三輪隊には二人の狙撃手がいる。どちらとも指示されていないので、私は行きやすい方に向かった。ストンと降り立った場所に居た彼。此方には気付いていない。スコープを覗くその無防備な背中に一歩一歩静かに近付いて。
「そんな背中がら空きじゃ、殺して下さいって言ってるようなもんデショ」
胡桃色の髪をした彼の綺麗に切り揃えられたら襟足部分にピタリとスコーピオンを突き付ける。彼は特に慌てる様子もなく、一つ溜息を吐き出して構えを解いた。それに合わせて私もスコーピオンを消した。
「何の用だ」
「三輪隊の狙撃手止めてきてってお願いされたもので。古寺のが近かったんだけど私アイツにビビられてるからこんな事したら可哀想じゃん」
こんな事、首筋にピッタリとスコーピオンあてがわれたら誰でもビビるだろう、て多分奈良坂は思ってる。サイドエフェクトとかではなくて、普通に顔にそう書いてある。
「それにさ、狙撃手の無防備な背中って襲いかかりたくなるんだよね。あ、師匠は別ね。あの人の背中に回り込んだら問答無用でぶった斬りにかかってくるだろうし」
頭に浮かぶその人物を思い出し笑ってしまった。「ふざけんなテメェぶった斬るぞ」とか言われそう。もしくはやった後に頭思いっきり叩かれるんだろうな。一人で笑ってたら奈良坂が「あの人ならやりかねない」ってすっごく嫌な顔してた。なにそれウケる。
「で、俺をぶった斬るのか?」
「いや、やるならとっくにやってるデショ。私狙撃手足止めしてって言われただけだし。奈良坂だけぶった斬ったら後味悪いじゃん?」
私優しくね?って付け足したらさっきより嫌な顔した奈良坂に溜息つかれた。奈良坂テメェ。
そうこうしてるうちに三輪と米屋がやられるのが視えた。私の視線に気付き奈良坂も再度イーグレットを構え直すと丁度三輪と米屋が地に伏せた瞬間だった。構え直した奈良坂を止めるべきか否か、考える暇もなくすぐ近くに気配を感じた。
「よう奈良坂ぼんち揚げ食う?」
「迅さん!?」
「名前も時間稼ぎサンキューな」
ぼんち揚げ片手に現れた迅さんは相変わらず飄々とした態度だ。奈良坂との会話も終わってどうやらこのまま古寺も引き連れて下の奴等と合流するらしい。「おまえはどうする?」なんて聞かれ、私はチラリと下を覗いた。
「いや、いい。行かない」
「そうか。じゃあまた後で連絡する」
迅さん達の背中を見送って、私は再び下を覗いた。地に伏せるアイツの表情は何時も以上に険しく、その顔で、声で、向けられる言葉に多分今は耐えられないかもって思ってしまった。三輪が近界民への恨みを吐く度に、私の身体は心臓を握り潰されるような痛みと苦しみに襲われる。
姉を亡くした三輪と両親を亡くした私
近界民への恨みは当然の事。わかってる。ズキリと痛む右手に舌打ちをして、私はその場に背を向け本部へと向かった。
大切を亡くしたわたしたち
(第一時大規模侵攻で受けた心の傷は未だに癒えることなく痛みを増していく)
07 同じ痛みのはずなのに
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