ジューンブライド

「6月…ジューンブライドの月だ」

あたしがふいに放ったその言葉は、どうやら貴方には耳馴染みがないようだった。

「ジューンブライドとは何だ。茨の谷では聞いたことがない言葉だが」

不思議そうに尋ねてくる姿が可愛くて、自然と笑みが零れる。

「あたしのいた世界ではね、6月に結婚式をあげると一生涯幸せでいられるっていうジンクスがあるの。
素敵なお話だよね、あたしも結婚するなら式はやっぱり6月にしたいなぁ」
「そうか、じゃあ挙式は6月中にするとしよう
そうなると早急に準備する必要があるな....」
「ちょっとツノ太郎、あたしたち友達なのに結婚式はやらないよ?!」
「僕はやってもいいのだが…」

彼は何やら小さな声でぶつぶつと呟いていたけれどこちらを向いて尋ねできた。

「人の子よ。ウェディングドレスのデザインはどのようなものがいい?要望があれば聞くぞ。
茨の谷で挙式するなら色は黒になるが」

その言葉に、あたしは肩を落とした。
やっぱりあたしも女の子だ。真っ白でふわふわのウェディングドレスに憧れる。

「どうした?」
「ううん。真っ白でふわふわのドレス着てみたいなって。
ウェディングとかじゃなくていいから」
「そうか、なら今年はそれで妥協するとしよう」

そういうと貴方はぱちんと指を鳴らした。
きらきらとした白い光が私の全身を包み込む。

「怖いなら瞳を閉じているといい。準備が出来たら僕が声をかけよう」

そう言ってくれた貴方の言葉に甘えて、あたしは貴方の服の裾を掴んだままそっと目を閉じた。
ふわりと柔らかい風が全身を駆け巡り、しっかり掴んでいるはずの貴方の服の生地が変わったのを感覚で感じ取る。

「目を開けてみろ、人の子よ」

貴方の言葉に導かれるままに目を開ける。

「うわぁ、すごい…!」

あたしは自分でも気づかないうちに純白のドレスを身に纏っていた。貴方はあたしと同じ純白のタキシードを着て、あたしに少し自慢げな笑みを向ける。

「どうだ、ドレスのデザインは気に入ったか。
僕がお前のことを考えてデザインしてみたのだが」

あたしは自分が着ているドレスを見下ろして感動の溜息を吐いた。

裾が薄いレースで縁取られ、きらきらとした小さな宝石が縫い付けられた生地。上から細かい網模様のあしらわれたチュールが被せてあったり、ふわふわとした見た目になるようたっぷりとひだを取っていたり、そのドレスはまさにあたしの理想のウェディングドレスそのものだった。

「すごいよツノ太郎、こんなドレスを一瞬で作れちゃうなんて....!」

あたしの言葉に貴方は不思議な反応をした。
顔を赤らめ、少し視線を逸らしてわざとらしい咳払いをした貴方が、あたしの耳元で囁く。

「実はかなり前からシルバーと一緒にお前に似合うドレスのデザインを考えていたんだ。気に入ってくれたようだな」

今度はあたしの頬が真っ赤になって脳が熱く蕩ける。

「似合っているぞ、人の子よ。
さぁ、夜の散歩にでも出かけよう」

貴方は嬉しそうに微笑み、優雅な仕草であたしにエスコートの手を差し出す。

「ツノ太郎こそ、似合ってるよ。
素敵なプレゼントをありがとう」

あたしは貴方の手を取る。
ぎゅっと、お互いの存在を確かめるように、離れることのないように手を繋いで。
2つの長い影が、夜の闇に溶けていった。