あなたに伝える備忘録


元の世界に戻ってから数ヶ月、私は花のとまではいかないけれどJK生活をそれなりに謳歌している。ツイステッドワンダーランドを離れる時、結局、諦めが付かなくてマレウスには手紙だけ残して別れてしまった。ここまで来ると、あれは相当出来の良い夢だったのでないかと考えてしまう。あそこに行けないということは、もうりたとも会えないということ。挨拶なんて出来なかった。元の世界に帰れるのが嬉しいはずなのに、考えれば考える程辛くなっていく様だったから。
オンボロ寮で一緒に恋バナをした、互いの恋に背中を押し合った親友。連絡先はあるけど、かけていない。かかるかもわからない。もし会えたとしても、あったらきっと、後悔の波に押し潰されてしまうから。あの時、りたを励ましたよね。
ジャミル先輩と上手くいって良かったなぁ。あの時は、りたが元気をくれた。おかげで勇気が出たんだよ。……今の生活が楽しくない訳じゃない。だけど愛しいあなたたちにもう一度逢いたいだけ。今だって、こっちで使っている物をマレウスに話したら気になるって言われたのが忘れられなくて話をした物を見ると持って会いにいきたくなってしまう。良いことがあったときに話したくて隣を見てもあのピンク色の髪は見当たらない。最近、こんなことばっかりだ。日に日に「会いたい」が大きくなっていくような。胸がはち切れそうで仕方ない。もう一度、あの特徴的なピンク色の髪を見つけて笑いかけたい。もう一度、あの大きな背中に抱きついて寄り添いたい。ああ、自分ではわからない程に好きになっていたんだ。いつのまにか、あの居場所が。…あいたい、会いたい、逢いたい。駄目だ、私はもう普通の女子高生に戻れたのに。涙がじわじわと視界を侵食していく。
この大きすぎて私には抱えきれない程の気持ちが心を食べていく。会いたいって思うのが止まらない。戻りたいって思ってた私はどこに行ったんだろう。戻ってきたらもう会えるわけもないのに。あの日、りたが私にくれたクッキー、りたは意味を知らなかったけど、思い出しては、友達だということを再確認して、自分で作って。そしてあの日、マレウスに送ったマカロンも。作っては思い出して泣いてしまう。この胸に抱き締めたクッキーとマカロン。また会いたいと渦巻く私の心。ふと、滲む視界の端であの時のように鏡が光った気がした。手を伸ばす。
沢山の手が私を誘っている。嫌だ。あの大きくて安心する手を探して手を彷徨わせた。いない、見つからない。もう、私とマレウスの間の糸は千切れてしまったのかな。ぐい、と手を出していないのに引っ張られる感覚。私の腕を掴むその、大きな手。ああ、今度は、貴方が私を見つけて、選んでくれたんだね。ありがとう。クッキーとマカロンを抱いたまま、鏡の中へ入っていく。ふと目を開ければ懐かしい景色と、愛しい、逢いたくて堪らなかったマレウスの姿。遠くからぱたばたとりたの足音が聞こえて来る。不意に視界が暗くなったと思ったら、マレウスに抱きしめられていた。ああ、久しぶりだ、この感覚。あったかくて安心して、なにより愛おしくて涙が溢れてくる。私が泣くとマレウスは抱き締める力を一層強める。やだ、マカロンが割れちゃうよ。大好きで、愛おしい。涙に濡れた声で私は言った。

──「私、あなたに伝えたいこと、たくさん、あるの」