屋上から名前がやろうとしている事が見えた時には既に走り出していたし、取り乱してる瀬尾の通信がやたらと頭に響いたのは今でも覚えている。
名前が玉狛の眼鏡を助ける為に、戦神の鎖を使った。夏美の黒トリガーと瀬尾のトリオン技術が融合したチート技を俺は知っている。見たことある。
だって俺がそのチート技で救われた奴だから。
遠征時の緊急脱出の条件は遠征艇から3km以内となっている。それ以上離れると緊急脱出は出来ず生身の身体に戻ってしまう。俺はそれを知っていたにも関わらず基地から離れ独断で行動し、多くの被害を出し自分も死にかけた。あの時、死ねば良かったのかも知れない。実際、多くの被害を出した事を咎める者も今でも少なくない。それでも俺は今、いろいろ不便は抱えているもののちゃんと生きている。
名前に救われたのは二回目だった。
一回目はボーダーに入る前。第一次大規模侵攻の時、近界民に襲われていた所を助けられた。
二回目が、それ。
俺は名前に救われた命を、名前の為に使うって、ずっと前から決めていた。
今回の大規模侵攻で、アイツが無茶やるのは目に見えていた。そういう奴だからうちの隊長は。だからせめて、アイツが派手に喧嘩を出来るように、アイツの背中を守れるように、俺は戦おうって決めていた。
それなのに──
沢山の管に繋がれて横たわる名前は未だ目を覚まさない。瀬尾が言うにはトリオン接続を切らないで意識を飛ばしたから三雲が目を覚まさないと多分名前も目を覚まさない、らしい。難しい事は良くわからないが、瀬尾がそういうなら多分そうなんだろう。近界民に負わされた傷は大した事はないようで今はちゃんと塞がっているし、傷痕も残らないとのことだ。
瀬尾はずっと塞ぎ込んでる。元々俺達以外には懐いてないし、名前はこいつにとって特別な存在だからわからなくもない。それは俺も同じ事。塞ぎ込んでる訳にいかねぇのは、多分──自分の非力さを痛感してそれどころじゃないから。
結局俺は、大切なものを守れなかった。
あの時と同じだ。
名前に救われた命も、名前の為に使えてない。
不甲斐なさだけが募っていく。
「オレ、鬼怒田さんに基地の復旧手伝うよう言われてるから行くけど、凍矢は?」
「…俺はもう少し居るわ。帰りは自力で帰る」
「わかった」
瀬尾が出て行った病室内は、ただ規則的に機械の音が響くだけでそれ以上の音は何もない。
戦神の鎖が暴走しないよう、名前の四肢にはトリオン抑制具っていう瀬尾が作った機械がくっついてる。病室の中も一応結界がしてあるらしいけど、実際暴れ出したら俺が止めなきゃなんだろうなと考えたら溜息が出た。俺は守りたい奴も守れないばかりか、そいつに刃を突き立てなきゃならないのかって。
「隊長早く目ぇ覚ませよ。瀬尾は塞ぎ込んでるし凛香はギャアギャア五月蝿ぇし悠士は何考えてるかわかんねぇし大変なんだよ」
人形みたいな綺麗な顔のほっぺたを摘まんでみる。普段なら嫌な顔されて手を払われるそれが、今はない。ほっぺたは柔らかいし体温だってちゃんとある。大丈夫、生きてる。黒い腕輪と厳つい鎖が巻き付いてる右腕は相変わらず人形みたいに冷たいけど。
「おい名前、ちゃんと目ぇ覚ませよ。んで、次は絶対俺に守らせてくれ」
勝手な事したら許さねぇからな。
名前の右手を握り締めた拳に落ちる一雫。人知れず左目から頬を伝ったそれは──。
涙に誓う
(もう絶対傷付けさせないという誓い)
この身体が朽ちても守りたい
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