ギュッてして!

「マレウスの力が強い?」

こて、と首を傾げたリリア先輩はそんじょそこらの女の子よりもずっと可愛くて絵になる。謎の敗北感を感じながら、そうなんですと彼の言葉に頷いた。
ツノ太郎は力が強い。妖精族の中でも特殊なドラゴンの末裔だからか、他の人──と言っても比べたのはエースとデュースで、それも握手くらいだけど──よりもずっとずっと素の力が強いみたいだ。初めてハグした時は思ってたよりも力強くギュウッとされたから、うおっ、と思わず溢れそうになる可愛くない声を命に抑えたのを覚えている。
という話をマイルドめにしてリリア先輩に相談しているのだが。

「うーん、そうじゃなあ。マレウスも男の子じゃし……」

好きな子と抱き合うなんてことになれば、ちょっとはっちゃけたんじゃろ。
天啓!と言わんばかりに人差し指を立ててドヤ顔してくる先輩に頭を抱えた。

「そんな適当な……」
「そうか?わしに言わせればマレウスもまだまだ子供じゃぞ。それにしてもマレウスの番になる娘にそんなことを言われる日が来るなんて思わなんだ」

くふくふと堪えきれない笑い声が聞こえる。随分とまあ可愛い顔で笑ってくれるものだ。こ、小悪魔め…。

「まあわしに言って解決する話じゃないしな、そのままマレウスに言ってやれ」
「もしもツノ太郎がショックで灰になったらどうしてくれるんですか……」
「マレウスがWWWWショックで灰にWWWヒィ
WWWWW」

若様が灰になるわけないだろう!!!!!!!というセベクの幻聴が聞こえるけど、頼むから今はどこかに行ってて欲しい。
でもほんとにどうしよう。このままじゃいつか私の背骨が限界を迎えてしまう。ツノ太郎はギュッてする時すごく婚しそうにしてくれるのに……。
あー面白かった、と瞳から涙を払うリリア先輩を見ながら、しょんぼりしてるツノ太郎はあんまり見たくないんだけどな…と考えをめぐらせた。

「というわけで、」
「?どういうわけだ」
「いいからいいから、」

いい案を思いついた私は、その日の夜にオンボロ寮に現れたツノ太郎をソファに座らせ、リリア先輩に言われた通り、抱きしめられるとき力が強くて正直痛いという話をした。そしたらやっぱりツノ太郎はちょっとショックを受けたような顔をして、しょぼ…と分かりにくいけど落ち込んでいるように見える。もしツノ太郎が獣人だったら垂れた耳と装備したしっぽが見えたと思う。

「シロは僕に抱きしめられるのが嫌なのか…?」
「そんなことないよ!」
「でも、僕が抱きしめたら痛いんだろう…」

ソファでクッションを抱えてしょぼくれているツノ太郎は申し訳ないけど少し可愛い。よしよしと頭を撫でてからツノ太郎に抱きつくと不思議そうな顔をするものの、先程話をしたばかりだからか、抱き返しては来ない。当たり前といえば当たり前だけど少し寂しい。

「シロ?何を……」
「私がギュッてするから、ツノ太郎は同じくらいの強さでギュッってしてくれたら痛くないよ!」
「…わかった」

抱えていたクッションを横に置き直して、私と同じくらいの強さで抱きしめてくるツノ太郎。うーんもうちょっと強くてもいいかも…?
「こうか?」
「あ、それは痛い!」
「……難しいことを言う…」

ああでもないこうでもないと2人して試行錯誤しているうちにちょうど良い塩梅を掴んだらしい。私の肩に額を擦り寄せて、今度こそ痛くない強さでぎゅう…と抱きしめられる。
ずっとくっついていたから、人間よりちょっと冷たいくらいのツノ太郎もぽかぽかで暖かい。

「お前は温かいな……」

ぼつりと小さな声を漏らした彼に、ツノ太郎もぬくぬくであったかいよ、と返すとそうじゃないんだが…みたいな顔をされてなんだか変な気持ちだ。じゃあなんなんだ……?

「僕が言っているのはシロの心の話だ。」
「心?」
「痛いと言うなら、僕を遠ざければ良かっただろう。でもお前はそうしなかった」

まあ、今更手放す気もないが。と続けるツノ太郎に心臓がギュッとなる。なんだか無性にこの人を暖かくしたくて、もっともっと強い力で抱きついた。
私が全力で抱きついたところでツノ太郎の心があったまるかなんて分からないけど、ツノ太郎が嬉しそうに息を吐いてぎゅうって抱きしめてくるからなんでもいいやって思った。

「あ、まって!いたたた!」
「何故だ?シロより少し強い力で抱き締めればいいんだろう?」
「私の力に比例させようとしないで!!」

やっぱり全力で抱きつくのはやめよう…。