い終えた皿を水切りに置くと、待ってましたとばかりに腰に腕が回されて抱きつかれる。
急にどうした、と肩越しに顔を覗き込めばそのままキスが落とされた。
合わせた唇から伝わってくるのはタバコではなく、コーヒーの苦味。

軽くちゅっちゅっと吸い付いてくる燐音がなんだか可愛くて、体ごと向き直ってその首に手を回そうとしたところで、リビングにいるニキから苦情が飛んできた。



「だからいちゃつくなら出てってくださいよお!」
「あーあーニキきゅんはキャンキャンうるせえなァ。おらっ麻雀やろうぜ!脱衣麻雀な」
「絶対に嫌っす!」




ぶつくさ文句を言うニキも無理やり巻き込んだ麻雀は当然のように盛り上がり、俺は愛しい恋人に美味しい食事、気のおけない友人とのひと時というオフを満喫した。

なお、誰が脱衣したかは想像にお任せする。


煙草吸ってるって話あったっけ?って思いながら書きました。
吸ってるなら絶対ラッキーストライクであって欲しい、そんなアレです。