【スクルドの時計は動かない】





本部に着いたら早々に会議室に来るよう連絡が入り、溜息混じりに其方へ足を運んだ。支部長に呼ばれすぐ横に並んで迅さんと三輪隊の報告を聞く羽目になる。思った事はただひとつ。

(私関係なくない?)

心の声を何度も飲み込んで長い長い話を右から左へ。私は迅さんに巻き込まれただけで、興味ないよぶっちゃけ。耳に入ってきたのは白い髪の少年が黒トリガー持ちの近界民だってとこと、城戸さんがそいつを始末して黒トリガー回収してこいってとこ。ああ、後は忍田さんが怒ってたとこも。城戸さんは近界民相手には相変わらず物騒だし、忍田さんは相変わらず優しい。ただ、申し訳ないけど大人たちのそんなやり取りにほんと興味はない。

「迅お前に黒トリガーの捕獲を命じる」

城戸さんの声が聞こえた。
チラリと城戸さん、迅さんを盗み見る。この後のやり取りが視えた私はうんざりして盛大に溜息を吐き出した。

その後も殆ど話は聞いてなかった。唐沢さんが眼鏡くんに近界民の事を聞いてるような気がする。もうどうでもいいから解放して欲しい。支部長が座ってる椅子を地道に蹴り続けてたら遂に支部長に睨まれた。

「父親の名前はわかりませんが、本人の名前は……空閑遊真です」
「空閑……」

一瞬、脳裏に浮かんだ映像にピクリと身体が無意識に反応した。空閑、何処かで聞いた名前だ。周りを見渡せば城戸さんを始め、忍田さん、林藤さん、支部長が各々反応している。

(このメンバーということは──)

脳内の仮説は忍田さんの言葉によって決定的となる。


──空閑有吾
旧ボーダー創設に関わった
ボーダー最初期メンバーの一人──


目を閉じて思い出す。
脳裏に浮かんだ映像は、父と親しげに話をしている空閑有吾の姿だった。

その後、会議は終わり解散された。

「苗字、お前も黒トリガー確保に回れ」
「え……嫌です」

突然の命令。断ったら鬼怒田さんに怒鳴られた。五月蝿いなもう。私は城戸さんの方に向き直って本日何度目かわからない溜息を吐き出した。

「さっきの迅さんじゃないですけど、城戸さんに私への指揮権はありません。私に命令するなら支部長通して下さい。それに、」


それに──


「珍しく"苗字"なんて呼ぶの止めてくれませんか。空閑の話が出て昔話でもしたくなりました?殺気立ち過ぎですよ城戸司令」

ピリ。この会議室内の空気に効果音を付けるならそんな感じ。内心うんざりしていた。近界民がどうどか、迅さんに巻き込まれたとか、大人たちの馬鹿みたいなやり取りとか何もかも。

「名前」

声と共に頭に痛みが走る。支部長に頭叩かれたようだ。しかもグー。

「殺気立ってんのはお前だ馬鹿」
「痛っ…!! グーは酷いグーは!」
「いやぁ悪いねぇ城戸さんうちの馬鹿が」
「支部長!グーは痛い!」
「ウルセェ黙ってろ!……眼ぇ変わってんぞ…」
「っ…!!」

支部長に言われて大人しく引き下がる。これは支部長なりの優しさだと気付いた。

「大人しくなったか。んじゃあ俺から指示はしとくんで今日はコイツ連れて帰りますわ」

行くぞ。首根っこ引っ張って支部長に若干引きづられる形で私は会議室を後にした。

□■□

「支部長すみませんでした」
「気にすんな無自覚だろどーせ」
「ウィッス…」
「あの人達はお前の眼の事知ってるから良いけど、"知ってる"と"理解が有る"は違うからな」
「存じております」

"知ってる"と"理解が有る"は違う。そんなのわかってる。理解されることがどれだけ大変なことも知ってる。だから私は、理解して欲しいって思わなくなったし必要以上に周りと関わらないようにしてきた。

「とりあえず、黒トリガーの件保留な。俺が上手くやってやるから安心しとけ」
「大丈夫なんですか?」
「俺を誰だと思ってやがる──ボーダー特殊部隊亜里阿支部支部長、草間暁様だぞ」

頭を豪快にわしゃわしゃと撫でながら私の数少ない理解者は笑ってくれた。

「大人達のくだらねぇ喧嘩に餓鬼共巻き込むのは忍びねぇけどな」
「そこはご心配なく」



派手で賢い喧嘩は大好きですから
(そうだなって悪い顔して笑う支部長につられて私も笑ってやった)


08 大人達のくだらない喧嘩

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