8.最高潮ビート!

 オーバーブロットの影響で、ヴィル先輩が立っているのもやっとだったのを見かねたエペルがヴィル先輩にセンターの交代を申し出たのが本番10分前。そして、それを却下したのがついさっき。ヴィル先輩は、スポットライトが自分を照らしている限り、たとえ大岩が落ちてきたって舞台を降りないと強い意志を表明してくれた。
 ヴィル先輩の誇りを信じると決めて、あたしも祈るような気持ちでみんなのパフォーマンスが始まるのを見つめていた。そして、いざスポットライトがみんなを照らしてパフォーマンスが始まると、その心配がどこにもいらなかったことを強く思い知った。

「壊れるような 輝きは 消してあげる」

「「「「Hey! So Absolutely Beautiful
No Chance to Beat us No way No way
Hey! So Absolutely Beautiful
No Chance to Beat us No one No way」」」」

「甘い毒はいかが? 口に合うかしら 全てを握ってる アタシ そう絶対なの」

「Ah... 心のざわめき」
「いつか林檎のような赤 朽ちてく」

「「誰も超えられない」」
「「アタシはそう 強さだけじゃないわ」」
「「跪く力 アナタにもあるでしょう? ねえ」」

「「「「Hey! So Absolutely Beautiful」」」」
「「「最高の」」」
「「「「No Chance to Beat us No one No way」」」」
「「「It's Show Time」」」

「絡みつく棘 回り出す時計
見張られてるさ 冷たい視線
静かに かすかに 切り裂かれ 愚かなれ
事なかれ 救いなかれ
Boom Boom Bloom 喰らいそうさ
Boom Boom Bloom 悪い操舵
その心臓は本物かまがいものか
神のみぞ知る」


「Ah... 闇の奥 咎めは」
「苦い蜜と変わるのよ 揺るがないの」

「「忘れないでいて」」
「「アタシがそう 全ての絶対」」
「「争う力 戒めに終焉見ても」」

「「「「Hey! So Absolutely Beautiful」」」」
「「「狡猾の」」」
「「「「No Chance to Beat us No one No way」」」」
「「「It's Show Time」」」

「この美しさ...
永遠に見せるわ」


「「誰も超えられない」」
「「アタシはそう 強さだけじゃないわ」」
「「跪く力 アナタにもあるでしょう? ねえ」」

「「「「Hey! So Absolutely Beautiful」」」」
「「「最高の」」」
「「「「No Chance to Beat us No one No way」」」」
「「「It's Show Time」」」

「「「「Hey! So Absolutely Beautiful
No Chance to Beat us No way No way
Hey! So Absolutely Beautiful
No Chance to Beat us No one No way」」」」


 すべてを出し切ったみんなに、会場を割るくらいの拍手と喝采が巻き起こる。ヴィル先輩の名前を叫ぶ黄色い歓声の中に、ジャミル先輩への愛を叫ぶりたの声があたしにはばっちり聞こえた。
 文句なしのスタンディングオベーション! みんな最高だよ!
 あたしは感動のあまりぼやけそうになる視界をごしごし拭って、戻ってきたみんなを笑顔で迎えた。

「お疲れさまでした!! 最高のパフォーマンスでした……!!」
「おう、しろ。って、なに泣いてんだよ」
「ううっ、あまりにみんなが素敵で……あ、あた、あたし、みんなのマネージャーになれて、よ、よかったぁ〜〜!!」

 耐えきれなくて、おいおい泣くあたしをヴィル先輩は仕方のないものを見るような目で見て、呆れたように肩をすくめた。

「ちょっと、感動するのはまだ早いわよ。優勝が待ってるわ」
「は、はいっ……!」

 そうだ。優勝……! って思っていると、ヴィル先輩の身体が傾く。
 とっくに限界が来ていて、それでも舞台に最後まで立ち続けたヴィル先輩が、なんだかあたしはすごく誇らしかった。かっこいい、かっこいいよ、ヴィル先輩。間違いなく、あの舞台の上で、一番美しい人はヴィル先輩だったと思う。あたしたちNRCトライブのリーダーはこんなにも美しく、こんなにも、かっこいい、自慢の先輩だ。










 やがて、すべての学園のパフォーマンスが終わって、投票の時間になる。あたしもグリムももちろん票を入れたのはナイトレイブンカレッジだ。あとは信じて結果を待つしかない。大丈夫、あんなにすごかったんだもん。きっと、優勝できるはず。ドキドキしながら待っていると、集計の結果が発表された。

『…………ただいま、集計が完了しました! こ、これは…………こんなことがあっていいんでしょうか!? なんと、第1位と第2位の票数が、たったの1票差です!!!』
「い、1票差だとォ〜〜〜〜!?」
「ひ、ひぇ〜……ど、どうなっちゃうの……?」

 たったの、1票。その差で、泣く人と笑う人が決まる。
 神様、どうかお願い……! ぎゅっと両手を握りしめて天に祈った。

『『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』世界一の栄冠を手にする、優勝校は…………』
「世界一の……座は……!?」
『ロイヤルソードアカデミーです!』

 その結果を聞いた瞬間、わあああっと歓声が聞こえた。ロイヤルソードアカデミーを讃える司会者の口上が耳からするっとすり抜けていく。悔しいのは、みんな一緒だった。

「…………嘘…………だろ………………」
「い………………1票、差で…………」
「…………う、うう゛う…………っ! ぐぞおおぉ!! ぐやじいいぃいいぃい〜〜〜〜!!!!」
「エペル、そんなに泣くなよ。そんなに泣いたら…………。オレも゛泣いち゛ゃうだろぉお゛〜〜〜〜〜〜!!!!」
「「うわぁあああぁん!!」」

 大号泣するカリム先輩とエペルにつられて、あたしも涙が出てくる。くやしい、くやしいよ〜! くやしいねぇ、グリム〜!! 
 ジャミル先輩が冷静に、カリム先輩の立場を考慮して宥めるけど、そういうジャミル先輩も悔しすぎて、涙も言葉も出ないみたいだった。
 一気にしんみりしてきたあたしたちを叱咤したのは、やっぱりヴィル先輩だった。

「アンタたち、まだ舞台の上にいるのよ。情けない姿を晒すのはやめなさい! 背筋を伸ばして、ライバルの勝利を讃える拍手を忘れずに」
「さすがはヴィル先輩、冷静ですね。こういう展開はもう慣れっこですか?」
「冷静? 慣れっこ? ……フッ。
そんなわけないじゃない!!!」

 ヴィル先輩の叫び声にあたしの涙が驚きでひっこむ。そこには包み隠さない、ヴィル先輩の本音があった。

「今すぐロイヤルソードアカデミーのヤツら全員、舞台から蹴り落してやりたいわよ!!! アタシがアイツらを罵る下品な言葉を口走る前に、誰か気絶させてちょうだい! …………ネージュたちに投票したヤツらを呪ってやりたい…………っ」

 ヴィル先輩……。
 ヴィル先輩になんて言っていいのかわからないままでいると、ルーク先輩が口を開いた。その不穏な言葉に、あたしたちは疑問符を浮かべる。

「私の選択が、キミを苦しませることになってしまってすまない。だが、どうしても自分の心を偽ることができなかった」
「…………は? それ、どういう意味?」
「ヴィルに呪われるべき人間の1人は、私だ」
「「「「「「「えっ………………?」」」」」」」

 そういって、ルーク先輩が見せた、ルーク先輩の投票結果は、ナイトレイブンカレッジではなくて、ロイヤルソードアカデミーを示していた。ま、まさかの身内の裏切りに、ヴィル先輩は倒れかけてしまった。どわーー!! うそでしょー!? こんなのってありなの!?

「ちょっと、ルーク先輩!? アンタ、なんでロイヤルソードアカデミーに投票してんの!?」
「んだ! 信じられねーや! なしてそったはんかくせぇ真似を!」
「言っただろう? どうしても自分の心を偽ることができなかった、と」

 ルーク先輩の目には、ネージュたちの心から自分の力を、仲間の力を信じ、歌って踊るその光景が、何よりも美しく見えたらしい。他人が決めた美しさではなく、自分自身が美しいと自分を信じること。それが最も大切な美のパワーだという。
 あたしにはまだよくわからない言葉だったけど、その言葉の意味は……ヴィル先輩になら、伝わったのかもしれない。
 そこにネージュがヴィル先輩を呼びながら走ってきて、ヴィル先輩と言葉を交わす。そこで、まさか、まさかの、ルーク先輩がネージュの大ファン――ついでにいうと、ファンクラブの会員番号も一桁どころか二番目だった……――だということまで発覚して、あまりの急展開と情報量に、あたしの涙は完全に引っ込んだし、ヴィル先輩も元の調子を取り戻したみたいだった。

「ふふっ、ヴィーくん。いつもの笑顔、戻ってきたね! ねえ、一緒に歌おう。みんなで歌えば、きっともっと笑顔になれるはずだよ」
「えっ?」
「ほら、行こう!」
「ちょ、ちょっと、ネージュ!」

 強引にネージュに連れていかれたヴィル先輩は、ファンたちが二人のコラボと、健闘を称え合う美しい友情に歓声を上げる。そんなつもりじゃなかったヴィル先輩だけど、こうなった以上辞退するわけにもいかないようで、先輩は笑顔で合わせていた。

「ナイトレイブンカレッジのみんなも、一緒に歌おう!」
「「「「「「えっ。え……ええ〜〜〜〜〜っ?」」」」」」

 ネージュの合図に合わせて、みんなも微妙な顔をしながらも、歌を歌う。ヤッホーヤッホーと耳に残るサビが、会場を満たしていく。…………ネージュって、本当にすごい人なのかも……。

 歌が終わって舞台の幕が下りる。ヴィル先輩の「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!やっぱり誰か今すぐアタシを気絶させて!!」って叫びが木霊した。