【スクルドの時計は動かない】





ブースを出ると顰めっ面の荒船先輩を筆頭にさっきのメンバーがまだそこに居た。

「ああーくそ!勝てなかったかー」
「最後一本惜しかったじゃんか」
「絶対イケルと思ったのに相討ちにされた…ていうか村上先輩後半の追い上げ!あれはつらい!」

米屋に慰められるのとか悔しいんだけど!でも勝てなかった事の方が悔しい。

「ナマエ先輩のサイドエフェクト無効はむらかみ先輩には効かないのか?」
「前に話したと思うけど無効化出来るのと出来ないのがあって、村上先輩みたいに個人に関わってくるサイドエフェクトっていうのは出来ない部類なの」

厳密に言えば出来なくはない。村上先輩の中に深く入り込んで私に対する記憶に鍵を掛ければいい。だけどそれは村上先輩に必要ないダメージを与える事になる。そんなことはしたくない。

「だから村上先輩と戦えば普通に学習されるし、普通に強いからやられる事もある」
「なるほど」
「四勝四敗一引き分け。鋼相手に腑抜け過ぎだ」
「うっ…師匠手厳しい…」
「今日は何時もよりキレが悪かったしな」
「村上先輩まで…!!」

先輩二人にダメ出しされるとは。確かに満足に動けたのはラスト二本くらいだったけど。むぅとわざとらしく膨れさせたほっぺたを荒船先輩に鷲掴みされた。それ女の子にすることじゃない!

「ブッサイクな顔してんな」
「痛いし失礼!」
「名前は可愛いよ」
「村上先輩はなんでサラッとそう言うことぶっこんで来るんですか!? 嬉しいですケド!」
「そんなことより名前次おれと勝負しようぜ」
「そんなことって言ったなこの野郎よーしブース入れぶった斬っ…、痛い痛い痛い!!」

言い終わる前に首根っこを引っ張られる。犯人は言わずもがな荒船先輩だ。

「悪いな。これからこの馬鹿弟子に喝入れてやらなきゃいけねーんだ」
「え?ちょ?師匠?」

有無を言わさないとばかりに首根っこを掴まれたまま引きづられるようにして私はその場を去った。ニヤニヤしながら手を振ってきた米屋たち今度会ったらぶっ飛ばすの決定。

そのまま一度荒船隊の作戦室に立ち寄り荷物を取って本部を出る。ていうか、今更だけど今日ランク戦あったんだから荒船隊のメンバーで反省会をすべきなのでは。そう思った時には美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐり私の腹の虫は今にも大きな音を立てそうな状況だった。お疲れ、と烏龍茶の入ったグラスがぶつかる音が響く。ソースの良い香りに食欲をそそられ、熱々のそれを口に入れる。「火傷すんなよ」と呆れる先輩の言葉と一緒にそれを飲み込めばお腹も心も満たされていく。

「今日の解説」
「はい?」
「確かになって思った」

先輩が言わんとしてる事を考えて、ああと声が漏れた。

「まあでも所詮結果論ですからね。あの場で抜刀してても脚削られた状態で諏訪さんと戦り合うのは分が悪いだろうし。そこに空閑が来たら乱戦確実だし」
「だが穂刈の居場所が割れてなければ乱戦になっても援護が利く」
「穂刈先輩の居場所が割れる前にって事は諏訪さんの脚削る前だからそれはそれで難しいですねー」

お皿に分けて貰ったお好み焼きを一口。うん美味しい。私の発言に荒船先輩はむっとした顔を浮かべる。

「じゃあなんであんな事言ったんだよ?」
「ああ……師匠なら脚削られてても諏訪さんぶった斬ってそのまま穂刈先輩と連携して三雲とか笹森とか取れるとこから行けただろうなぁていう希望的観測?」

あの程度でやられると思ってないし。そう言ってまた一口。荒船先輩は動きが止まった。「冷めちゃいますよ?」と言えば、ああ、と気の抜けた声が返ってくる。

「私やっぱ解説向かないですね。自分の隊ならこうだなぁとか考えちゃうし、基本的に作戦とかゴリ押しなとこあるから東さんみたいに的確に喋れない」
「俺はお前の解説的を得てると思ったけどな。戦術面でもちゃんと考えてるし、東さんとは言葉や意見が違ってもそれはズレてるとかじゃなくて名前の経験から導かれた立派な意見だろ」

今度は私の手が止まった。まさか荒船先輩からそんな事言われると思ってなかった。流石理論派。ボケーッと荒船先輩を見ていたらさっき私が荒船先輩に言った言葉を一言一句違わず言われた。しかも悪い笑みで。あれ、私ずっと荒船先輩見てたのか。

「あァ?なんだよおめーらまた来たのかよ」
「カゲ」

気だるそうな声の主、影浦先輩はかったるそうに頭をガシガシと掻きながら此方にやってきて荒船先輩の好物が入った小鉢を二つ置いた。影浦先輩曰わく「ババアから」と。私はまだ数回しか来たことないけど、荒船先輩は此処の常連のようで何時も影浦先輩のお母さんからサービスで色々出されるんだと。どんだけ来てんだよこの人。

「おめーら人ん家でわざわざイチャついてんじゃねーよウザってーな」
「そんなんじゃねーよ」
「そうですよ、これは今日の反省会です」

またこないだみたいに荒船先輩とデートしたとかそんな話が広まったら今度こそぶった斬られる。ちゃんと否定しておかねばと口を開けば何故だか睨まれた。理不尽!

「反省会だぁ?名前はランク戦関係ねえだろ」
「ランク戦の反省会というより、私が後輩にやられた荒船先輩に対して"先輩を斬り倒していいのは私だけなのに″と野賜った事と、村上先輩に引き分けた事に対しての反省会で……あれ?これ何の反省会ですか?」

言ってて訳がわからなくなった。確かに荒船先輩に反省会踏まえてと言われたけど、これは一体何の反省会だ。確かにさっきまではランク戦の振り返りをしていたけども。頭の上に?マークを沢山浮かべている私の目の前では荒船先輩が頭抱えて盛大に溜息吐き出して、それを見て影浦先輩はゲラゲラ笑ってる。

「あ、でも!村上先輩に"それは荒船がやられて悔しかったんだよ"って言って貰ったからスッキリしたのでもうあんな不甲斐ない戦いはしないですよ!」

そうだ。村上先輩にそう言われたから後半はスッキリしてちゃんと戦えた。それでも引き分けたから悔しいんだけど。二人の先輩にビシッと言ってやれば一人は沈黙し、一人は更に笑い出し。解せぬ。

「鋼の奴…!!」
「ぶはははははは!!荒船の弟子相当馬鹿だな!」
「うるさい…!!」
「あァ?俺にんな感情ぶつけんなよウゼェな」

舌打ち一つ。影浦先輩が何か荒船先輩に耳打ちして厨房の奥へと姿を消していった。荒船先輩は一瞬停止した後「あの野郎…!!!」と悪態ついていたのを、私はポカンと見つめながらもう一枚くらい頼もうかなと全然違うことを考えながらとりあえず箸を持った。



冷め切らない熱を見つめる
(切り分けられたお好み焼きは少し冷めていたが十分美味しかった)


36-X この熱の正体はまだ知らない

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