誕生日のいただきもの
「さ、さむーい!」「寒いんだゾ〜!」
寮の扉を開けた途端吹き抜ける乾いた冷たい風に、思わずグリムと身を寄せ合う。冬になったナイトレイブンカレッジには雪も積もるし、このままでは寒すぎてグッピーも死んでしまう。トレイン先生のとこのルシウスも早々にダウンしてしまうだろう。
「今日は比較的暖かいと思ったのにな…」
「ううう、はやく建物の中に入るんだゾ……」
妖精たちの管理する魔法石のおかげで空調管理の行き届いた学内は夏でも長袖で過ごせるくらい快適だ。氷が張ってつるつるになったメインストリートを、滑らないように気をつけながら一人と一匹で寒空の下を急いで進んだ。
ーその日の夜。
「へくしっ!」
ぞぞぞ〜っと寒さに背筋をふるわせる。読んでいた本に栞を挟んで、膝にかけていたブランケットを手繰り寄せる。腕の中にグリムを抱き込めば、先程よりもずっと暖かくなって安心した。
「グリムは湯たんぽみたいだね」
「何だとー!? オレ様は湯たんぽなんかじゃねーんだゾ!」
うにうに言いながら暴れる小さな相棒は文句を言いつつ私の腕から抜け出したりしない。よしよし、と灰色の毛並みを撫でてやる。きっとグリムも寒かったんだな……。
体温のことを考えていてふと頭をよぎったのはツノ太郎。妖精族だからか、ツノ太郎の肌はひんやりしていて夏にはぴったりだ。ツノ太郎で涼んでるなんてバレたらセベクの雷鳴のような小言が飛んでくることは間違いないんだけど。
「僕を呼んだな?」
「ワ゛ッッ!?」
後ろからにゅっと現れた大きな影に、思わず大きな声が出た。いつの間に来たのか、まわりには緑の光がぽわぽわと浮かんでいる。ツノ太郎だ!
「やい、突然出てきたらビックリするだろ!」
「?僕は驚いたりしない」
「オマエの話じゃないんだゾ!」
ぷんすこしているグリムを横目に飛び跳ねた心臓を落ち着かせておくことにした。ツノ太郎とグリムの噛み合っているようで噛み合っていない会話を聴きながら、ふう、と一度大きく息を吐く。
「えーと、ツノ太郎はどうかしたの?」
「…会いに来てはいけなかったか」
「そんなことないよ!突然だからびっくりしただけ!」
少し拗ねたような顔のツノ太郎に慌てて言葉を返した。私の慌てようが面白かったのか、ふ、と微かに笑ってくれたので良しとする。
「そうだ!ツノ太郎もなにか飲む?この間学園長から紅茶貰ったんだ」
「頂こう」
「分かった!ちょっとまっててね」
紅茶を無事に入れ終わったカップを出した時、手がツノ太郎の白いそれに触れた。
「つめた!え、ツノ太郎手冷たいね…」
「そうだろうか、僕は普通だと思うが…」
「うーん、平均よりもひんやりしてると思うな」
「ツノ太郎、オレ様に触る時はぬくぬくにしてからにするんだゾ」
「……」
ツノ太郎は急に黙ってしまった。どうしたんだろう。
何かを考え込んでいる彼はじっと私とグリムの手を見ていた。
「おいシロ、シロ!すごい雪なんだゾ!」
グリムの大きな声に微睡みから目を覚ます。小さな相棒の横に並んで覗けば、夜も雪が降っていたのか外にはたくさんの雪が積もっていた。振り続ける雪にまるで世界がマシュマロに包まれたみたいだ……と思いながら、寒さに身震いした。
「オレ様雪合戦したいんだゾ〜!」
「こら、先に課題やらなきゃダメだよ!」
「ちぇっ」
ふと元の世界の某チョコレート製品を思い出したけど、あんなにチョコが降ってきたら大惨事だな…..。
パジャマから着替えてグリムと私の分のホットチョコレートを用意する。ゆったり談話室でマグカップを片手に課題をこなしていくと、コンコンと寮の扉を叩く音が聞こえた。こんな雪の日に誰だろう?またエースがリドル先輩に首をはねられたんだろうか。
廊下の明かりをつけてドアノブをひねると、いつもとは姿の違う友人の姿があった。
「な、なんか今日はモコモコしてるね!」
ひと目で上等だと分かるふわふわのマフラーに暖かそうな濃紺のコート。手袋までしていつもよりももこもこに着膨れしたツノ太郎が頭に雪を積もらせて立っていた。
彼が風邪をひいてしまったら困るので、急いで手を引いて寮の中に招いた。
「学園内って適温に設定されてるんだよね?それ暑くなかったの?」
「暑いが……」
本当に暑かったのだろう、室内に入って雪を魔法で払った途端、ツノ太郎は手袋を外した。ほんのり汗ばんでいる気がする白い手が私の手を掴む。前とは違ってぽかぽかで暖かい。
「わ、あったかい!」
思わず彼の手をぎゅ、ぎゅと握ると、得意げに笑ったツノ太郎はこう言った。
「これなら僕の手も冷たくないはずだ。お前の傍にいても問題ないだろう」
グリムの話って私にも適応されてたの!
つのたろ
あっつい(物理)