レプリカの情報が加わり、軌道配置図がバージョンアップした。瀬尾ちゃんが若干興奮気味である。そして、現在接近してきている4つの惑星国家が上がる。
海洋国家 リーベリー
騎兵国家 レオフォリオ
雪原の大国 キオン
神の国 アフトクラトル
もう一つ、決まった軌道を持たず星ごと自由に飛び回る乱星国家の存在も語られた。チラリと横目にした瀬尾ちゃんの表情は何処となく寂しげだ。
その後も黒トリガーの事や遠征での戦力の話がされて、会議はひとまず終了した。
「名前、行かなくて良いの?あの自立トリオン兵もしかしたら名前のそれ、外せるかも知れないんデショ」
「ああ…うん。そうだね」
「なに?」
「瀬尾ちゃんが昔のこと思い出してへこんでるんじゃないかなって思っ…痛っ!!」
言い終わる前にふくらはぎを思いっきり蹴られた。めっちゃ痛い。
「オレの事気にしてんの?馬鹿なの?今更あんな配置図見たってオレはもうどうにもなんないんだよ。戻れないし戻る気もない。オレの心配する前に自分の心配しなよバカ名前!!」
一気にまくし立て瀬尾ちゃんはぜぇはぁと息を荒げてる。私はそんな瀬尾ちゃん初めて見たから完全に呆気に取られていた。
戻れないし戻る気もない。
その言葉に込められた闇の深さは、計り知れない。
瀬尾ちゃんの故郷は乱星国家と呼ばれる部類だった。レプリカがバージョンアップした軌道配置図にその国はない。乱星国家だからではなく、もうその国はないのだ。瀬尾ちゃんが此方に来るきっかけになったあの時に、瀬尾ちゃんは故郷と唯一の肉親であった姉を亡くしたから。
「名前がそんな顔しなくても良いんだよ」
「私どんな顔してた」
「すっごいブサイクな顔」
「酷い言い方…」
「オレは……名前に助けて貰って、ボーダー入って、支部長に亜里阿に誘われて、仲間が増えて、今こうして此処に居る。これはオレの意志だ。後悔なんて一つもない」
力強い眼。こういう時、彼は本当に年下なのかなって思わされる。
「名前も後悔しないでよ」
「…ありがと、瀬尾ちゃん」
でもごめん。
多分私は一生後悔しながら生きていくと思うんだ。
例え、レプリカに黒トリガーの事を聞いても。その答えが望み通りでも、そうでなくても。何をどうしても後悔はしてもしてもしきれないんだ。
□■□
「名前、ちょっと頼まれ事良いか?」
「何ですか?」
「今回の大規模侵攻のどっかでメガネくんがピンチになる。最悪のケースはメガネくんが死ぬかも知れない。その時に助けてやって欲しいんだ」
何時になく真剣な表情の迅さんの言葉に息を飲んだ。迅さんの未来視に映ったそれは多分最悪な未来だ。それは回避したい。でも、
「迅さんの未来視に私は映らない。だから、私に言っても未来は変えられないんじゃ」
「実はさっき秀次に同じお願いをしてきたんだ。メガネくんのピンチを救えるのは多分秀次だけなんだけど、そこに誰かが居る未来が視えたんだ」
「誰か?」
「それが誰だかわからない。けど、おれは何となく名前だと思うんだ。だから、もしもの時はメガネくんを助けてやって欲しい」
「…まぁ、もしもの時は迅さんの未来視があろうがなかろうが全部守ってみせますよ」
もう、何も失いたくないから。
「名前、おれは──」
□■□
大規模侵攻が想定されている、とは言っても通常通り学校には行かなくてはいけないらしい。溜息混じりに家を出て空を見上げた。綺麗な青空を眺めながらまた溜息。
嗚呼、今日は凄く嫌な予感がする。
何時も通り授業を受けて、何時も通りの昼休み。米屋は紙パックのジュースを手にしているし、出水は弁当食べてる。
何時も通りの昼休み、だったのに。
「……来た」
窓ガラスを思い切り開けて外枠に手を掛ける。
至る所に浮かぶ無数の黒い空間が眼前に広がる。
「全員今すぐシェルターに非難しな」
米屋と出水が後ろで何か言ってるのを丸々無視してそのまま窓から飛び出した。
「トリガー起動」
地面に着く前に戦闘体へと換装。落下の勢いを使ってグラスホッパーで更に高く飛び上がりそのまま屋根を伝っていく。忍田さんからの通信が入り、迎撃開始の合図が来た。その後すぐに瀬尾ちゃんから通信が入る。
『名前、オレはこのまま凍矢と本部に向かうから名前は基地の西側から回って本部で合流して。他の二人もそれぞれ動いてる』
「西側?迅さんの担当じゃなかった?」
『あの人が大人しくそっちに行くとは思えないし、このまま合流するより敵戦力削れると思うから。南側は天羽だから多分すぐ終わるだろうし』
「了解。瀬尾ちゃんは凍矢と上手く連携して、状況次第ではちゃんと戦うんだよ」
『わかってる…ちゃんと姉ちゃん連れてくよ』
寂しげな声で通信は切られた。
出来る事なら瀬尾ちゃんは戦わせなくない。だけどそんな事も言ってられない。
瀬尾ちゃんのお姉さん──黒トリガーは大事な戦力だ。使って貰わないと困る。
全部守ってみせるって、約束したから。
「名前、おれは──おまえの未来が視えない事が怖くて仕方ないよ」
「今度は誰も、何も失わせない」
例え、私がワタシでなくなっても
(迅さんのつらそうな顔が頭から離れない)
24 あの日誓った約束
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