隠れんぼクリスマス!
「なぁ知ってる?クリスマス前の一週間を一緒に過ごすカップルって別れる確率高いらしいぜ」エースの発言にデュースがそうなのかと真面目な顔で感心の声をもらす。隣にいるあたしが氷点下を下回るような顔で凍りついているとも知らずに。
今日はクリスマス八日前。つまりこれから一週間マレウスと一緒に過ごせない…ってこと?!そんなの絶対に不可能。だってあたしたち毎日一緒にいるというか、マレウスがあたしに会いに来てくれるの。あたしの好きなお菓子や本を持っていそいそと顔を綻ばせながら会いに来てくれるマレウスを出迎えないなんてそんなの出来っこない。
「子分、死にそうな顔してるんだゾ」
グリムの言葉にエーデュースがこちらを振り返る。
どしたのという言葉に釣られて事情を話すとエースがぱちんと指を鳴らした。
「そういうことなら俺らに任せろよ。な、デュース」
頭の上にはてなを飛ばしまくっているデュースと強引に肩を組み、エースがこちらに派手なウインクを投げて寄越した。
「名付けて『恋人回避大作戦』だ」
作戦一日目。あたしはエースに言われるままいつも通り教室に行った。学年が違うこともあって当然マレウスは居らず、息を吐いて席につき一限を受ける。何事もなく時間は過ぎ、三限までを終えて教科書をパラパラとめくっていると前の席のディアソムニア生が何かを思い出したようにこちらを向いた。
「さっき寮長がお前のこと探してたぜ」
い、いきなり大ピンチ!あたしは突然訪れたピンチに頭を抱える。どうしょう、一体どこに隠れれば…..
『迷ったらここだ』
エースの言葉が頭に蘇る。かばんを引っ掴み、あたしは全力疾走である場所へと向かった。
「…ってことでここに居させてください!」
頭の中で何度もイメージした完璧な姿勢の土下座を繰り出すあたしにトレイ先輩は苦笑いを浮かべた。とりあえず座ったらどうだと椅子をすすめられ、甘い香りのする部屋で簡素な椅子に座る。
ここはハーツラビュルの秘密基地、トレイ先輩のお菓子研究室だ。主にはリドル先輩がお怒りの時に寮生が逃げ込む場所で、普段はトレイ先輩がパーティー用のお菓子を考えるのに使われている。
この研究室の強いところはなんと言ってもハーツラビュル生しか知らないところ。マレウスだってここは見つけられっこない。
「どうして逃げてるんだ?恋人なのに会えないなんて寂しいだろう」
「それが実は…」
事の成り行きを話すとトレイ先輩は大笑い。何がおかしいんですか!と突っ込むと笑いながらひらひらと右手を振った。なんでもない、休み時間はここに居ていいからとお許しを貰ってあたしはほっと安堵の息をもらした。
「そろそろ四限が始まるな、行ったほうがいいんじゃないか?」
そろりと部屋を抜け出す。右も左も前も後ろも警戒しながら教室を目指していると前方に見覚えのあるツノが見えた。
「人の子を探しているのだが見ていないか」
やばい、探されてるちゃってるよあたし。
「きょ、今日は見てないっすね。え、あーえっと、い、忙しいんじゃないすか」
ナイスデュース!ちょっと動揺してるけど!めちゃくちゃ目が泳いじゃってるしヤンキー感でちゃってるけど!
「そうか」
去っていくマレウスにそろりそろりと近寄る形であたしは教室に入り、一番奥の席を陣取った。なんたって今日はまだ一日目。一日目なんだもん…
ここからがもう大変だった。あたしを探すマレウスのことを一年生のみんなに手伝ってもらって時には(エペルの箒で)空を飛び、またある時は(ジャックの背中やデュースの出した大釜に)隠れ、はたまた違う時には(エースの魔法で)壁と同化して、ありとあらゆる方法で逃げまくった。
そして今日はクリスマスイブ。とうとう今日が終わればあたしのミッションも終了だ。晴れやかな気持ちでいるとそこに突然悲劇が訪れた。
「やっと見つけたぞ」
「マ、マレウス・・・!!」
一週間大警戒していた顔。愛おしい恋人の顔。あたしはそのままへなへなと床に座り込んだ。
「一体どうしたんだ、人の子よ」
純粋無垢、子供のようにまっすぐな瞳でこちらを見つめて首を傾げるマレウス。ぶんぶんと揺れる尻尾が見えそうな表情にあたしは何も言えなくな
る。
「ねぇ、知ってる…?」
あたしは観念して今までの経緯を説明した。エースが言ってた恋人の噂。それを回避するためにマレウスから逃げてたこと。話の途中でマレウスは堪えきれないとでも言ったようにふっと笑みを温した。
「それは嘘だ」
弾丸のような一言にあたしの目が丸くなる。マレウスはそんなあたしを見てまた楽しそうに笑った。
それからあたしの髪をするりと撫でて話をする。
「少し前に流行った噂話だな。恐らくトラッポラは兄から聞いたのだろう」
「そんなぁ……」
脱力するあたしの頬をマレウスの両手が包み込む。
アッと気付いたときにはあたしの視界にはマレウスだけが映っていた。
「そんなジンクスに負ける程度の愛ではない」