「やっと来やがったな喧嘩馬鹿。お前学校バックレんなよな」
数日ぶりの教室で出迎えてきた馬鹿二人の顔を見た瞬間、勢い良く教室の扉を閉めてやった。同じクラスである事実をこの時ばかりは呪う他ないと激しく後悔した。扉はすぐに馬鹿二人によりこじ開けられ右手を出水、左手を米屋に取られ半ば引きずられる形で教室内の自席へと着く。
「お前には聞きたい事が沢山あんだよ」
「……どうせこれの事デショ」
これ、と目配せした右腕。出水と米屋は目を輝かせて待ってましたと言わんばかりで正直ウザい。でももうバレてしまったのだ。諦めるしかない…ていうか、
「待った。何で米屋まで知ってんの?アンタには見せてないはずだけど?まさか出水、」
「おれじゃねーからな。こいつ緊急脱出した後モニター見てたんだよ」
「そういう事。なぁなぁオレもそれと戦りたいから今日ランク戦しようぜ!」
「馬鹿じゃないの。只でさえ黒トリガーはランク戦参加不可なのに本部未認証扱いのもの使える訳ないじゃん」
「じゃあランク戦じゃなきゃ良いんだろ?お前いつも訓練室引き籠もってるのそういう事だろ。訓練室が嫌なら作戦室のトレーニングルームでも良いけど」
バレてる。私が訓練室に引き籠もるのはいろんな理由があるけれど、確かに訓練室でなら誰かに見られる事もないから黒トリガー発動し放題だしトリオン切れもないから無制限で戦える。
「トレーニングルーム使うなら苗字隊のにしよーぜ。うちのだと秀次の機嫌が悪くなる」
「うちは太刀川さんが乱入してくる可能性あるからなぁ」
「何で戦るの前提なんだよ」
「当たり前だろ?こんなおもしれぇ事無視する訳ねぇじゃん」
「何?戦んねぇの?ビビってんの?」
ヘラヘラと、ニヤニヤと。馬鹿二人の言葉にカチンときた。
「ノーマルトリガーでも勝てないくせに黒トリガー使ってやる必要ないデショ。私に喧嘩売ろうってなら勝てるようになってからにしろよ」
「言ったな?じゃあ今日ランク戦な。決定ー」
ニヤリと笑って出水が言った。正直ランク戦やる為の口実で嵌められたと思ったけどこの結末は視えてたし、もうどうでもいいや。一つ息を吐き出して馬鹿騒ぎする二人との喧嘩も悪くないかなって少しだけ思った。
放課後急かされるように学校を出て三人で本部へ。思えばこうやって誰かと本部に行く事なんて、亜里阿のメンバー以外であっただろうか。何だかそれが可笑しく思えて二人にバレないようにこっそり笑った。結局個人戦ブースで十本勝負をそれぞれやることになったので出水も米屋もボッコボコにしてやった。ちなみに負けた奴がジュース奢る約束だったので私の目の前には戦利品が二本並んでいる。
「負けたかぁー!」
「私に勝とうなんて一万年と二千年早ぇんだよ」
「うるせぇよ。ていうか、改めて戦るとお前のそれ、トリオン感知出来るとかチートかよ」
「"トリオン受動感知体質"って言ってくれ。一応そういう事になってる」
出水にチート呼ばわりされたそれは本部内では"トリオン受動感知体質"というサイドエフェクトとされている。まさか黒トリガーの性能だとは誰も思っていない。尤も、黒トリガーの存在を知ってる蒼也さんとはこの事にも気付いているのだろうけど。
黒トリガーの性能、経緯、その他諸々この二人には話せるだけ全て話した。もう隠しても仕方ないし。
「別に黒トリガー持ってようがどうだろうが名前は名前だし。何も変わんねえよ」って全部話した後二人に言われた言葉がガツンと頭に響いた気がした。
ラウンジで一休憩し終わり米屋がもう一つ勝負しようと言ってきたので仕方なく三人で個人戦ブースへ。
「あ。荒船さんじゃん」
米屋の言葉に呼ばれた側も気付いたようで此方に視線が向く。瞬間、めっちゃ嫌な顔された。
「んだよ、お前ら珍しく揃ってんな」
「さっきまで名前とランク戦してたんすよ。荒船さんこそこっち来るの珍しいっすね?ランク戦すか?」
「ああ、そのつもりだっ、」
「師匠ランク戦しましょう」
言い終わる前に隊服の袖をグイッと引っ張って言ってやった。さっきより怖い顔された。
「お前その師匠っての止めろ。お前なんか弟子にした記憶はねぇ」
「えー酷い。手取り足取りあんな事からこんな事まで教えてくれたじゃないですか」
「人聞きの悪い事言ってんじゃねぇ。おいこらテメェら笑ってんじゃねぇぶった斬るぞ」
「よーしじゃあランク戦しましょう返り討ちにしてやりますから」
「荒船さんその喧嘩馬鹿スイッチ入ったら止まらないから諦めた方が良いですよ」
「名前は荒船さんに任せて行くか弾馬鹿」
「誰が馬鹿だ蜂の巣にすんぞ」
やんややんやと言い合って出水と米屋は空いているブースへと消えていった。二人が居なくなり師匠、もとい荒船先輩はふぅと大袈裟に息を吐き出した。何かと思って顔を覗き込んだら何故か荒船先輩が被ってる帽子を無理やり被せられ視界が遮られる。
「ちょっ…、何ですか師匠」
「だからその師匠っての止めろ。お前、あいつらとあんな仲良かったか?」
「へ?ああ……そう見えます?」
荒船先輩の質問の意図がイマイチわからない。仲が良い?私が?あいつらと?よくわからなくて逆に聞き返してしまった。確かに以前より学校にも本部にも寄り付くようになり、人との関わりは増えた。あいつらは同じA級でクラスメイトだから尚更。でもそれだけ。別に仲が良いってほどなのか自分ではよくわからない。俯いたままぽつりぽつりと吐き出される私の言葉を荒船先輩は黙ったまま聞いてくれてる。時折子供をあやすような手付きで頭を叩いて、それがまた心地よい。
「お前変わったな」
「そうですか?」
「最初に会った時はクソ生意気で無愛想な奴だったけど」
「言い過ぎです傷付きます」
「雰囲気柔らかくなったっつーか、無愛想がましになった」
「誉めてますそれ?」
「何だか知らねぇがへこたれて引き籠もってたって聞いたから喝入れてやろうと思ったんだが、その分じゃ問題なさそうだな」
顔を上げたら挑発的な瞳とぶつかる。ニヤリと笑う荒船先輩の顔から目が離せなくなる。目頭がじわりと熱くなって、それを隠すようにまた下を向いた。
優しいのは迅さんだけじゃない。
黒トリガーの事を知っても尚、今まで通り接してくれる出水と米屋が。
何んだかんだ言って見守ってくれて心配してくれて励ましてくれる荒船先輩が。
此処にいる皆が、優しいんだ。
「甘やかされてるなぁ私……」
嘲笑と共に出た言葉が荒船先輩の耳に届いてないと良いな。
ドロドロに溶かされていく
(視界を遮ってくれるこの帽子があって良かった)
15 魘される程に発熱する
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