【スクルドの時計は動かない】





荒船哲次は一つ年上の先輩で私の狙撃手としての師匠である。但し、本人曰わく「お前なんか弟子にした記憶はねぇ」とのこと。実際言ってしまえば私に狙撃手としての基本を叩き込んでくれたのは東さんだ。なので師匠は東さんなのだが、より実戦的、というより私にあった狙撃手の在り方を教えてくれてのが荒船先輩だ。

荒船先輩の完璧万能手量産計画(そんな名前じゃなかった気がする)と、私の"どの武器でも戦えるようになる"という利害が一致した結果、私は荒船先輩と結構模擬戦したりするし師匠って呼んだりする。
そして荒船先輩はすっごく嫌がるがそれがまた楽しい。

「お前なぁ、あの至近距離でライトニングぶっ放すか普通」
「ショットガンより射程長いし弾速早いし離れられれば狙撃も行けるし便利かなって」
「集中シールドでガードされるだろ」
「攻撃手の間合いでやるからこそですよ。シールドかち割ってやったじゃないですか」
「実戦的じゃねえって言ってんだよ。狙いバレバレだしそもそもあんな弾速、化物級のトリオン量あってだからな。実戦であんな事出来るのお前とお前のとこの狙撃手くらいだ」

ランク戦やら模擬戦の後、こうやって反省会をするのが何時もの流れ。大体どっちかの作戦室かラウンジでやる事が多く、今日は後者である。私が荒船先輩から教わりたかったのは攻撃手の間合いに入った狙撃手の戦い方だ。これを実戦で教えられるのは元攻撃手の荒船先輩しかいない。レイジさんは、レイガストパンチとかチート技ぶっ込んでくるから理想と違うし。後は普通に弧月で戦り合ったり。今は狙撃手とはいえ流石マスタークラスの弧月使い手なだけあり、弧月同士で戦り合うと普通にぶった斬られる。だからこその訓練なのだが。

「今日は五分ですか……悔しい」
「舐めんな馬鹿。名前は剣筋悪くねぇのに弧月だと戦績伸びねぇな」
「弧月だと自由度下がるじゃないですか。スコーピオンだと攻撃のバリエーション増えるし。そこにバイパーとかメテオラ組み合わせるとやりたい放題出来るから」

私の本来の戦闘スタイルは肉弾戦を用いた超接近戦型。相手を掴んでは爆破したり投げ飛ばしたり、足ブレードで蹴り飛ばして首や四肢をバラバラに刻んだり。上層部(主に城戸さん)から隊員にトラウマを植え付けるなと怒られてからはあんまりランク戦とかではやらなくなったけど。でもA級同士とか、つい熱が入って本気モード入っちゃうと見境なくやってる。出水達に喧嘩馬鹿と言われる所以は此処にある。

結局反省会してはランク戦の繰り返しで気付けばすっかり外は暗くなっていた。

「もうこんな時間なんですね。そろそろ帰りましょうか」
「そうだな……名前この後予定あるか?」
「いえ。あったらこんな時間まで居ませんよ」
「じゃあ飯行くぞ。帰りは送る」

返事をする前に行くぞ、と急かされそのままあまり見慣れない制服姿の荒船先輩と本部を出た。まさかの展開に少々動揺している。今までこんな事なかった。

「先輩とご飯とか初ですね」
「今まで誘いづらい空気全開だったからなお前」
「ソンナバカナ」
「その言い方自覚あるだろ。別に他の奴とも無理に仲良くしろとは言わねえけど壁作る必要はねえと思うぞ」
「っ、荒船先輩が優しい。凛香ちゃんに報告しよう」
「止めろっ…!あいつお前が絡むと厄介なんだよ」

何かを思い出したようにげんなりされた。多分、私が引き籠もってるって荒船先輩に話したのは凛香ちゃんだ。二人は同じ学校だからきっと何かあったのだろう。凛香ちゃんもなかなかのお人好しである。それが何だか可笑しくて嬉しくてつい笑ってしまった。

「お前、」
「はい?」
「いや……名前もそうやって笑うんだな…」

立ち止まって、目が合う。
ハッとしたように顔を背けられてその顔は大きな手によって隠された。けど、

(何で荒船先輩顔赤いんだろ)

暗くてはっきりわからないけど、隙間から見える顔は心なしか赤く染まっている。だけど何となく言ったら怒られると思ってその言葉は飲み込んだ。不自然に黙ってしまった私は月明かりに惹かれるように空を見上げた。



嗚呼、今日は月が良く見える
(月が綺麗ですね、って言ったら怒られるかな)


16 一人では輝けないって知っているから

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