【スクルドの時計は動かない】





黒い鎖はトリオンに反応して奴の身体を容赦なく貫いていく。貫いたのは偽物のようで、奴には何のダメージも与えていない。

「…何でテメェみてぇなクソアマがそんなもん持ってんだ?」
「っ!お前、これを知ってるのか!?」
「さぁな?それより良いのか?よそ見してて」

瞬間、襲ってくる黒い刃を忍田さんが弾き返す。

「すみません、忍田さん」
「名前今は目の前の敵に集中しろ」
「はい…」

奴は戦神の鎖を知っている?だとしたら、これの外し方も知っているかも知れない。考えれば考えるだけ、戦いへの集中力は削がれていく。今は、目の前に集中しなくては。ふぅ、と大きく息を吐き出して再び奴と対峙する。

『トリオン展開!気体攻撃です!』
「堤!」
「了解です空調を全開にします」

室内の空調が全開にされ、奴のトリオン攻撃は押し返される形となる。

「奴の弱点の位置情報をくれ」
『ダミーも同時に映ってしまいますが……』
「構わん。何れにしろ全て斬る」
「忍田さん、援護します」

右手に戦神の鎖。左手はバイパー。
奴を仕留める準備は万端だ。

忍田さんの斬撃が奴のダミーをピンポイントに削っていく。黒い刃をバイパーで破壊しながら鎖はダミーを貫いていく。

「ダミーの生成が追い付いてないんじゃない?ほら、もう終わるぞ」
「貴様のトリガーは火力よりもその特殊性が武器だ。ネタが割れれば強みを失う。貴様の敗因は──」



「「我々(私ら)の前ではしゃぎすぎたことだ」」

鎖と刃が最後の二つを粉砕した。

これで終わり、そう思った瞬間黒い塊が蠢き、また、奴は姿を現した。土壇場で弱点をカバーから外して逃げたか、くそ。バッと、視えた未来。頭の中で警告音が鳴り響く。マズい。

「流石よく避けたなぁ……けど気をつけろよ。今はこっちが風上だぜ」
「忍田さん!」

声が先か、後か。忍田さんの身体を黒い刃が貫いた。急いで忍田さんに駆け寄る。

(くそ、視えてたのに、また…)

「あ?即死しねえな小癪にも体ん中に盾張ったか?けど手応えはあったぜ。伝達系はズタズタのはずだもうまともに動けねーだろ?あ?敗因がどうのとか言ってたなぁボス猿さんよ。教えてくれよオレの敗因ってやつを」
「貴様…許さない…」
「うるせぇクソアマだな。お前も穴だらけにしてやるよ」
「……いいだろう、すぐにわかる。私の仕事はもう終わった」

諏訪隊の迎撃。スタアメーカーが適用されこれでダミーはもう効かない。カメレオンで笹森が近付くが、奴にはバレてる。笹森がやられて緊急脱出する。


未来が視えた。


「球を集中させろ!!」
「トロいぜ!!」
「そっちがね」「くたばれ」

風間隊二人の刃と、戦神の鎖が今度こそ奴を貫いた。

「伝達脳と供給機関を破壊。任務完了」
「猿ども……が……!!!」

「ダミーが一度ゼロになった時点で隠密組が決める形は整っていた。我々の勝ちだ」
「トドメ刺したのは風間隊ってことでよろしく」
「おいてめぇ菊地原!」
「私もなんだけど」
「黒トリガーは反則なんで駄目です」
「ちょっと蒼也さん!おたくの隊員口の効き方なってないですよ!」
『名前、よくやった。感謝する』
「っ…!蒼也さん、そういうのズルいです」

蒼也さんのお陰で勝てたんです。そう言ったら「そうか」って優しい声が返ってきた。

忍田さんの命で人型の捕縛に入る。生身とはいえ容赦は出来ない。風間隊の二人と一緒に近付いた所で、新たな女の人型が現れた。空間操作の出来るトリガーって、反則だろ。迎撃に入ろうとしたその時、女は奴の腕を斬り落とした。

「回収を命令されたのは黒トリガーだけなの」
「酷い……仲間じゃないのかよ…」

ギリっと、奥歯を噛み締めた。こうも簡単に仲間を見捨てられるのか。

「"泥の王"を使って通常トリガーに敗北するなんて致命的ね。ああ…そういえば、"戦神の鎖"を持った子が居たようね」
「お前もこれを知ってるのか」
「ふふ…知ってるわよそれが何か。でも教えてあげない。精々苦しみなさい」
「っ!」

不適に笑う女の言葉に、右腕がズキリと痛む。左腕を落とされたエネドラと呼ばれた男の最後の言葉を聞かずして、女はとどめを刺して空間に消えていった。



右手の痛みは治まらない
(手を伸ばせば届いたかも知れないのに痛みがそれをさせてくれなかった)


27 伸ばした手は空すら切らない

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