【スクルドの時計は動かない】





未だに痛む右腕を無理やり抑えつけながら、私はまた走った。基地内に侵入してきた人型の件が片付いたので次は外だ。ついさっき凍矢から通信が入り出水が敵の親玉と戦りあってるらしい。三輪隊の狙撃手二人と冬島隊とで屋上から迎撃にあたると。

「間に合えっ…!」

□■□

瀬尾ちゃんのワープを使って最短で駆ける。ようやく無数の魚を纏った角の男と、足をやられてる出水が見えた。この距離ならいける。魚と魚の間をすり抜けるようバイパーを叩き込むが、それより向こうの攻撃が早く出水が緊急脱出した。

「出水!…間に合わなかったか…」
「新手の射手か」
「うちの同級生に随分な事してくれたじゃないか。今度は私が相手するよ」
『名前!気をつけろそいつ強ぇぞ』
「安心しろ、私も強いから」

口調はあくまで何時もと同じ。だけど金色の瞳で見据えた標的には一切の隙も見せない。迂闊に動く訳には行かないが、このままじっとしている訳にも行かない。さてどうしようか、考えていた私の目の前に現れた烏丸と米屋。

「お?京介ずりーやつ使ってんじゃん」
「烏丸ガイスト起動中かよ」
「米屋先輩逃がしたC級が迂回しつつ基地に向かってます。キューブにされた隊員も何人かそっちの道に転がってます。保護して護衛して下さい。名前先輩は修の援護を。俺はもうヘルプに行けません」

ガイスト起動したら緊急脱出は確実だ。トリオンフルの状態で五分弱、ということは大方三分程度しか持たないだろう。

「わかった。お前の弟子は私が守ってやるよ」

此処は二人に任せて三雲の元へ走った。

□■□

三雲の影をようやく捕捉。すでにさっきの人型が回ってきてるということは烏丸が緊急脱出したということか。

「三雲無事か」
「苗字先輩!」
「よぉ大将さん。うちの同級生といい、後輩といい随分可愛がってくれたみたいだな」

最初から手なんて抜かない。出し惜しみなんてしない。痛みとか気にしてられない。一切の迷いはなく、戦神の鎖を奴に向ける。

「ミラが言っていたのはお前のことか」
「お前ら寄ってたかって人の事知ったふりしやがって。聞きたい事は山のようにあるけど本部に連行してからゆっくり聞かせて貰うとするさ」

今は雑念に捕らわれてる暇はない。私が此処にいるということは──


「標的を確認した、処理を開始する」

聞こえた声に振り返る。苦虫を噛み潰したような険しい顔をした三輪がそこには居た。

(迅さんのサイドエフェクト…)

三雲の元に三輪と私がいる。それ即ち、迅さんが視た未来に近付いている、ということだ。

私はまた、歯車になっているのか。

「あくまで俺を使う気か……!迅……!」
「み……三輪先輩!千佳を……こいつを頼みます!キューブにされたうちの隊のC級です!ぼくは此処で近界民を食い止めます!千佳を…千佳を助けてやって下さい!」

三輪に助けを求める三雲の姿が、あの時の三輪の姿と重なった。



そしていつかの弱い自分とも
(声を駆ける前に容赦ない三輪の蹴りが三雲を吹っ飛ばした)


28 あの時救えなかったもの

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