【スクルドの時計は動かない】





朝から防衛任務があって支部に寄ったら支部長が瀬尾ちゃんと二人でバタバタとこれから本部に向かうと言っていた。会議があるからお前も来いって言われたから任務なんですって笑顔で言ってやった。盛大な舌打ちが返ってきた。支部長酷い。
任務も終わって本部に立ち寄ったけど、今更会議に参加するのも悪い気がする。決してめんどくさいわけではない。嘘、くっそめんどくさい。時間潰しに対戦ブースに足を運んだら何やら人だかりが出来ていた。

「何これ?」
「お、名前じゃん」
「米屋、三雲も。これ何事?」

映し出されている画面を指して問う。ブースでは空閑が戦闘中だ。

「何で空閑?つーかあの餓鬼誰?」
「草壁隊の緑川だよ。お前が絡まれたって言ってたB級。まぁ今はA級だけど」
「あ…?ああ…そういえば居たなそんな奴」
「あの、絡まれたって?」
「緑川が入隊したばっかのまだ訓練生だった頃、名前にランク戦挑んできたんだと」

米屋が思い出したように爆笑してる。蘇る記憶に私は沸々と腸が煮えくり返りそうだ。

「相変わらず生意気なクソ餓鬼だなあいつ。空閑に勝てる訳ないじゃん」
「まぁ勝てねぇだろうなぁ」
「訓練用のトリガーにボッコボコに負けて心折れてくれないかな」
「お前、緑川に対して当たり強くね?」
「生意気なんだよあいつ。それに」

画面の方に視線を向ける。勝負がついたようだ。

「ああいうのは何度も挫折しとかないと成長しないデショ」

空閑の勝利を告げるアナウンスが聞こえた。

「お。ナマエ先輩だ」
「どーも」
「よーし白チビ今度こそオレと対戦…」
「遊真、メガネくん、名前」

米屋の声を遮るように聞こえてきた声。振り返らなくてもわかる。この声は

「げ…迅さん」
「げ、ってなんだよ。ちょっと来てくれ。城戸さん達が呼んでる」
「それ、私も行かなきゃ駄目ですか?」
「お前草間さんに呼ばれてるんだろ。何時まで経っても来ないって怒ってたぞ」

聞きたくなかったその情報。やっぱり断れないのか、とげんなりして溜息が出た。

「あっ!迅さん!!」

げんなりしてたところに聞こえた騒がしい声にまた溜息。緑川、もとい迅馬鹿は本当に五月蝿い。散々騒いだ後、三雲に謝罪して空閑と仲良くなってるのを見ながら素直な所もあるんだなって思ったり。

「名前先輩も居るじゃん!久しぶりに対戦しようよ!」
「前言撤回、お前やっぱ生意気」
「…さて、ほんじゃ行こうか遊真、メガネくん。名前も」
「仕方ないか…」

本日何度目かわからない溜息が零れた。

□■□

「失礼します」
「遅い!何をモタモタやっとる!」

迅さんに連れられてきた部屋に入ったら真っ先に鬼怒田さんの怒声が飛んできた。迅さんはへらへらしてるけど、鬼怒田さんの怒声は地味にダメージを受けるから未だに慣れない。部屋には城戸さんを始め上層部メンバー、宇佐美と蒼也さんと三輪。後、若干お怒りモードの支部長とそれに呆れてる瀬尾ちゃんも居た。私はそそくさと瀬尾ちゃんの隣を陣取った。

城戸さんの言葉を皮きりに忍田さんと鬼怒田さんから近々起こり得る近界民の大規模侵攻が予想されるという話がされた。空閑が呼ばれたのは「近界民としての意見」が聞きたかったらしい。

(何で素直に情報寄越せって言わないんだろ)

今更勿体ぶっても仕方ないと思うんだが。大人達の考えはよくわからない。空閑の方に視線を向ければ思い当たる節があるようだ。

「なるほど。そういう事ならおれの相棒に訊いた方が早いな。よろしく」
「心得た」

空閑の指輪からにゅるりと現れたそれに周りがざわつく。

「はじめまして私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役だ」
「へぇ…珍しい。トロポイの自立トリオン兵か…」
「瀬尾ちゃん知ってるの?」
「ああ。本物見るのは初めてだけど」

瀬尾ちゃんのワクワクした声。レプリカと呼ばれる自立トリオン兵が空閑の父親の話、ボーダーが望む情報を提供出来るという話をしている。レプリカがしようとしている事が視えて、トリオン兵ってこんなに賢いのかと、A級馬鹿三人を頭に浮かべながら思った。城戸さんの口から空閑への安全と権利が保証された。これで近界民だからどうとか、空閑に対してボーダーが動く事はなくなる。

「確かに承った。それでは近界民について教えよう」

レプリカが語り始めるのを耳にしながら、私は右腕で小さく音を立てる黒いそれを眺めていた。



一歩先に歩み出す可能性
(もしかしたらこの右腕の呪縛を解放する手立てを知っているかも知れない)


23 便りに耳を寄せてみる

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