【スクルドの時計は動かない】





「次のランク戦まで日もないし、折角だから今からお邪魔しちゃえば?」とこっちの都合は全くお構いなしの宇佐美の発言に驚きはしたものの、隊長の私が呑気に玉狛でお茶してるんだからうちの隊は皆暇してるに違いないしまぁいいかと二つ返事をしたのがほんの三十分くらい前の話。丁度三雲と雨取が玉狛に戻ってきたので事を説明。玉狛からはそんな離れてないから歩いていこうかと思ったらレイジさんが送ってくれると言ったのでそれに甘えることにした。亜里阿支部の目の前まで乗せてきてくれたレイジさんに一礼して見送る。やや緊張した面持ちの三人にそんな緊張しなくいいと笑い飛ばして扉に手をかけた。

「瀬尾ちゃーん?いるー?お客様ー」
「いるよ……なに?客?…って、玉狛じゃんかよ」

研究室から出てきたであろう瀬尾ちゃんはめんどくさそうに頭をガシガシと掻きながら現れた。「はじめまして…!!」と背筋を伸ばした後輩達に「どうも…」と気だるそうな返事をしてキッチンへと向かっていく。何時までも突っ立たせておくわけにもいかないので三人をソファまで誘導する。

「瀬尾ちゃん、他の皆は?」
「凛香ちゃんは防衛任務、悠士は大学行くって言ってたから今はオレと凍矢しかいない」
「そっか。まぁ、いっか」
「凍矢起こす?どうせそういう目的で連れてきたんデショ」
「ああ……とりあえず出てくる時は客が居るから、だけ伝えといて」
「りょーかい」

人数分のお茶とお茶菓子を用意して、瀬尾ちゃんは一度研究室に引っ込んだ。しばらくして戻ってきた瀬尾ちゃんは「凍矢あと十五分くらいかかる」と耳打ちして私の隣に腰を下ろす。とりあえずお互いの自己紹介をしておこうと思ったら瀬尾ちゃんから「知ってるからいい」と言われてしまったので瀬尾ちゃんの事だけ紹介することにした。

「彼は、」
「瀬尾帝。十六歳。亜里阿支部のエンジニア。以上」
「エンジニア?ナマエ先輩、アリアには戦闘員しかいないって」

空閑の発言に瀬尾ちゃんが全力で睨んできた。そんなに睨まなくてもいいのにと思いながらお茶を一口。瀬尾ちゃんは盛大に溜息を吐き出して言葉を続けた。

「オレは戦闘員じゃない。勝手に名前が戦闘に駆り出すだけ」
「うちは少数精鋭だから皆戦闘員扱いしてるんだ。瀬尾ちゃんは一応特殊工作兵っていうポジションなんだけど、攻撃手としても戦えるし普通に強いよ」
「あんなものは身を守る一つの手段だ。こっちの連中は平和ボケし過ぎなんだよ」
「こっちの連中…?」
「…なんだ、名前から聞いたんじゃないの?」

三雲の疑問に瀬尾ちゃんがまた睨んできた。だからそんなに睨まなくていいじゃないか。

「ああまだ空閑にしか話してないんだ。ほら?一応瀬尾ちゃんの事って秘密になってるし」
「バカ名前。此処に連れてきてる時点で秘密になってない」
「ふむ…本当にせお先輩は近界民なのか?」
「え!?近界民!?」

空閑の言葉に三雲と雨取は驚いた様子で瀬尾ちゃんを見つめる。瀬尾ちゃんは至極めんどくさいといった表情だ。
その時、奥の部屋──研究室からガタンと音がした。そういやそろそろ十五分経つ頃か。

「なんだなんだ?珍しく瀬尾が異文化交流してるじゃねぇか」
「異文化じゃない。向こうも近界民だ」
「空気読めよ馬鹿凍矢。悠士のこと言えないからね」

現れたそいつ──凍矢の空気読めない感じに玉狛の子たちはなんとも言えない顔してるし、瀬尾ちゃんは話をぶった斬られた事に対して御立腹だ。

「バカのせいで話脱線したけど、オレは近界民だ。ついでに空閑と同じく黒トリガー持ちだ」
「黒トリガー…っ!!」
「そうそう。瀬尾の事はボーダーの最重要機密の一つだからな」
「最重要機密をこんな簡単にバラすのうちの隊くらいだけどね」
「そうだね。じゃあまぁ凍矢も起きてきたし、模擬戦しよっか?」

ポカンと、頭にハテナマークを浮かべる数名。待ってましたと目を輝かせているのは空閑だけだ。

「君達何の為に此処に来たと思ってんの?ランク戦の対策デショ。君達はね圧倒的に実戦経験が少な過ぎなんだよ。そんなんで対策もクソもないから」
「模擬戦って三対三で?」
「勿論。こっちも丁度君達や次のランク戦のチームと同じ編成だからね」
「はぁ?ちょっと待って。その編成だとオレ攻撃手じゃん。やだよ前線」
「瀬尾ちゃん逃げるの?残念だなぁ今日は皆揃うならお寿司連れてってあげようと思ったのになー」
「そんなあからさまな誘い乗るわけな、」
「やる。その代わり回らないとこね」

こういう所、瀬尾ちゃんはちょろいのだ。
瀬尾ちゃんのやる気が無くならないうちに訓練室へと全員を連れて行く。簡単に部屋の説明、模擬戦の進め方を説明。本部にあるそれとシステムは変わらないから特別説明も必要なさそうだ。

「全員トリガー起動したら五秒後に転送されるから」
「瀬尾ちゃん了解。空閑、」
「なに?ナマエ先輩」
「瀬尾ちゃんは本職の攻撃手じゃないけど戦い方の参考にはなるだろうし、今の空閑よりは強いと思うよ?」
「やめろバカ名前そーいうのメンドクサイ」
「へー……それは楽しみだ」
「戦闘バカほんと嫌い」
「グチグチいわなーい。それじゃあ、」



ヒミツ特訓開始
(A級部隊の実力お見せしよう)


38 異文化交流しましょうか

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