マレ白1200日記念

棺から外の光景を目の当たりにして幾つ太陽が昇っただろうか。長い時間いることは把握しているつもりではあるが、この世界では夕日が見えなく一日を越す瞬間が分からない場所が多々ある。時間と言えば、このツイステッドワンダーランドにも、三六五日という一年の日数が用意されているらしい。ルが十数年を過ごした前の世界でも三六五日は一年の日数とされていた。向こうと共通するものが多いのか、たまに向こうの世界と此方の世界は大差ないのではと思うが、其れは間違った思想である。此の世界には、喋る猫がいたり、角が生えている者だっている。
── そう此のマレウス・ドラコニアのように。
「──ってツノ太郎!?何でオンボロ寮に…というか、何時入ってきたの?」
「僕はずっといたぞ、人の子が珍しく魂の抜けた亡骸のようになっているからどうしたのかと思ってな」
此の男は魂の抜けた亡骸を見たことがあるのだろうか。此の世界は魔法が使えたりするが、そんなこと減多にないだろう。然し、マレウス・ドラコニアとなれば、別になってしまう程、彼は非現実的な体験を幾つもしてきた。其のお陰かは知らないのだけれど、学園の生徒たちからは噂が絶えない上一目おかれている。
そんな彼でも、橘花皙という存在は所謂例外であったのか非常に愛でている。其の愛の度合いを測ろうとする等、永久に困難な道程になるであろう。
「いや、私が此の世界に来てから何日たったんだろうなって思ってさ」
「一二〇〇日だな」
「へぇ〜。何で分かるの!?」
まるで皙のことなら調べ尽くしているかのような彼の行動、言動は彼女自身未だに耐性が付いていなく、度々驚きを隠せないでいる。それにしても、一二〇〇日。あっという間というものだ。人間はどんなものでも、数字で表すと規模を自分の中で勝手に比較してしまうものだが、一二〇〇日という日数を聞かされるとなると、比較すらする気になれない。
「じゃあ、ツノ太郎と会って沢山の日にちが経ったんだね。早いな〜」
オンボロ寮の前に佇んだ巨大な生物。其れがマレウスに対する初めての感情だった。理解が追い付かない此の世界において、最初は全てに危険性が感じられた。小さな小動物すら凶暴になる此の世界。マレウスの身長を目の当たりにすれば、本能が物語るというものだ。然し、今は其れとは反対の方向に感情は向いている。確かに、度合いを測れない性格なのか、特定の場所を破壊したりすることはあったような気もする。
其の分、友人と思える者に対しての愛は絶大で、彼はただ不器用なだけではないか、と皙は思うようになった。其れからというもの、彼と過ごしてきた此の一二〇〇日に二人は恋心というものが、芽生えていた。初めは夢だと思っていたのに、其れを否定するかのような感情。酷く長い夢、覚めないような夢。覚めないような夢ではなく、元から夢ではなかった。
然し、不思議と幸せな現実だった。
皙は、此の世界に適した逸材なのかもしれない。今、前のいた世界に戻れば寧ろ困惑してしまうだろう。其れに、マレウス・ドラコニアと離れてしまうのが、大層嫌である。毎日人の子、と自分を呼び掛けてほしい。淡い恋心をずっと備えていながら、彼女はそう思った。
「マレウス、これからも沢山思い出作れたらいいよね」
「僕にとっては今も思い出だ」
皙にしか与えられない其の笑みは、酷く優しい表情をしていた。こんな笑顔を見てしまったら、寝られずに思い出してしまうじゃないか。相変わらずのマレウスの愛情深さに溺れ掛けながら、二人は月明かりの下、今まで体験した話を互いに口に出しあった。