烏丸からの連絡に気付いたのは防衛任務が終わって本部に戻ってきた時だった。珍しい着信履歴に何か良からぬ事でもあったのかと急いでかけ直したらあっけらかんとした声が返ってきたので拍子抜けした。
『すみません。実は修が銃手になりたいって言ってきまして。それで名前先輩に面倒見て貰えないかなと』
「三雲は烏丸の弟子デショ」
『そうなんですけど、俺が居ない事も多くてなかなか面倒見きれない部分があるんですよ』
「ああバイトか……」
『それに、名前先輩なら一通りトリガー使えるから教えられる事も多いだろうし。お願い出来ませんか?』
「わかった。迅さんからも頼まれてる訳だし、協力出来る事はするよ」
面倒事は御免だけど、可愛い後輩からのお願いを断るということは私には出来なかった。そんな訳で今日の夕方早速玉狛に行くのが決まったのだが、まだ時間もある。こないだ散々ランク戦やったから今日はそういう気分じゃない。下手にラウンジとか行くと誰かに捕まりかねないし、作戦室に引き籠もるか。はて、どうやって時間を潰そうかと廊下を歩きながら考えあぐねていた私の前からやってきたその人に声をかけられた。
「名前丁度良かった。お前を探していたんだ。今時間あるか?」
「蒼也さん!今ですか?夕方から用事ありますけどそれまでなら…どうしたんですか?」
「ちょっと付き合ってくれ」
着いて来いと有無を言わさず蒼也さんは前を歩き始める。嗚呼、これは嫌な予感がする。
□■□
「げ、何で黒トリガーなんて連れてきたんですか風間さん」
連れてこられたのは訓練室の一室で中に居たのは風間隊の二人。私の顔を見るなりすぐさま嫌な顔してきた彼は確か菊地原、だったか。もう一人の彼(確か歌川)は菊地原のことを宥めている。嗚呼これはまさか。蒼也さんが何を言わんとしてるか容易に予想がついた。
「隠密戦闘の訓練だ」
「ちょっと待った蒼也さん!今までは蒼也さんだけだったじゃないですか!何で二人居るんですか?」
「今まではお前の黒トリガーの事を知っているのが俺だけだったから連れて来れなかったが、もう知られているんだ。この二人にもしっかりお前の力を見せておこうと思ってな」
表情は変わらないけど何時になく蒼也さんが楽しそうだ。確かに今まで何度も蒼也さんの訓練には付き合ってきた。蒼也さんの望む戦闘訓練に付き合えるのが私だけだから、なのだが。
「いやいやいやいや!それは蒼也さんだからですって!蒼也さん相手なら普通に隠密戦闘無しでも楽しいからであって、この子達ボッコボコにして何が楽しいんですか!?ただの後輩いじめになる」
「ちょっと、勝手な事言わないでよ。何でぼく達がボッコボコにされなきゃなんないのさ」
「君達程度のレベルで勝てると思ってるの?」
「黒トリガーだか何だか知らないけど随分偉そうだよね。大体何で黒トリガーのくせにA級なのかわかんないしさっさとS級にな、」
あまりにも生意気な口聞いてくるもんだから言い終わる前に右手を伸ばし、生意気な彼の口元を掴み上げてやる。
「この程度も反応出来ないくせに減らず口も大概にしないと、いい加減頭潰すよ?」
「名前」
蒼也さんの制止が入ったのでそのまま手を放す。蒼也さんと目が合い、わざとらしく溜息をついてやる。
「蒼也さんの部下だからって優しくしませんからね私。トラウマ植え付けても知りませんから」
「構わん。この程度で折れるようならそれまでだ」
「蒼也さんは参加しないんですか?」
「二人の様子を見てからだな」
「……という訳で蒼也さんからの許可も下りたので君達二人本気でかかってきなよボッコボコにしてやるから」
ニヤリと笑って手招きしてやる。此処まで挑発してやったんだからしっかり本気でかかってきてくれないと困る。
「私に黒トリガー使わせたら誉めてやるよ」
□■□
一体どれだけ時間が経っただろうか。仮想戦闘モードはトリオン切れがないから隠密戦闘は使いたい放題だ。それでも風間隊の二人は未だ私からダウンどころか一太刀も浴びせられていない現状。
一方私もダウンはまだ一度も取っていない。ダウン、は。
「だからバレバレだっての!」
攻撃時に現れた菊地原の腕を掴んで壁目掛けて吹っ飛ばす。背後からまわってきた歌川も捕まえて横っ面を蹴り飛ばす。トリオンを使っての攻撃ではないから二人ともほぼ無傷。とはいっても戦闘訓練を始めてから今の今までひたすら二人を嬲り倒してる状態だ。いろんな意味でボロボロである。いい加減飽きたので最後は零距離で頭ふっ飛ばしてやった。ざまぁ。
「はい終了。蒼也さんこんなもんでいいですか?」
「ああ」
「風間さん…何なんですかこの人…?」
「トリオン受動感知体質。人でも物でもトリオン反応があるものなら感知出来るの」
「つまり名前には隠密戦闘が効かないということだ」
「以前風間さんが言ってたのはこういう事だったんですね」
「隠密戦闘が効かない相手が居ないとも限らない。その為の訓練を名前に協力して貰ってるんだ」
歌川は納得といった表情だが菊地原は納得いかないようでぶつくさと文句言ってる。
「だから言ったデショ。ボッコボコにしてやるって。君達は隠密戦闘に頼り過ぎ」
「次は絶対勝ちますから」
「やれるもんならやってみなって」
「なら次は俺も混じろう」
「え、今から?待って私この後用事あるって」
「勝ち逃げとか卑怯だよ。ですよね風間さん」
この後結局時間ギリギリまで風間隊に付き合わされたのは言うまでもなく、ダッシュで玉狛まで向かう羽目になった。
人気者はつらい
(でも悪い気はしない)
17 頼られるのは慣れてないんだ
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