【スクルドの時計は動かない】





朝目が覚めた時、昨日の事がすべて無かったことになっていれば、なんて考えは鏡の中の泣き腫らした目をした私が全否定していた。

昨日迅さんの前で泣いた。
両親が死んだ時すら泣かなかったのに、泣いてしまった。あの後どうやって本部から帰ってきたか覚えていない。目が覚めた時広がる光景が自分の部屋の天井ではなく、支部にある仮眠室のそれだったので少し驚いたが、そういえば瀬尾ちゃんが酷く哀しそう顔をして迎えてくれた記憶が微かにあった。

泣き腫らした顔の自分を見て、昨日の事が全部現実なんだと、再度実感した。シャワールームが真っ白になるくらいの熱さが身体を打っていく。この熱さで心のモヤモヤとか哀しみとか後悔とか全部ドロドロに溶かして流れていけばいいのに、なんて非現実的思考を振り払うように蛇口を捻る。

支部の中は静かだった。瀬尾ちゃんは多分研究室に籠もってる。凍矢も同じくか。気を遣われてるんだろう、きっと。
ふと視線を向けた先、リビングに貼られたカレンダーに赤い円がされているその日を見つめ目を閉じる。

迅さんは言った。近い未来、ボーダーにとっても私にとっても大きな変化が起こると。そして昨日は、未来は動き出してる、と。迅さんの未来視の干渉を受けない私は、関係ないものだと思っていたけど、実際はこんなにも深く深く彼と関わっていて結果としていろんな事が、いろんな変化が起きた。

目を開き、もう一度赤い丸のされたその日──一月八日を見つめる。

「未来は動き出してる、か……」

誰にいうでもなく吐き出した言葉は静寂な部屋に解けていく。


四年半前のあの時。
三門市が壊滅的被害を受け、両親が死に、黒トリガーを手に入れたあの時からだ。未来に対して目を瞑ったのは。

他人と関わらない。親しい者も作らない。もう何も失いたくない。失うくらいなら、いらない。

今でもその考えは変わらない。

未来に目を瞑り、他者との関わりを避け、誰かの未来に関わる歯車になる事を拒否し続けた。そうすれば、何時かくる自分の終わりでさえ誰かの歯車にならないと、信じていた。

私の時間はあの時止まったと──そう思っていたのに。


迅さんは言った。
未来はもう動き出してる、と。

変化が起きると言っていたあの時の迅さんの言葉のせいかお陰か。私の未来は確実に変わっている。動いている。

過ぎた時間は戻らない。
背負った傷も犯した罪も変えられない。
例え戻れたとしても戻らない。戻っちゃいけない。

だけど、時間は止まってなんかいない。

少しずつ、着実に、針は動いている



であれば──


薇を回す時
(過去は変えられないけど、未来は変えられるから)


もしも時計が左回りだったならば

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