【スクルドの時計は動かない】





「ちょっと喧嘩しようか、同級生」

心底嫌な顔した出水と眉間の皺を濃くした三輪に対して、私は吹っ切れたように笑顔で言い放ってやった。

「苗字、貴様っ…!!」
「三輪、言ったろ。敵は立ちはだかる奴全部だって。私の前に立ちはだかるなら容赦なくぶった斬る」
「来たな喧嘩馬鹿。お前黒トリガー持ってたのかよほんと一杯食わされたぜ」
「私の黒トリガーはボーダー内でも重要機密の一つだからね。軽々しく口にすると記憶隠蔽対象だぜ?」

まぁ今となってはもうどうにでもなれって感じだし。支部長が良いって言ったから責任は支部長に取って貰おう。

「大体、弾馬鹿と槍馬鹿に知られたら毎日阿呆みたいにランク戦挑まれそうで嫌だし。私ソンナ野蛮ジャナーイ」
「言ってろ喧嘩馬鹿。自分でも棒読みじゃねーか!」
「まぁそんなわけだから、喧嘩しようぜ同級生」

長話には飽きた所だ。ニヤリと笑えばどちらからともなく再開される銃撃戦。ただ、素直に銃手、射手のホームグラウンドで戦ってやる必要もないので此方は戦神の鎖とメテオラで応戦する。メテオラで隙を作り、戦神の鎖で狙いにいく。そうすると三輪が距離を詰めてくるからスコーピオンで応戦。嵐山さんが鉛弾に捕まった所をテレポーターからの時枝との十字砲火。嵐山隊は流石の連携だ。良い機会なのでついでにバイパーで援護射撃して出水を削り落とす。出水ざまぁ。

「テレポートからの十字砲火……流石に阿吽の呼吸ってやつだな嵐山隊……!名前のヤローもついでにぶち込んできやがって」

もう一発、出水にぶち込んでやろうと思った所に派手に鳴り響いたのはガラスが割れる音だ。音の方に向けば緊急脱出寸前の米屋と彼を追い詰めたのであろう木虎の姿。

(まずいな)

五秒後の光景に対応すべく頭を働かせる。出水の弾数すべて撃ち落とせる自信は、流石にない。けどまぁ、

「やるか」

出水の阿呆みたいな弾数のアステロイドをバイパーで撃ち落とす。木虎の守りに時枝がテレポーターで向かう。だけどその先は──当真先輩か。

「相変わらず変態的な腕してるなぁ当真先輩」

感心してる場合じゃない。最初に視えたものよりは良い方向に転んだとはいえ、時枝が落ち、木虎も片足持ってかれたわけで。これが迅さんならもっと良い未来になったのかも知れないと思うと本当に役立たずさを痛感する。嵐山さんの「反省は後だ」の声に思わずハッとした。木虎にかけられた言葉なのにまるで自分に言われているような錯覚。そうだ、まだ全然終わってない。

機動力が潰された二人のカバーをしながら出水と三輪の相手をする。狭い路地に逃げ込み嵐山さんが次の作戦を考える。

「名前はどうする?」
「私は佐鳥のカバーに行きます。万が一仕留め損ねた場合も私なら当真先輩追えるしその方が動きやすい」
「よしわかった、頼んだぞ。賢、木虎働いてもらうぞ」

作戦が決まり嵐山さんの号令で各自動き始めた。

□■□

マンションの一室。スコープ越しに獲物を狙う赤い背中。此方には気付いていないようで。ゆっくりと背後に回り、いつぞや奈良坂にしたようにスコーピオンを首筋へあてがうと彼はびくりと反応した。

「佐鳥、随分と背後が疎かだな。これで私が敵だったら一発アウトだよ」
「名前先輩…!脅かさないで下さいよー!」

私だとわかりへにゃりと笑う佐鳥に私はまだ無表情でスコーピオンを向けたまま。段々と表情が強張っていき「マジですか…?」なんて泣きそうな顔に変わるのを見届けて、スコーピオンを消せば「冗談きついですよ!」って泣きつかれた。何これ可愛い。

「ごめんごめん。どうも狙撃手の背後は襲いたくなるもので」
「名前先輩が敵だったらオレ本当に泣いてた…」
「はは、安心しな。嵐山隊には危害は加えないさ」

気を取り直して嵐山さんの作戦を進めよう。外を覗けば丁度出水と三輪が嵐山さんと対峙していた。木虎の方は上手く事を進めているようだし。後はこっち。

「佐鳥、訓練の成果期待してるよ」

同級生二人とも蹴散らせ、て言えば佐鳥は「任せて下さい」と何とも力強く答えてくれた。

木虎が当真先輩を落とし、佐鳥のツイン狙撃で出水たちの腕を削ぎ、ついでに私もバイパーをお見舞いした。主に出水に。結果は視なくてもわかる。


「木虎、賢よくやった。充と綾辻もよくやってくれた。名前も……、賢、名前は何処に?」
「あれ、いない?いつの間に…?」


□■□

佐鳥に気付かれないうちに離脱して急いで此方に戻ってきたが、蒼也さんと太刀川さんは緊急脱出寸前だった。迅さんはほぼ無傷で二人の前に立っている。

「なるほどな……いずれ来る実戦に備えて手の内を隠していたというわけか……」
「悪いね、生粋の脳ある鷹なもんで」
「……だが風刃の性能は把握した。あと三週間……正式入隊日までの間に必ずお前を倒して黒トリガーを回収する」
「残念だけどそりゃ無理だ」

迅さんの一太刀で蒼也さんと太刀川さんは緊急脱出していった。本部組六人を一人で倒してしまった迅さんの背を屋根の上から見つめながらふぅと一つ息を吐き出して、地面に降り立つ。此方に気付いた迅さんが振り返った。

(大丈夫。やることは簡単だ)

「迅さん、邪魔者は居なくなったので貴方を倒して玉狛の黒トリガー頂きます」
「この未来は視えなかったな…」
「すみませんね、生粋の脳ある鷹なので」



貴方の目に映らない私
(今日程、迅さんの未来視を避けてきて良かったと思った事はない)


13 視えないように隠してきたもの

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