女近界民に受けた傷と未だ戻らない右目と、一週間も意識不明だったというトリブルコンボによりもうしばらく入院していなくてはいけなくなった。いろんな人がお見舞いに来てくれるから退屈はしないのだが、忍田さんにはお前の両親に面目たたないと頭を下げられるわ、三雲を始めとした玉狛メンバーは命の恩人だとか大袈裟だわ、馬鹿トリオはギャアギャア五月蝿いわで居心地悪くて仕方ない。レイジさんから「風間が心配してたぞ」と聞いた時は白目剥くか思った。それ絶対蒼也さん怒ってるフラグ。多忙なようで目が覚めてからお会いしてないけど会った時は覚悟しとかないといけない。
そしてようやく医者からの許可も降り、明日には退院出来る事にはなったのだが、本当に大丈夫なのか?とさっきまで凛香ちゃんが喚いてた。こういう時の世話焼きはほんと勘弁して欲しい。ようやく静かになった病室にまたノック音が響いた。
「はいはいどーぞー」
「何だ元気そうじゃねぇか」
「師匠!!」
「だからそれ止めろって」
制服姿の荒船先輩はお土産だと小さな箱をサイドテーブルに置いてベッド横のパイプ椅子に腰掛けた。箱に書かれたロゴは駅近くにある喫茶店の物で、そこは以前から行きたいと思っていた所なんだけど。
「え?何で先輩がこのお店知ってるんですか!?」
「……奈良坂に聞いた」
「奈良坂?」
アイツは確かにスイーツ仲間だし、アイツ自身がもはや女子並みのスイーツ狂だ。ケーキが美味しいお店だから行ってみたいって奈良坂と話した覚えはある。それを何故アイツは荒船先輩に話したのだ?違う。何故荒船先輩は奈良坂とそんな話をしているのだ?
「狙撃手内でスイーツ男子増えたんですか?」
「違ぇよ。お前が行きたがってたって聞いたから、」
しまった、と罰悪そうに顔を背けた荒船先輩。おまけに舌打ちまでされた。え、まさか、そんな。
「わざわざ私の為に?」
「ああそうだよ!悪ぃかよ!」
逆ギレされた。別に何も悪いなんて言ってないのに。むしろ普通に嬉しい。しかし此処で素直に出ても面白くない、という思考に働く時点で荒船先輩が言うように私はだいぶたちが悪いんだと思う。
「有り難う御座います嬉しいです」
「…おう」
「でも折角なら先輩と一緒に行きたかったな」
「っ!!…ゲホ…はぁ!?」
お茶を噴いた。変な所に入ったのか咳き込んで涙目の荒船先輩は驚いた顔をして声を大にした。まさにしてやったり。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか、傷付きますよ」
「お前ほんとふざけんなよ」
「別に嘘は言ってないですよ。あ、先輩。私明日退院なんですよねー」
「そーかよ」
「荒船隊論功行賞でボーナス入りましたよね?」
「苗字隊よりは貰ってねーけどな」
「退院祝い、お好み焼きが食べたいなー後美味しいケーキも食べたいなー」
チラリと横目で荒船先輩を見る。荒船先輩は盛大に溜息を吐き出して頭を掻く。帽子を被ってない荒船先輩は新鮮で、もちろんこんな仕草も新鮮だ。暫くして軽い舌打ちの後、諦めたように了承してくれる荒船先輩の姿が視えてニンマリしたのは内緒の話。
甘い甘いケーキのように
(デートですね、って言ったら全力で頭叩かれた)
31 甘やかして欲しいと思う心
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