何度呼びかけても目を覚まさない。私の大切な彼女は何時だって他人を優先させて自分は後回し。そして、
──何時だって私を置いてけぼりにする
けたたましい警報が聞こえてきたのは丁度学校で昼食を取っている時だった。避難指示が飛び交う中、私は隊と合流すべくすぐに戦闘体となり戦場となった街へ駆け出した。
『凛香ちゃんは合流なしでそのまま南地区向かって。東隊が戦闘中だからそのままそっちのサポートお願い』
「何で私がB級のサポートなんですの?」
『そこからだとそっちのが効率良いし……名前からのお願いなんだけどな…』
「喜んで行きますわ」
『(ちょろいな…)』
普段は戦闘なんて御免だけどこんな日にそんな事言ってられないっていうのはわかる。オペレーターのお仕事は瀬尾ちゃんに任せて基地南部に向かった。
本当は今すぐにでも名前の元に駆けつけたかった。だって、私がこうして戦うのは、名前が居てくれたからだから。名前と出会えたから今の私は此処に居る。私に此処に居る意味をくれた名前の元で戦う事が、私の役目。
だけど名前は何時も傍に置いてくれない。
フラッシュバックが怖いから、と以前言われた事がある。我を忘れて暴れてしまった過去をなるべく思い出させたくない、と。自分の傍にいては、巻き込んでしまうから、と。そんな理由だった。
『凛香ちゃん聞こえる?大丈夫そ?』
「名前!無事ですのね!こっちは大丈夫ですわ」
『そっか。凛香ちゃんただでさえサイドエフェクト使わせて貰って負担掛かってるからあんまり無理しなくていーからね』
「それはこっちの台詞ですわ。名前、お願いですから無事で居て下さいね」
大丈夫だよって、言って切られた通信。負担が掛かってるのはお互い様なのに。何時もこうやって他人の事が優先。こういう時の名前は何時だって自己犠牲な事、頭ではわかっていたのに。その時の私はただ、名前の無事を祈ることしか出来なかった。
B級部隊と合流し、遭遇した人型近界民を級の三馬鹿と撃退。そのまま言われた通りB級のサポートで南部地区の救援をしていた。空を覆っていた厚い雲は消え、再び陽の光が差し込む頃。名前との感覚共有が途絶えた事に気付いた。
近くに居た隊員達の声も無視して全力で走った。名前に何かあった。早く行かないと。それだけが頭を支配していた。
「名前!」
「おい馬鹿!静かにしろ!」
凍矢の制止を振り切って病室に駆け込む。そこで見た光景は白いベッドに横たわって目を閉じたままの名前の姿。
「名前…なんで…」
「迅の後輩助ける為にそいつと繋がって、そのまま意識ぶっ飛ばしたんだよ」
「長時間の黒トリガー使用と感覚共有に加えて、ワープの連続使用と戦闘でトリオン空っぽになるまでボロボロになって。ほんと、バカだよね…」
「それだからこそ僕達の隊長、なんだけどね」
部屋の中は亜里阿のメンバーだけ。
私が最後。また、最後。
横たわる名前の手を取る。柔らかい手を握っても反応はない。呼びかけても返事はない。
「なんでですの…なんで…いつも…貴方ばかり…なんで…なんでいつも…私を置いてけぼりにするの…名前…」
「凛香ちゃん…」
「無事で居てって言ったじゃない…馬鹿…」
何時も、名前の元に駆けつけるのは、私が最後なんだ。だからせめて、無事で居て欲しかったのに。
「名前が助けた子は何処に?」
「おい…お前まさか、」
「勘違いしないで下さい。私は名前が命懸けて守った子を傷付ける気はありませんわ。本当はぶっ殺してやりたいけど。それは名前が怒りますし。ただ、その子が目覚めた時たっぷりとうちの隊長の有り難みを存分に叩き込むだけですわ」
本当は今すぐにでも殺してやりたい。
名前に害を為す全ての物をこの手で払ってしまいたい。でもそれは、違うって、彼女に教えて貰ったから。
「…ふふ…そうだね。ついでにバカ隊長にも自分の大事さとオレ達がどんだけ心配したか説教してやろう」
「あら。瀬尾ちゃんそれはナイスアイディアですわ」
「お前らなぁ…」
悔いていても仕方がないんだ。腸が煮えくり返りそうな気持ちを抑えつけて。此処でまた暴れてしまっては、名前が哀しむから。
今は例え、皆が空元気でも。
何時も彼女が私達を想っていてくれてるように、私も彼女を想っていたい。
私の大切な人は、まだ目を覚ましてくれないけど
「名前、貴方がお休みの間、お馬鹿な男共は私がしっかり手綱を握っておきますわ」
目を覚ました時に、万全の笑顔で迎えられるようにしよう。
貴方の帰る場所を守ること
(それが私に与えられた役目ですわ)
置き去りの心を集めて歩き出す
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