4.隠密スナック!
「女の子の悲鳴だ!!」
だめです私にはできない どうかご勘弁を…お許しを
でもどういうことなの?
姫君を妬んで亡き者にと…逃げなさい!
あの裏切り者め!
私のこの美しさを世にも醜い姿に…
いざ…見せよ その魔法の力を
これなら誰にもわかるまい
あの子の命をもらうには…
どんな方法がよかろうか?
だめです私にはできない どうかご勘弁を…お許しを
でもどういうことなの?
姫君を妬んで亡き者にと…逃げなさい!
あの裏切り者め!
私のこの美しさを世にも醜い姿に…
いざ…見せよ その魔法の力を
これなら誰にもわかるまい
あの子の命をもらうには…
どんな方法がよかろうか?
また……あの、不思議な夢……?
ぼんやりする意識の中で、何かあたしを呼ぶ声が聞こえた。
「んぅ……グリム……?」
「やっと起きたか。黙ってオレ様と一緒に来るんだゾ。みんな寝てるからな。足音を立てるんじゃねーんだゾ!」
え? 何? と思うけど、グリムは静かにしろっていうだけで答えてくれなかった。こんな時間になんなんだろうって思いながら、ついていくと、そこは談話室で、すでにエースとデュースの姿があった。
「あ、来た。こっちこっち」
手招きするエースに、あたしはなんだか嫌な予感を覚える。
「やっぱ夕食あれだけじゃ食った気しなくってさあ。冷蔵庫にトレイ先輩のお土産のタルトがあること思い出して。オレ、食べ物を粗末にするのは良くないと思うんだよね〜。トレイ先輩、今日中には食べろって言ってたし」
「僕は食べにきたわけじゃないぞ。み、水! 水を飲みにきただけだ」
「夜にこっそり盗み食いするおやつは、昼間の100倍美味いんだゾ。ぐひひ!」
やっぱり! そんなことだろうと思ったぁ〜!
あたしは慌てて「でも、」やめた方がいいんじゃないかなぁって声に出そうとするけど、グリムのほうが早くて、さっそく冷蔵庫を開けてた。
「オレ、チョコレートケーキにしよっと」
「オレ様はアップルパイがいい!」
「僕はなにも見てない。なにも見てないからな」
そうやってケーキから目をそらすデュースだけど、エースに「デュース、ちょっとこっち向いて」って言われて見事に引っかかって、口の中にケーキを突っ込まれてた。なーむー……。
「トレイ先輩のお手製アップルパイ。口に入れたからには、お前も共犯な」
「はぐはぐっ! う〜〜〜ん、ごろごろ入った林檎が罪の味なんだゾ」
「もごもご……ごくん。く、口をつけたものを残すのももったいない、一切れだけなら……」
「取り上げられた炭酸ジュースものんじゃおっと」
ああ……もうダメだ……。パーティーがはじまってしまった……。
エースの「しろも飲めよ」なんて悪魔の囁きが聞こえる。グリムの「これ美味いんだゾ! しろも食べるんだゾ」って無邪気な誘惑が強烈だった。あ、あた、あた……あたし、は……!
と思ってたら、パチッと談話室に明かりが灯る。それと同時に、コーチの声が聞こえた。
「あらあら、夜中にキッチンでなにをしているの? 子ネズミたち」
「ふなっ!? この声は……ヴィル!」
お、終わった……。
「言いつけを守れない悪い子は、お仕置きよ」
「オレら育ち盛りっすよ! 夜中に腹減るのくらい当たり前じゃん」
「ハーツラビュル寮生としては、クローバー先輩の手作りスイーツを無視することはどうしてもできねぇっていうか……!」
ああ、もう……2人とも、そんな余計なことは……!
あたしがわたわたしてると、ヴィル先輩は「――そろそろ時間ね」とつぶやく。それがどういう意味なのかわかるのはすぐだった。
「うっ!?」
「ふがっ!?」
「ぐっ!?」
「わぁあ!? み、みんなどうしたの!?」
急に倒れたみんなにあたしはそばに駆け寄る。体がしびれて動けないみたいだった。
「ま、まさか、冷蔵庫の食べ物に毒を……!?」
「ふっ……毒じゃないわ。それは"呪い"」
「の、呪い……!?」
毒も困るけど、呪いもなかなかに物騒なんじゃ……!?
「これはアタシのユニーク魔法。『
その呪いをヴィル先輩は没収したものにかけていたらしい……。ヴィル先輩が付与した呪いは、これを口にした人は、翌日の陽が昇るまで動けなくなるっていう、強烈な呪い……。つまり、グリムたちは朝陽が昇るまではこのまま、ってこと……!?
「『VDC』本番まで、砂糖や添加物たっぷりの食品は控えるようにと言ったわよね? 代表メンバーに選ばれた自覚がなさすぎる! 罰として、その硬い床に朝まで転がってなさい」
き、厳しい〜!! でも、ヴィル先輩はそれだけVDCにかけてるってことだし、選抜メンバーに選ばれたくても、選ばれたなかった人たちもいるんだよね……。あと4週間……この砂糖と添加物断ちの生活が続くのか……。
「マネージャー」
「は、はいっ!」
「アンタは食べ物を口に入れなかったようだから今日は見逃してあげるけど……。舞台に上がらないからって、甘えないことね。アンタもジャガイモみたいに床に転がされたくないなら、さっさと部屋に戻りなさい」
あたしはあまりのヴィル先輩の迫力に、「わ、わかりました……」としか言えなかった。グリムの泣く声に後ろ髪をひかれながらも、あたしは『みんな、許して……!』と涙をのんで部屋に戻った。
部屋に戻ると、鏡が光って、ミッキーとまた会えた。話をしていくうちに、もしかしたら鏡の向こうはどこかにつながっているんじゃないかって思ったけど、それはまだ確かめることはできそうになくて……あたしの不思議な夢は、まだ、続いているみたいだった。
その次の日は、朝練がはじまるとかで、ルーク先輩が知らせに来てくれた。エースたちはあのまま硬い床の上で朝を迎えたみたいで、身体の節々を痛めてのスタートで、どこかダルそうだった。
それでも、みんな歌詞を覚えてきてたのはすごいと思う。さっそくみんなで歌ってみると、あたしはなんだか感動しちゃって、歌が終わると同時に拍手をした。
「す、すごい……! プロの歌手みたい……!」
「お……おおお……おお〜〜〜〜〜っ!! やべー! メインボーカルチームの歌声に聞き惚れちまっていつのまにかコーラス忘れてたぜ!」
「おい、それじゃダメだろう」
「それぐらい、良いってことだよ。身体が自然に踊りだしちまう!」
カリム先輩と同じようにルーク先輩とデュースも同調する。あたしも同意するようになんどもなんどもうんうんと頷いた。
「フン。これぐらいで騒がないで。まだまだメインもコーラスもガチャガチャ。メインも音を外していたし、コーラスは前に出過ぎ」
でも、ヴィル先輩の求めるレベルにはまだまだ遠いみたい……。ヴィル先輩は的確な指導をいれて、次はダンスを交えたレッスンに入る。踊りながら歌うのはさっきよりもっと大変で、何度も何度もやり直して、修正して、そんな地道な練習を何日も重ねた。
その数日後だった。エペルが歌の練習をしているとき、それは起きた。
「いつか林檎のような赤 朽ちてく 誰も超えられない」
「ああもう、ダメ、ダメ! いったん音止めて」
「あ、は、はい」
あたしが怒られたわけじゃないけど、心臓がバクバクする。ルーク先輩がヴィル先輩にどうしたのかって声をかけると、ヴィル先輩は「エペル!!」と大きな声でエペルの名前を呼んだ。
「エペルはメインボーカルだし、それだけ期待されてるってことだろうが……」
「オレ様、「音止めて」って言われるたびにしっぽが後ろ足の間に入っちまうようになってきたんだゾ」
空気がピリピリするのにはあたしも慣れないよ〜。ヴィル先輩も意地悪で言ってるわけじゃないのは分かるんだけど、エペルはなんだか、あまり乗り気ではないように見えるし……。それがわかるからか余計ヴィル先輩も口を出すことになって、エペルがまたやけくそ気味になって悪循環になってるっていうか……。
いつか爆発したりしないよね、と思ってたけど、そのいつかは今日だったみたい……。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ俺は、っ……俺は、可愛くなんかなりたくないっ!」
「は?」
「ポムフィオーレなんかに入りたくなかったし、『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』にだって出たくねえ! 俺はこんなお遊戯するためじゃなく、強くなるためにナイトレイブンカレッジに来たんだ! 俺がなりてぇのは、なよっちい男でなぐで、たげでがぐで、たげ強くて、たげ逞すい男だ!!」
え、エペル……。
はらはらしながら流れを見守っていると、ヴィル先輩がため息をついた。
「呆れた。思い通りにならないからって癇癪を起していいのは、3歳児までじゃなくって? アンタは"愛らしい"と"強い"が別もののように話すけど、その2つはどちらも等しく"パワー"よ。それがわからないようじゃ、いつまでたってもアンタはアタシに勝てない」
「うるさいっ! もういい。もうやめる」
もうやめるって……まさか……。
「俺は、このチームを抜ける!!!」
「「「「えぇっ!?」」」」
や、やっぱり〜!!
ヴィル先輩どうするの!? って思ってたら、ヴィル先輩は冷静なまま、"いつもの"とかいうものを始めようとしてた。
「しろくん、大丈夫だよ。これは喧嘩ではないから」
「え、ええ……でも……」
ジャミル先輩に同意するようにあたしも頭を縦に振る。けどルーク先輩は余裕そうに「まあ、みておいで」というだけで、マジカルペンを出した2人を見守っていた。……どうみてもこれ、喧嘩じゃない!!??
結局、2人の喧嘩……は、ヴィル先輩の勝ちで、負けたエペルは悔しそうに涙をのんでいた。さすがにちょっとエペルが可哀想な気がするけど……ヴィル先輩も間違ったことを言ってるわけじゃないし……む、難しい……。
「いいこと、エペル。初めて会った日にも言ったけど……自分の思うままにふるまいたいなら、強く、美しくなりなさい。子どもじみた駄々をこねるのはやめて、レッスンに戻るのよ」
「じ、じぐじょお…………っ!! 俺は、俺は…………ううっ!」
「あ、エペルっ!」
エペルはバタバタとボールルームから出て行ってしまった。心配そうにエペルを呼ぶデュースに、ヴィル先輩は放っておくように言った。
「放っておきなさい。これくらいで挫けるようならそんなメンバーはこっちからお断り」
「……その言い方はないんじゃないですか?」
けど、ヴィル先輩のスタンスはデュースには受け入れがたかったみたいで、今度はデュースがエペルをかばうようにヴィル先輩に噛みついちゃった。
「あいつはあいつなりに、歌も踊りも頑張ってました。なのに……」
「――努力すれば報われるだなんて、甘えないで!!!」
でも、そのかばい方は逆効果だったみたいで、ヴィル先輩の怒りを買ってしまった。
「だいたい新ジャガ2号。アンタは他人を心配してる余裕があるの? ダンスも歌も他のメンバーにかなり遅れをとってる。同じ時期にダンスを始めた新ジャガ1号に比べても差は歴然。自分が足を引っ張ってる自覚、ないとは言わせないわよ」
「それは…………っ」
「チームきってのお荷物が、一丁前な口をきかないで」
「…………、すんません」
お、オーバーキル……。すっかり消沈した様子のデュースになんて声をかけようって思ってると、先にエースが声をかけた。それはもう、いつも通りに。なんの悪気もなく、話しかけた。
「あーあー、怒られた。
「…………ッ!! うるせぇな!!
わかってんだよ、そんなことはッ!!!!」
あ、あ〜……こ、今度は、こっちが……!!
「えっ、なんで急にキレてんの」
「"要領がいい"お前には、わかんねぇよ!」
そういって、デュースまでいなくなってしまった。さっぱり意味が分からない様子のエースに、あたしとグリムは顔を見合わせる。
「今のはちょっと無神経だったかも……ペースはやっぱり、人それぞれだからさ……」
「エース、オメーもうちょっと相手の気持ち考えたほうがいいんだゾ」
「それ、グリムにだけは言われたくねーんだけど?」
その日はもう練習になりそうになくて、休憩を挟むことになった。
あたしとグリムは、どうしてもデュースが気になって、デュースを追いかけることにした。きっと、今頃冷静になって後悔してるだろうから。
探してみると、デュースはポムフィオーレの寮の前にいた。元気がなさそうな後姿に、あたしたちは予想が当たっていたことを察して、落ち込むデュースに声をかけた。
「デュース! こんなところにいた」
「優しいマネージャー様が、ドリンクを持ってきてやったんだゾ」
「しろ、グリム。悪い、飛び出したりしちまって」
「まったくなんだゾ。オマエらが大会で優勝してくれねぇとツナ缶富豪の夢がパァだ。だからエペルもオメーも、早いとこ立ち直って練習に戻るんだゾ」
「はは、ほんとグリムはブレないな。……羨ましいくらいだ」
いつも通りのグリムに、デュースも少し落ち着いてきたみたいだった。よかったとほっとすると、グリムがどうしてヴィル先輩とエペルのいざこざに首を突っ込んだのか疑問をぶつけていた。
「バカなことをしたって、僕も思う。でも、中庭の井戸の前で出会ったときから、ずっとエペルのことがひっかかってて。……たぶん、僕とあいつは似てるんだ」
「えぇ? オメーとエペルが? 顔も性格も全然違うんだゾ」
「うまく言えないんだが、『変わりたいけど、変われない』っていうか……でも自分を変える方法がわからなくて、ジタバタしてるっていうか」
自分で言葉にするともどかしさを感じたのか、デュースは「あー、くそ」と声を上げた。
「エースの言うとおりだ。僕はバカで要領が悪いから上手く伝えられない。悔しいな…………」
「その悔しさは、青春の甘い痛みさ! ムシュー・スペード!」
「どうしたどうした!? 元気出せよ!」
「「「うわっ!!??」」」
突然現れたルーク先輩とカリム先輩にあたしたちは驚きの声を上げる。そろそろダンスレッスンが再開するからって、2人とも様子を見に来てくれたらしかった。
「ボールルームには戻れそうかい?」
「…………僕、戻ってもいいんでしょうか」
「え? あたりまえだろ」
「シェーンハイト先輩にも言われたけど、足を引っ張っている自覚はあるんです。メンバーに選ばれたからには頑張ろうと思ってる。でも、このままじゃ……」
デュース……。あたしが思ってたよりずっと、デュースは気にしてたんだ……。なんていったらいいんだろう? 元気出して? これからまた頑張ろう? どれも違う気がする……。
あたしがなんて声をかけようか迷ってると、ルーク先輩が珍しく先輩にしては厳しい声を投げかけた。
「うぬぼれてはいけない、ムシュー・スペード」
その声は、厳しさの中にも、デュースを温かく見守るような、そんな響きが込められていたように感じた。
「キミたちはまだ、卵の中の雛鳥も同然。殻も破っていないうちから、自分の限界を決めてしまうのはナンセンスだ。美しい囀りも、山脈を飛び越える羽根も、卵の中で蹲っているだけでは手に入らないよ」
「ハント先輩……」
「大丈夫。私にはずっと聞こえているんだ。コツコツと硬い殻を破ろうと奮闘するキミたちのくちばしの音がね」
ルーク先輩は、卵の中にいる雛鳥のくちばしの先端に、殻を破るために硬く尖った卵歯があることを教えてくれた。それは成長するにつれなくなってしまうものだけど、雛鳥の頃にしかそれがないように、今のあたしたちにしかない"パワー"があるはずだって教えてくれた。
今の……あたしたちにしかない、"パワー"……か。
「私は……いや、きっとヴィルも。楽しみに待っているんだよ。キミたちが、分厚い殻を破ってくれるのをね」
「今の僕にしかない、強さって……うぅん……。……………………。……………………ダメだ。いくら考えても、少し足が速いことくらいしか思い付かない。頭も、要領もよくない。僕のいいところなんて……」
デュースのいいところかぁ……。あたしは、そんなまっすぐなところも十分いいところだと思うけどな……。
「なぁ、デュース。お前、そうやって頭でいろいろ考えちまうから良くないんじゃないか?」
「え?」
「自分が馬鹿ってわかってるのに、なんでわざわざ脳みそ使って答えを出そうとするんだよ。お前をみてると、利き手と逆の手で字を書いて、『オレはなんて字が下手なんだ〜!!』って叫んでるように見える」
……あ、そっか……。自分が苦手なことをずっとしてても、上手くいかなくて当たり前なんだ。デュースの得意なところにもっていけたら、きっと……!
「確かに。デュースがうんうん考えたアイディアって、たいていろくな結果にならねぇんだゾ。エースを投げつけてオレ様を捕まえようとして、10億マドルのシャンデリアぶっこわすとか」
「た、頼む。その話はもうやめてくれ」
あ、はは……あれは忘れたくても忘れられないよね……。今思うとなんだか懐かしさすら感じるよ……。
「オレもよく考えなしだとか、能天気すぎるとかジャミルに言われるけどさ。落ち込んでも、食って寝て踊ればすぐに「なんとかなるさ」って忘れちまえる。それはオレの良いところだって、自分で思う。だからさ、ダメに感じるところにも、良いことはあるっていうか、上手く言えねえけど」
「逆転の発想ですね。短所は長所にもなりえるっていうか」
あたしがそういうと、デュースはなにかひらめいたみたいに明るい表情を浮かべた。
「……そうか。そういうことか……! ありがとうございます。アジーム先輩、ハント先輩。僕、少しだけ見えた気がします!」
「おお? そりゃ良かった!」
「あの、最後に1つ質問いいでしょうか」
「ウィ。私たちで答えられるならなんなりと」
なんだろう? って思ってると、デュースはどこか真面目な顔で、尋ねた。
「この学園で、アレを借りられるところを知りませんか?」
「「アレ?」」
アレとは……いったい……??