ラッドを殲滅したからって別に門が開かない訳じゃない。そんな事はもちろんわかっていたけど、空に浮かぶ黒い空間が視えてとってもうんざりした。
『名前、バンダーは砲撃直後の眼を狙えば雑魚だから』
瀬尾ちゃんからの通信に短く返事をして、勢い良く地を蹴りグラスホッパーで更に高く飛び上がる。放たれた砲撃は眼からなのか口からなのかはっきりしろよって思ったけどそんな事どうでもいいやってすぐに思考を切り替えてスコーピオンを突き刺す。お仕事終了したので帰ろうとした私を引き止めた着信音。表示されている名前は、迅さんだ。
「もしもし」
『名前今から旧弓手町駅まで来れる?』
「来れる?じゃなくて、来い、ですよね?」
『まぁそうともいうかな。面白い物が見れるぞ』
電話越しの迅さんは本当に楽しそうなのでこっちは至極うんざりする。でも結局迅さんの頼みを断れない私は旧弓手町駅まで翔るのだ。
□■□
「お、やっと来たか」
「やっと来たか、じゃないですよ。何ですかこれ。三輪隊は誰とバトッてるんですか?」
此処に来る時、旧弓手町駅に三輪隊の反応を感知した。それと同じ場所に中学校や川の近くで感知した見知らぬトリオン反応もあった。駅の方に目を向ければ数人の人影。
三輪と米屋と、白い髪の少年。
私の眼に映る情報が一気に脳へと駆け上がっていく感覚。サイドエフェクトというのはこういう時便利だと思う。
「しかしまぁ、三輪隊相手に凄いな…」
「アイツは特別だからな」
「そうみたいですね」
「やっぱりわかるんだ?」
「ええ。私も特別ですから」
迅さんは楽しげだ。
白い髪の子のせいか、はたまた別の理由か──
「ほんと便利だよなぁ亜里阿隊のサイドエフェクト」
なんて笑いながら迅さんが言っているのを私は無視した。やっぱりこういう時サイドエフェクトというのは邪魔である。
うちの隊員は私を含め、全員サイドエフェクト持ちだ。それ自体は別に何ら便利だと言われる理由にはならない。ただ、一人一人の異なるサイドエフェクトを必要に応じ全員で共有するという荒技を成し遂げているのが亜里阿隊、もとい、私だ。
瀬尾ちゃんのサイドエフェクトは解析眼。
見たものの物質、質量、強度その他情報を得られる。人間ならば身体能力、トリオン量や質などもわかってしまう技術者にはもってこいのサイドエフェクトだ。彼の眼にかかれば、あの白い髪の子が何者なのかなんてすぐわかる。
「さてと、じゃあ名前一つ頼まれ事してもらえないかな?」
「狙撃手どっちか止めとけばいいですか?」
「流石名前。おれの言いたいことがよくわかってる」
「それはまぁ、そういうサイドエフェクトですから私のは」
嘲笑気味に言ってやる。「そっか」と迅さんが困ったように笑う姿が視えた。
五秒先の世界(ファイブ・セコンド)
目視した相手の最大五秒先が視える、迅さんと同じ未来視のサイドエフェクト。違うのは全てが確定した未来ということ。流石に一瞬の判断が物を言う戦闘時には五秒後なんて不確定な物になるけど、その一瞬一瞬は相手の先を確実に読めるから専ら戦闘向きのサイドエフェクトだ。
このサイドエフェクトはSランク認定の非常に優秀なものだから、ボーダー内でも重宝されている。未来視でいえば、迅さんの方が優れているのだけど未来が視えるっていう事で結局端から見れば同じらしい。
──私のは、役になんて立たないのに。
グッと拳を握って思考をクリアにする。
今はそんな事どうでもいい。早く狙撃手の所に行こう。
「視たくないものだっていっぱいあるんだよ」
誰に言うわけでもなく、その言葉は空に消えた。
後悔しなかった事なんて、一度もない
(だから、してもしてもしきれない後悔ばかり募っていくんだ)
06 視たくない景色ばかり視えてくる
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