防衛任務を終えてそのまま本部へと足を運ぶ。B級ランク戦第二戦夜の部。これを楽しみに今日は任務も頑張った。ウキウキ気分で廊下を歩いていたのが間違いだった。
「ああああ!!苗字先輩!!!!」
「げっ…武富…っ!!」
数秒前までウキウキだった私のテンションは一気にだだ下がりしたし、逃げられない未来が視えたので盛大に溜息を吐き出す。
今日コイツにだけは絶対会いたくなかった。
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「解説席には先日の大規模侵攻で一級戦功をあげられた……東隊の東隊長と草壁隊緑川くん、それから同じく大規模侵攻で特級戦功をあげられた亜里阿第一の苗字隊長にお越し頂いています!」
「どうぞよろしく」
「どもっす」
「っ…ども…」
どうしてこうなった。
実況の武富がテンション高めに話してるのを全部聞き流してるしさっきから溜息しか出ない。だいたい、解説席に三人とか見たことないから。普段ランク戦なんか来ないから知らないけど!緑川が「名前先輩が此処に居るの珍しいね」とかニヤニヤしてきたからとりあえずど突いてやった。うるせぇよクソガキ。東さんが地形どうこうと話してるうちにステージが決定。玉狛第二が選んだのは市街地C。うわ、超ウケる。
東さんが地形の解説をしてる横で思わず吹いてしまった。いやだって、これは。
「となると、狙撃手がいない諏訪隊は…」
「いやー超きついでしょ。上取られたら動けないよ。今頃諏訪さん切れてるだろーなー」
「諏訪さんまじドンマイ」
多分荒船先輩は今頃超ドヤ顔決めてるんだろうな。嗚呼面白い。
「まぁでも面白い試合になりそうだ」
各隊員の転送が完了し、試合が始まった。
戦況は目まぐるしく変わっていく。荒船隊が上を取り、完全に荒船隊が有利な展開。普通ならそう思うんだ。玉狛第二が下から荒船隊に砲撃を開始し、武富の実況にも熱が入る。東さんが解説してるのを聞きながらついついニヤケてると緑川に袖を引っ張られた。
「何?」
「随分楽しそうな顔してるからさ、名前先輩何か視えてるでしょ?」
「迅さんと一緒にしないでよ。私のサイドエフェクトはスクリーン越しじゃ使えませーん。玉狛第二は端っから撃ち合いなんてする気ないよ、ほら」
スクリーンには丁度玉狛の砲撃の影から登ってきていた諏訪さんが荒船先輩の足を潰した瞬間が映し出されていた。
「玉狛第二は地形戦をよく練ってますね」
「二対一の図。このまま乱戦に持ち込めば荒船隊は一気に不利になる」
見てる方はすっごく楽しいけど。状況は荒船隊有利から一転して、完全に諏訪さんの間合いだ。半崎のヘッドショットを集中シールドで防ぐという荒技を見せ付けた諏訪さん。しかし次の穂刈先輩の一発は防げず左足が飛んだ。これでは荒船先輩には追い付けない。
「諏訪も脚の一本くらいは必要経費と思ってるでしょう」
「あーあ、このまま師匠と諏訪さんがバトッてくれたら最高に楽しいんだけどなぁ」
「ほーんと、名前先輩って荒船さんのこと好きだよね」
「師匠だからね。あ、半崎が捕まった」
バッグワームで近付いてきた空閑の攻撃は急所を避けたものの、その後すぐ堤さんに蜂の巣にされて緊急脱出。続けざまに空閑と対峙するが、これは。
「おおお!?今の動きはグラスホッパー……!?空中起動を可能にするジャンプ台トリガー!前回は使っていなかった気がしますが……!?」
「オレが教えました昨日」
「昨日!?なんと普通に覚えたてだった!」
「お前は見せただけで教えてないだろ。使い方教えたの私だし」
「だって名前先輩の方が使い方上手いし」
「なんと!苗字隊長も空閑隊員に手解きをしていたとは!」
状況は依然徹底した荒船隊狙い。狙撃手が残ってると後々めんどくさいのはすっごくわかる。
「狙撃手狙いすっごくわかる」
「亜里阿第一もまずは狙撃手から、という戦法を良く取られてますよね?」
「私もっぱら近接戦闘だから狙撃手居ると邪魔されるんだよね」
東さんが居る手前、狙撃手のことボロクソに言うのは気が引けるけども。事実なのだから仕方ない。狙撃手は残ってるとめんどくさい。それはボーダー共通認識だと思ってる。
スクリーン内では空閑が荒船先輩を追う。穂刈先輩の射撃も集中シールドで相殺。
「位置が知られては苦しいぞ狙撃手!」
「まあ普通はそうですね」
「そうですね、普通は」
「……ただ、」
ただ、
「「荒船(師匠)に限って言えばあいつ(あの人)は元攻撃手ですからね」」
弧月を抜刀した荒船先輩の姿が何時も見ているはずなのに何故だか妙に誇らしく、そして格好良く見えた。
私の御師匠様
(そして少しだけ、遠い存在に感じた)
36-T 一番近くで見てきた人
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