「蒼也さん!」
忍田さんからひとまず待機命令を受けていた矢先、基地南部にて人型近界民を撃退したとの報が入り、居てもたってもいられなくなって風間隊の作戦室に駆け込んだ。
「蒼也さん!」
「名前か」
「蒼也さん…良かった無事だ…」
「緊急脱出があるんだ。死んだ訳じゃない」
淡々と言われて、それはそうですけど…とどもってしまった。わかってる。緊急脱出があるから、死ぬことはそうそうない、って。でも、
「もう誰も失いたくないんです」
俯いたまま、思わず出てしまった言葉にハッとした。蒼也さんも、同じ傷を持った人なのに。
「ご…ごめんなさい!な、なん、でもない、です」
「…名前」
名前を呼ばれて、頭を撫でられる。温かい手。俺はちゃんと此処に居るって、証明してくれてるみたいな、安心感。
そんな安心感をぶち壊すには十分な、心地の悪い警報が鳴り響く。
「進入警報!どっから?」
「恐らく俺達が会った奴だ。名前」
「はい?」
「俺の眼を視ろ」
「っ!でも…、」
「敵の情報を伝えるのにお前ならこれが一番早い。早くしろ」
緋色の瞳が私を見据える。何時にもまして真剣な声、表情。吸い込まれそうになるその瞳は、揺るがない。
「……わかりました…」
蒼也さんを倒した相手だ。早くしないと大変な事になってしまう。「ごめんなさい」と小さく呟いて私は金色の瞳を蒼也さんの緋色の瞳に重ねた。
黒トリガーの副産物。
金色の瞳はトリオンを介して相手の深層心理、意識の中に侵入出来る。記憶を覗く事も、考えている事も全て筒抜けだ。ただし、深くまで入り込めばそれだけ相手にも少なからずダメージがある。だから出来るだけ、記憶を覗く行為はしたくない。傷付けたくない。
蒼也さんの記憶の扉に手をかけて、もう一度ごめんなさいと呟いた。
□■□
『名前、通信室がやられた!人型が研究室に向かってる!』
「瀬尾ちゃんは?」
『瀬尾はまだキューブ解析で研究室だ。多分だけど、あいつ他の奴逃がすのに最後まで残る気だ』
「瀬尾ちゃんならやりかねないな」
黒トリガー持ってるし。どちらにしても急ごう。凍矢との通信を切って研究室まで全力で走る。
「瀬尾ちゃん!」
「名前か。オレは無事だよ、諏訪さんも無事元通り。今頃人型とやりあってるんじゃないかな」
「そっか。じゃあ私は諏訪隊のとこに行くよ」
少し草臥れた声。いってらっしゃい、という声を背にぐちゃぐちゃに壊された廊下を再び走る。諏訪隊の反応があるのは、訓練室。私と同じく訓練室に向かう反応が一つ。これは、
「忍田さん、怒ってらっしゃる」
これは久しぶりに本部長様の本気が見れるかも知れない。それよりも早く、諏訪隊の援護に行かなくては。
□■□
「諏訪さんどいつをぶった斬れば良いですか」
「名前先輩!」
「お前無茶苦茶な登場すんな」
訓練室まで最短ルートで突っ走り、めんどくさいからメテオラで壁をふっ飛ばして無事現着。あいつだ、と言われた先に居た黒い角を生やした人型。
「こいつが。許せんよくも蒼也さんを」
「ああ?なんだぁクソアマが」
「あいつ口悪いっすね。ムカつくなぁ…細切れにぶった斬ってやる」
「お前も大概だけどな」
諏訪隊と合流して人型を潰しにかかる。といっても、此処は訓練室。相手に決定打は与えられない。蒼也さんから貰った情報では相手は供給機関と伝達脳を常に悟られぬよう体内で移動させているらしい。だから、今やるべきは相手の弱点を見付けること。諏訪隊の散弾銃はまさに適任だ。
「お!?今の手応え……ひょっとして当たりか?」
諏訪さんが相手の弱点を発見した。これで攻め落とせるって思った時だ。諏訪さんの身体から黒い刃が無数に飛び出す。これは、蒼也さんがやられたやつと同じ。敵のトリオン反応が室内を埋め尽くしていく。操作盤に触れた事で仮想戦闘モードが解除され、訓練室が破壊された。
「無敵タイムは終わりか?ヒマつぶしにしかなんなかったな」
「諏訪さん、下がって。私が戦ります」
「ばーか此処で女前にして戦ったら男として情けねえだろ」
「そういうの気にする人ですか」
敵は蒼也さんを倒す程の相手だ。諏訪隊に黒トリガーを見られたくけど本気で行くしかない。じゃないと、守れない。
「旋空弧月」
凄い勢いで壁が破壊されて、聞こえてきたその声に反応して上を見上げる。戦闘体の忍田さんを見たのは久しぶりだ。
「よく足止めした諏訪隊、ご苦労だったな」
「イヤイヤまだ死んでないスよ」
「名前も良くやってくれた」
「いえ」
「鬼怒田さん悪いが壁を修復してくれ。こいつを逃がす訳にはいかないからな」
「逃げる前にぶった斬ります」
「……あぁ?誰が逃げるって?この程度でオレに勝てる気でいんのか!?雑魚トリガーが!!」
「当然だ。貴様のような奴を倒すため我々は牙を研いできた」
「雑魚かどうかは、お前の身体で試してやるよ……戦神の鎖!!」
ジャラリと音を立てた複数の鎖が、奴目掛けて飛んでいく。金色の瞳も黒トリガーも出し惜しみなんてしてる場合じゃない。
瞳に宿す決意
(例えこの先蔑まれようと、今を守れなきゃ意味がない)
26 大切を失うくらいなら
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