バレンタインデイ、小さな話


「ふふ、マレウス、喜んでくれるかなぁ」

かたかた、くるり。熱でとろけたチョコレートをかき混ぜながら呟く。そう、今は二月。バレンタインデイが近づいてきている。あたしはマレウスにチョコを渡そうと日々こっそり練習しているのだ。
まぁあたしも華の女子高生になる予定だった女の子。バレンタインチョコなんて小学生の時から大量に作っている。だけど、本命チョコは初めてだ。さすがに失敗はするまいと毎日のように図書館からお菓子作りの本を借りてきてはチョコを作っている。作ったチョコはりたにあげたりもしているけれど、結構美味しくて大体自分で食べる.....気のせいかもしれないけど最近少しお腹がぷにっとしてきたような……バレンタインが終わったらチョコはやめるから!!!それまで少し見逃して欲しい。
とろりと溶けたチョコレートを型に流す。ホワイトチョコを少し垂らして、爪楊枝でつい、と模様を描いてみる。かなりかわいくできたかもしれない。とんとん、とチョコを平らにして、バットに並べていく。
いくつかのカップチョコを作り終え、冷蔵庫に入れたはいいものの、ただのカップチョコだと少し華やかさに欠けるというかなんというか……本命だし、もう少し手の込んだものを渡したい。でも、何を渡せば良いんだろう……マドレーヌ。何かの記事で見たけど、貝の形のマドレーヌの意味は『もっと仲良くなりたい』。
……もっと、マレウスのことが知りたい。そんなあたしのきもちにぴったりだ。よし、そうと決まれば明日からマドレーヌ作りの練習をしよう。
とーっても美味しく作ってマレウスをびっくりさせてあげるんだから!!
それから何度か練習をして、いざバレンタイン前日。これまででマレウスに会うことは何度かあったし、バレンタインの話をされることもあったけど上手く誤魔化せた……はず。
よし、じゃあまずは粉を……と作り始めようとした矢先、玄関の方からコンコンコン、とノックの音がした。

「人の子、居るか?」

マレウスの声。ちょっと待って、マレウスだ!!!
ど、どうしよう。サプライズしたくて隠してたのに、バレちゃうかも。……いや、ここまできたら隠すしかないよね。台所まで通さなければいい話だし。

「マ、マレウス!!どうしたの?」

玄関に出てマレウスと顔を合わせる。その手には本が握られていた。

「図書館の司書からだ。予約していた本を人の子に届けて欲しいと」

その本は確かにこの前貸し出し予約をした焼き菓子の本だった。司書さん……本は嬉しいけどタイミングが最悪だよ……

「あ、ありがとう!!!わざわざごめんね」
「いや、別にいい。ところで今は何をしていたんだ?」
「今?えーっと……」
「それ、か?」

言いあぐねていると手に持っている本を指指して訊かれた。

「えっ、なんで……」
「なんでも何も、エプロンをしているだろう。料理をしているんじゃないのか?」

あ、エプロン外してくるの忘れてた。これじゃバレるよね……

「うん、お菓子作ってるの」

努めて平静に、華の女子高生がバレンタイン前にお菓子を作って何が悪い!

「……誰にだ」
「えっ!?」

マレウスは急に押し黙ったかと思ったら少し機嫌が悪そうな顔で訊いてきた。だ、誰にってマレウスしかいないけど.....サプライズにしたいから全力で誤魔化そう……

「えーっと……と、友達に……?」

どうしよう、全然いい嘘が思いつかない。

「友達……具体的には誰だ」

そ、そこまで訊かれちゃいます……?

「え、エースとか、グリムとか……?」

いや、まあ同級生には元々あげようと思ってたし

「……猫にチョコは良いのか?」
「グリム、猫じゃないらしいから大丈夫かなって」
「そうか」

え、なんかずっとこっち睨んでくるんだけど……
「……には、」
「な、なんて言った?」
「……僕には、ないのか」

びっくりした。さっきから機嫌悪そうだったのはこれが原因だったの!?

「も、もちろん、あるよ!!! マレウスだって大切な......友達、だし」

たじたじとそう言うと、目に見えてマレウスの顔が明るくなった。

「そうか、ふふ、楽しみにしている。じゃあ、また明日」

マレウスはそう言って帰っていった。
はぁ、実は本命なんだけど……。それよりもびっくりしたなぁ。急にくるなんて。
いけない、時間ないんだった。早く作らなくっちゃ!!!




後日談

「マレウス!!」

大きな後ろ姿に声をかける。会うタイミングがなくて結局放課後になってしまった。
振り向いたマレウスに小さめの紙袋を差し出す。

「バレンタインだから、作ってきたんだ。はい」
「!!!、ありがとう」

マレウスは途端に嬉しそうにして紙袋を受け取った。

「中を見ても良いか?」
「いいよ!!」

紙袋の中には控えめなラッピングをした手作りのマドレーヌが入っている。チョコレートで半分をコーティングした力作だ。

「……マドレーヌか」

マレウスはチョコが入っていると思っていたのか少し驚いている様子。

「うん、マドレーヌにはね、『もっと仲良くなりたい』って意味があるんだよ。あたし、マレウスのこともっと知りたいんだ!!! これからもよろしくね」

そう言うとマレウスはさらに驚いたような顔をしてから小さく笑った。

「僕も人の子のことがもっと知りたいと思っている。こちらこそ、よろしく頼む」
「うん!!!」

マレウスに喜んでもらえて嬉しい。頑張った甲斐があったなぁ。

「ところで人の子よ。ホワイトデイには何が欲しい?」
「えっ、別になんでもいいよ……?」

まさかもうお返しのことを訊かれるとは思わなくてびっくり。

「僕ならばなんでも用意できるが……何か欲しいものはないのか」

いや……ホワイトデイのお返しにそんな重いものを頂いても……

「うーん、飴、とか?」
「キャンディか。よし、最高のものを用意しよう」
「えっ!? いやいや普通ので良いからね!? 」

後日、とっても高級な飴の詰め合わせを贈られるのはまた別の話。(今まで食べたことないくらいに美味しかった)