【スクルドの時計は動かない】





「三雲、お前はとりあえず本部を目指せ。その子、チームメイトなんだろ。三輪、奴を仕留めるぞ」
「俺に指図するな。あいつは俺が殺す」

三輪が飛び込んでいく。相性的には悪くないが相手は黒トリガーだ。油断していたらこっちがやられる。三雲を守りながら戦える程、トリオンの余裕ももうそんなにない。さっさとコイツを倒してしまった方が得策だろう。

三輪の鉛弾が動きを封じる。細かく分散したシールドでキューブ化の弾を弾きながら距離を詰めていく。弾の合間を縫って鎖を叩き込む。避けられようとも構わない。相手がトリオンキューブで鉛弾を相殺する頃には完全に三輪の間合いだ。

「苗字邪魔をするな、コイツは俺が殺すと言っただろう」
「相手は黒トリガーだぞ余計な気を回すな。相手にだけ集中してろばーか」

三輪が舌打ちだけ返して再び敵と向き合う。

『名前聞こえるか?』
「凍矢?どうした?」
『本部前で三雲がワープ女に捕まってる!本部上はラービットだけになったからもうすぐヘルプ行けるが多分間に合うかどうかってとこだ!』
「…了解」

今度は私が舌打ちする番のようで。敵は本格的に雨取を捕獲するつもりだ。私達二人を相手にしながら徐々に本部の近くに移動させられていて合流を許してしまった。
完全に相手のが一枚上手か。

三雲の護衛をしていた黒いラービットがキューブ化されていく。このままではマズい。

(三雲のフォローに行くか…いや、此処で三輪が落ちる方が不利だな)

一瞬、奴らが驚いた顔に変わる。味方がやられたか。遠くの方で大きなトリオン反応が消えるのは感知出来たし、此方に向かってくる反応もある。これは、

(空閑か…)

空閑のトリオン量は残り僅かだ。それでも此方に向かってくるということは、彼もまた守りたいものがあるから。

ならば──

ドカッ!と大きな音を立てて本部上から落ちてきたラービット。それを合図に各自が動き出す。

三雲が動き、それを守るべく黒いラービットが盾になる。黒い棘に貫かれた三雲に襲いかかるキューブ化の弾。

(大丈夫、未来は視えてる)

「トリガー解除!!」

寸での所で換装を解除。トリオンにしか効かない弾はガラスのように砕けていく。

「お前らの相手は俺だ!!」
「煩いぞ」

三輪の後方にワープ女が空間を開ける。
チャンスは──今。

「来たな馬鹿が」「待ってたよばーか」


空間を通して三和がバイパーを、私が鎖をありったけぶち込んだ。弾と鎖は奴らの身体を貫く。あと一歩だ。三輪と同時に地を蹴った。

「「くたばれ」」
「隊長!!」

瞬間、黒い空間が現れ私達二人は基地から引き離された。このままじゃマズい。

「瀬尾!今すぐ三雲の所に飛ばせ!」
『っ!無茶言うな!もう名前のトリオンじゃ』
「換装は解除してありったけのトリオン全部回して奴を仕留める!良いから早くしろ!」

時間がない。此処で仕留めるしかない。瀬尾ちゃんの返事はなくトリガー解除と同時に私の身体は空間に飛ぶ。寸前で三輪が風刃を起動しているのが視えた。

□■□

三雲の背中が見えた。すぐにトリオンの反応を感知。黒い棘が三雲の身体に突き刺さる未来が視えた。伸ばした手は僅かに三雲の背を押し、急所は避けられたが腹部と足に傷を負い、ついでの追撃で私の身体にも一本黒い棘が突き刺さった。三雲の足が潰されたのは痛手だ。

「くっ…!クソ女っ…!」

つくづく腹が立つ女だ。でも今はそんなのどうでもいい。敵がもうすぐ近くまで迫ってる。三雲は抱えていた黒いもの、空閑のお供だといった自立トリオン兵を投げる構えに入る。狙いは遠征艇か。

本部上からの援護射撃。それより遙か右上後方から、空閑のトリオン反応。


そして視えた未来。


「これで終わりだ」

遠方からの三輪による風刃の斬撃
その後すぐに空閑の弾と私の鎖が奴の身体を貫いたのと、三雲がレプリカを投げ込んだのはほぼ同時だった。
倒れ込む三雲。それにつられるように膝を付きかけて立ち直す。まだ倒れる訳には行かない。

「隊長!」
「艇を調べろ!」
「帰還の命令が実行されています!緊急発進まであと60!……命令を変更出来ません!金の雛鳥を持って早く艇へ……!」
「…ざけんな…それは、渡さない…」

ふらつく身体を引きずってキューブを持った奴に手を伸ばすが、それは空を切り今度こそ地面に膝を付く。

「……!?これは…違う。ただのトリオンキューブだ替え玉か……!」
「時間がありません!隊長!」
「………仕方ない金の雛鳥は放棄する。発進までに艇の門をまわせるか?」
「はい!ヴィザ翁を回収します!」

奴らの声が遠くで聞こえる。雨取は、三雲は、大丈夫だろうか。

(嗚呼、これはマズいな…力が入らないや…)

「隊長、その娘はいかが致しますか?金の雛鳥の代わりに連れて行きましょうか」

目の前に立つ影。多分、敵の大将だ。力の入らない座り込んだままの状態で顎を掴み上げられる。

「そんな身体でまだ随分と好戦的な眼をしているな」
「…だま…れ……はなせ…」
「確かに惜しい駒だが、此方からわざわざ禍を招き入れる事もないだろう。一つ教えてやろう。金色の瞳の女よ、お前は──」

意識が途絶えそうになる中で奴が耳元で囁いた。

空が晴れた。奴らの艇は空間に消えていった。朦朧とする頭を、身体を無理やり動かして三雲に近付く。出血が多い。意識もない。でもまだ生きてる。残ったトリオンはごく僅か、だけど。

「大丈夫…お前は死なせないよ」

三雲の右手にトリガーホルダーを握らせ、それごと私の右手で包み込む。

『バカ名前何考えてんだ!』
「やくそく…したから…」

盛大な舌打ちが聞こえた気がする。瀬尾ちゃんの舌打ちとか珍しいな、なんて考えられるだけまだ頭は正常だ。


「"戦神の鎖"…接続(コネクト)……(アンド)侵入(インヴァイト)


□■□

「メガネ先輩!だいじょぶっすか!?メガネ先輩!!ちゃんと言われた通り隠してたチカ子見つけてきたっすよ!」
「名前!」

複数の声が聞こえた。
知らない女の子と、米屋と、瀬尾ちゃんと凍矢だ。

「バカ名前早くその手離せ。そっちの眼鏡は医務室に運ぶ」
「手ぇ離したら…意味がないだろ…連れてくなら、このまま…連れてけ…」
「お前死ぬぞ」
「は?おいどういうことだよ」

状況を理解している二人と理解していない二人。米屋の言葉にイライラがピークの瀬尾ちゃんが声を荒げた。

「だから!このバカ自分の身体とトリオンを介して三雲の生命維持装置の代わりにしてんだよ!こんなボロボロの状態で…自分を犠牲にして…」
「そんな事出来んのかよ…」
「出来るんだよ…!名前には相手のトリオンと直結出来る黒トリガーがあるし、その技術はオレが作ったんだから…!」
「おい…んな事良いからさっさと眼鏡と隊長運ぶぞ」

微かに聞こえてくる瀬尾ちゃんと凍矢の声は酷く苦しそうに聞こえた。

「…あんしんしろ……みんな、まもる…って…きめた…から…だから…」



ぷつりと、切れる音がした
(そこで私は深い深い所に意識を手放した)


『人型近界民撤退!修くんは意識不明の重態だって!千佳ちゃんは基地に入ったよ!』
「くあ〜〜っもう大丈夫だ二人とも助かった。メガネくんは死なないよ」
『ホントに!?よかった〜〜!」
「(レプリカ先生のおかげだな……)」
『…でも名前がっ…!』



29 繋ぎ止めていた細い細い糸

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