【スクルドの時計は動かない】





荒船先輩が抜刀した。本職の攻撃手を離れて八ヶ月が経つ荒船先輩が空閑相手に抜刀した。緑川の言う通り、確かに私以外でも弧月でランク戦してるのは見かけるけど。

(なんか複雑な気分だな…)

荒船先輩と対峙する空閑。恐らく、今この展開は玉狛が望んでいた展開だろう。それはつまり、空閑が荒船先輩を抑えられると踏んでいるんだろうけど。

「荒船と空閑のエース対決を中心にしておそらくここで決まります」
「両方の強さを知る緑川くんから見てエース対決はどちらに分があると思いますか?」
「そりゃ遊真先輩だね。荒船さんは今は狙撃手がメインだし遊真先輩が勝つと思う」
「では、苗字隊長は?」
「弟子目線だと師匠に勝って欲しいけど、空閑が勝つデショ。あいつ、戦い慣れしてるし」
「それはほんとに弟子目線かなー?」
「クソガキ後でぶった斬ってやるから覚悟しろ」

よくわからないニヤケ顔の緑川をど突いてやる。ほんとムカつくクソガキだ。両方の実力を知っているからこそ、真っ向勝負なら荒船先輩が勝てないのは視なくてもわかる。

穂刈先輩の捨て身の一撃で空閑が崩れた。笹森がなんだか逞しい。グラスホッパーを起動する空閑と迎え撃つ荒船先輩。グラスホッパーをフェイクに使い、荒船先輩の両脚が落ちた。トリオン漏出は甚大だろう。バッグワームを纏った諏訪さんが屋根から発砲。笹森もカメレオン起動して合流する様子。

「笹森、やったな。カメレオン起動しながらでもあれなら拘束出来る」

思わず頬が緩む。空閑の動きが一瞬止まる。ランク戦前に話した事を笹森は実践に移したようだ。捨て身っていうのは、あんまり好きじゃないんだけど。それでも笹森は自分の役目を全うし、空閑を止めてる。諏訪さんがショットガンを構えた瞬間、派手な音と衝撃。雨取の砲撃だ。砲撃の合間、空閑が笹森を。荒船先輩が雨取を落とし勝負は終わりに差し掛かっていく。この土壇場で弧月捨てるとか流石師匠。諏訪さんに向かっていく空閑。脚を殺がれてる諏訪さんは追えないから向かってきてくれるのは有り難いだろう。だけど、

「読み切った!」
「終わった」
「勝負ありですね」
「玉狛の勝ちです(だね)」

空閑を囮に三雲の弾丸が諏訪さんを貫いて、勝負は決まった。

「……さて、振り返ってみてこの試合はいかがだったでしょうか?」
「そうですね。終始玉狛が作戦勝ちしていたという印象ですね」

解説を始める東さん。それは本当に的を得たものでやっぱ東さんすげぇ。普通に聞いていたいって思ってしまう。

「苗字先輩はこの試合いかがでしたか?」
「私?今全部東さんが話してたじゃん」
「いやいや!あの亜里阿第一の苗字隊長を折角お招きしたのに話を聞かないなんて!」

お招き、ではなく、連行の間違いだろう。と、内心毒づいたのは内緒の話。東さんと目が合って、有無を言わさない笑みを向けられたので溜息を吐き出した。

「…荒船隊は大変だったなって思うけど、どうせ弧月抜くなら諏訪さんと対峙した時点で師匠が抜刀してれば穂刈先輩は捕捉されなかったのかなって。まぁ師匠の脚は死んでたし抜いたら抜いたで諏訪さんは普通に対応してくるだろうけど」

今は狙撃手だから、多分ギリギリまで抜かなかったか。諏訪さんは荒船先輩のこと知ってるから奇襲にはならないんだけど、それでもあの時点で穂刈先輩が捕捉されることはなかっただろうし、もしかしたら諏訪さんを落とせていたかも知れない。

「諏訪隊は、笹森が空閑じゃなくて三雲を狙ってればもう一点は確実に取れてた。恐らくそういう指令だったんだろうけど三雲倒してから空閑を狙いに行ってれば諏訪隊が勝ってただろうね。まぁでも笹森はなんか、最近成長したなぁって感じるよほんと」

こないだ模擬戦した時にも感じたけど、今日のランク戦でもやっぱりなんか、逞しさを感じた。

「玉狛は東さんが言ったように作戦勝ち。良い諏訪隊の使い方をしてたなって…。ていうかこれ、もう当人たち聞いてるんだよね?これ私後で怒られるパターンじゃない?」
「名前先輩どんまーい」

その後古寺がちゃんとまとめてくれたし、次の対戦カードも発表されランク戦は無事終了した。ぞろぞろと出て行く隊員たちの群れの中に嵐山隊、あと米屋たちを発見した。

「よー名前ちゃんと解説してたじゃん」
「うるせぇのがまた増えた…古寺ナイス解説」
「あ、ありがとうございます!」

流れで三輪隊二人に合流してしまった。そのまま部屋を出れば今度は玉狛と合流。

「いい感じだったじゃんグラスホッパー」
「サンキューおかげさまでバッチリ。ナマエ先輩もありがとうございました」
「いーえ」
「グラスホッパー教えたかわりに勝負する約束忘れないでよ」
「使い方教えたの私なんだけど」
「OKOKなんだったら今からやるか?」

空閑の誘いに緑川はノリノリだ。ちょっと待て。お前はこれから私がぶった斬る予定のはずだが。

「ナマエ先輩も、正隊員になったら相手してくれるんだよね?」

好戦的な瞳が向けられる。ほんと、この子は。

「はいはい…わかったよ。先ブース行ってな。緑川も覚悟しとけよ」

溜息混じりに吐き出した言葉に餓鬼共二人は楽しそうに笑って個人戦ブースへと駆け出していった。嗚呼、頭痛い。餓鬼二人の姿が見えなくなった頃、宇佐美と雨取が作戦室から、廊下の門から風間隊の二人が姿を現した。

「うわ玉狛だ。おまけに黒トリガーも」
「おいこら菊地原。ほんとそれヤメロ記憶消すぞ」

歌川になだめられてる間に宇佐美が菊地原をホールドしてる。菊地原ざまぁ。

「今日の試合風間さんも一緒に見てたの?」
「見てたよ」
「"なかなかいい諏訪の使い方だ"……って言ってた」
「……」
「どっかの誰かさんもおんなじこと言ってたね」

菊地原の視線が此方に向いた。

「いやいやいや!私ちゃんと"諏訪隊″って言ったから!蒼也さんみたいにそんな事言える度胸ないから!」
「結局一緒でしょ?"でも次はこうはいかない″とも言ってたよ」

蒼也さんの言ってた事は間違いじゃない。まともな戦力が空閑一人ではB級中位が限界だ。本人たちもわかっているであろう課題をA級隊員に突き付けられるというのは中々酷だろうとは思ったがそこは敢えて何も言わない。菊地原が言ってる事が正しい。

「よっしゃおれらも個人ランク戦行くか!おまえらも行く?」
「うちはこのあと防衛任務なんですよ」
「そっちほどヒマじゃないんで」
「おまえはいちいち言い方がなー菊地原」
「いだだ暴力だこれ暴力反対」

今度は米屋が菊地原をホールドしてる。菊地原ざまぁだけど米屋がやってると完全にいじめだ。そんな馬鹿を横目に菊地原を保護しようとしてる歌川に声をかけた。

「歌川、その…蒼也さん変わりない…かな…?退院してから一度も会えてなくてさ…」
「風間さんですか?いえ、特には。ああでも、苗字先輩が入院してる間お見舞いも行ってたみたいだし、心配はしてましたね」
「うぅ…だよね…そうだよね…」

お見舞いに来てくれた人にはもれなく全員退院しましたを告げたい、のもある、けど。蒼也さんは多分、私が無茶した事を怒ってる。絶対怒られる。だから怖い。でもこのまま逃げ続けるわけにも行かないし。唸る私に苦笑を浮かべた歌川が「うち明後日は非番ですよ」と教えてくれた。



神様が現れた気がした
(そして出来る後輩に自分がすっごく惨めに感じた)


36-U 靄がかった心の行方は

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