【スクルドの時計は動かない】





五月蝿いくらいの警報が鳴り止む頃、五月蝿い音を立てて屋上の扉が開いた。

「あーあ、お前また授業サボって一番乗りかよ」
「A級隊員が今更何の用」
「緊急警報鳴ったと思ったら急に校庭にでっかいも降ってくるからやっぱお前だったかーって。相変わらず無茶苦茶だなおい」

ヘラヘラとした口調のソイツは校庭に落ちた(落とした)それに目を向けた。コイツの態度を見てる限り被害は出ていないようだし、それなら此処に居る必要もないし何よりめんどくさい。幸い目の前にいるコイツ──出水は立派なA級だ。後処理だって手慣れてる。

「後は任せた」
「は!? お前何処行く気だよ!?また上に怒られるぞ」
「じゃあ怒られに行ってくる」
「あ、ちょっ!おい名前!」

出水が伸ばした手は空を切る。じわりと痛む右腕をスカートのポケットに突っ込んで、屋上のフェンスから勢い良く飛び出した私はそのまま文字通り空を蹴った。


学校に通っているのは通えと言われたから。

よくサボるのは行ってもろくなことがないから。

最近学校に行く頻度が高いのは多分、あの言葉のせいだ。


本部に向かう途中で見た景色には大嫌いな黒い空間がまた一つ浮かんでいた。
本当に今日は嫌な予感が良く当たる。

□■□

本部に着くとやはり上層部にお呼び出しを受けてこっぴどく怒られた。特に警報鳴る前から屋上に居た(つまりバックレようとしていた事)について怒られたから出水ほんと許さない。

「また怒られたんだって?」
「ある意味迅さんのせいですよ」

声に反応し振り返ると何時も通りぼんち揚げを片手にその人は立っていた。迅さんに少し話さないか?なんて言われて連れてこられたのは本部基地の屋上。学校ちゃんと行ってるみたいだな、とか。調子どうだ?とか。この人は何時もこうやって気にかけてくれるんだ。

学校に行くようになったのも、以前より本部に寄りつくようになったのも、迅さんが居たから。

「名前、未来が動くぞ」
「私には関係ないです」
「そうとも限らないさ」

未来視のサイドエフェクト。
今よりちょっと先が視える迅さんは何時も周りに気を配って、最善の未来を目指している。迅さんの趣味が暗躍だって言われる由縁はそういうところだと思う。


そんな迅さんが──


「迅さんには私の未来は視えてないはずですよ」
「確かにな。そういうなら視えるようにしてくれてもいいんじゃないか?」
「嫌です。視えるようになったら迅さん、私のピンチとか回避しようとするじゃないですか。そんなの御免です」

迅さんの未来視に私の未来は映らない。私のサイドエフェクト無効化は迅さんの為にあるようなものだ。外はすっかり暗くなっていて街明かりがキラキラと眩しい。
もう帰ろう、とゆっくり立ち上がる。

「そろそろ自分のこと責めるの止めても良いんじゃないですか」

一切目を合わせることなく紡いだ言葉に、迅さんは一体どんな表情をしたのだろうか、背を向けた私は視えないフリをした。

未来が視える貴方は、誰かの為にばかりで自分の最善なんて考えない。
だから、救えなかった時に、守れなかった時に何時も自分を責めるんだ。



それじゃあ
貴方に視えない所で死ねないじゃない

(そんな迅さんが──嫌いだ)


01 いつか、消えていく為の準備

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