【スクルドの時計は動かない】





二月一日ボーダーB級ランク戦開始。玉狛の初戦は吉里隊と間宮隊。三雲は体調が万全ではないからと今回は出ないらしい。そして多分武富に捕まったんだろう、解説席に座ってやがる。

「唐沢さんが無茶させるからじゃないですか?」
「ははは、そうかも知れないな」
「夜の部はあっという間に終わりそうですね」
「どうだろうね」

たまたま出逢った唐沢さんに誘われるまま二階の喫煙席で試合を見届ける事になった。とはいっても、多分すぐ終わる。三雲が居ようが居なかろうが、B級下位じゃ空閑は止められないだろう。案の定、勝負は一瞬で決着がついた。つまんねぇなって思ってたら次の対戦カードが発表されて、私は唐沢さんに手早く挨拶だけしてその場からダッシュで駆け出した。

「面白い事になりそうだ」

今からニヤニヤが止まらない。今日はもう本部に居ないだろうから早く明日になれ。

□■□

翌日朝からウキウキが止まらない。支部に顔を出した後、早々に本部へと足を運んだ。ランク戦翌日というのもあって、B級チームの面々がチラホラ見受けられ、その中にお目当ての人影を発見した。此方には気付いていないようなのでモスグリーンの隊服に身を包んだ彼の背中に思い切り抱き付いた。

「諏訪さん!お久しぶりです」
「うぐっ…!!名前!!テメェいきなり何しやがる離れろ!」
「照れてるんですか可愛いなぁもう」
「良いから離せ」

そろそろ本気で怒られると察し、首に回した腕を解く。

「こんなに可愛らしい女の子が抱き付いてるのに離せだなんて据え膳食わぬはなんたらですよ」
「自分で言うな自分で」
「名前先輩退院されたんですね。もう大丈夫なんですか?」
「へーきへーき。諏訪さんこそ身体大丈夫ですか?随分窮屈な身体にされたみたいでしたけど」

ニヤリと笑えば明らかに嫌な顔されて溜息吐かれた。堤さんが言うにはキューブ化の一件で色んな人(特に蒼也さん)に散々いじられたらしい。蒼也さん流石。

「お身体変わりないなら良かったです。うちのエンジニアが多少心配してたので」
「そーかよ。まぁ、なんだ、世話になったな」
「いえ。あー……忍田さんに口止めされてると思うんですけど、人型近界民との戦闘での事は内緒にしといて下さいね。うっかり喋っちゃいそうなら私が記憶消すんで言って下さい」
「随分物騒な対処法だね」
「あの時は緊急事態故、普通に使っちゃいましたけど、私のこれは本来重要機密事項なので」

大規模侵攻で諏訪隊に見せてしまった黒トリガー。秘密を隠し持っているのが息苦しいのであれば、消してしまえば良い。忍田さんから話しておいてくれたようだったけど、こういうのはやっぱ自分で言わなければと思った。諏訪さんや堤さん、笹森、小佐野がペラペラと話すような人ではないのは知っているけど、やはり不安ではある。諏訪さんは本日二度目の溜息の後、私の頭を思いっきりぐしゃぐしゃにしてきた。

「痛い痛い痛い痛い!諏訪さんいきなり何ですか?」
「んな辛気臭ぇ顔すんなよ。誰かに言うつもりなんてねぇから安心しろ。今までとなんも変わんねぇよ」

今までと変わらない。堤さんも笹森も小佐野も皆笑顔だ。嗚呼、温かいな此処は。

「その代わり対策付き合えよ。どーせ玉狛の奴と知り合いなんだろ」
「お安い御用で。そしたら笹森借りて良いですか?ボッコボコに鍛えてくるんで」
「よし日佐人行ってこい」
「オレボッコボコにされるやつですね」
「ほれ、さっさと行くぞ笹森」

諏訪隊から笹森をお借りしてランク戦ブースへと向かった。笹森と手合わせするのは久々だ。どちらかといえば良く相手する可愛い後輩の筆頭なんだけど最近は御無沙汰だった気がする。「色々ありましたからねー」なんて話ながらブースに入って何時も通り十本勝負を行う。大体何時も前半五本は笹森と同じ弧月で、後半は何時も通りの装備で戦うのだが今日は空閑の対策も込みだろうから最初から通常装備で相手する。

「ほらほら踏み込みが甘いよ?弧月ならスコーピオンくらい一刀両断出来るデショ」
「ぐっ…!!」
「そんな動きじゃ捕まらないから。はい終わりー」

トリオン供給機関にスコーピオンを突き立てて笹森は緊急脱出していった。ブースから出でそのまま二人で反省会。頑張った可愛い後輩にジュースを御馳走してやる、これもまた何時もの流れ。

「なんかあれだね」
「はい?」
「ちょっと見ない間に逞しくなったね」
「そうですか?」
「うん。戦い方に迷いがなくなった気がする」

大規模侵攻で何かを得たのか。それはわからないけど、以前の笹森より冷静さが感じられる。

「でも名前先輩にはまだまだ及ばなかったですね」
「そりゃそうさ。私を誰だと思ってんの」
「そうですね」
「真面目な話。空閑の事抑えるだけならまともに斬り合うのはオススメしないかな。アイツ戦い慣れしてるし、敵はほら、玉狛だけじゃないし。笹森が抑えて諏訪さん達が仕留めるやり方なら今の装備で一番効果的なのは、」
「カメレオン、ですか?」
「お。わかってるじゃん」

カメレオンで姿を隠して捕まえる。隠密トリガー使用中は他のトリガーが発動出来ないけど、肉弾戦ならそんなの関係ない。実際さっきの戦いの中でも隠密トリガーを使用して近付いてくる事が多々あったし。蒼也さん達みたいに隠密戦闘の熟練者ではないにしても、笹森自身好んで使ってるトリガーだ。使いようによっては、或いは──

「まぁ上手くやりなよ。試合楽しみにしてるから」
「はい!有り難う御座います!」
「あーあ私も笹森みたいな子だったら弟子にしても良いんだけどなぁ」
「ほんとですか!?」
「うん。ああ、でも私弧月は手本になれないから駄目だ。残念」



自由派攻撃手の性
(やっぱ私が弟子持つのは無理だろうなって察した)


33 丁度良い距離感

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