「天気良いなぁー」

無造作に積まれた瓦礫の山に腰を下ろして空を見上げれば雲一つない晴天。立ち入り禁止区域内は門さえ開かなければ驚くほどに静かだ。こんなに天気も良くて静かならいっそ昼寝でもしたい。

「…あーあ」

溜息一つ。


「此方苗字。南西方向、敵、来ます」

了解、と短く切られた返事を耳にして再び空を見上げる。

「天気良いのになぁー」

悪い予感は良く当たる。雲一つない晴天にあの忌々しい黒い空間が浮かび上がる未来が煩わしくて仕方ない。

『苗字さん!大丈夫?』
「こっちは大丈夫ですので来馬先輩達はそっち側をお願いします。今先輩もオペレートは来馬先輩達をメインで大丈夫です」

向かってくるバムスターに一撃。トリオン反応を見る限り数はこっちのが多かったか、目の前にはまだトリオン兵がわんさかといる。臨時で入った鈴鳴との合同任務でまさかこんな面倒に巻き込まれるとは思ってもなかった。

「群がる雑魚ども蹴散らしたってなんの退屈しのぎにもならないっての!」

怒りの矛先は群がるトリオン兵達にまとめてぶつけてやろう。

群れを成すそれらを片っ端から片付けていく。戦神の鎖が使えたら楽なんだろうけど通常任務で勝手に使うと支部長が怒るし、鈴鳴は私の黒トリガーの事を知らない。面倒くさい、と吐き出して最後の一体になったバンダー目掛けて飛び上がる。

「これで、最後っ!」

ギョロリとした目玉に向かって投げ付けたスコーピオンが突き刺さるとほぼ同時に頭が横に真っ二つ。あれ?って疑問は頭が半分になったことで開けた視界に入ったグリーンティー色の隊服を纏ったその人と目が合ったことで納得へと変わった。

□■□

「苗字さん今日は有難う、お陰で助かったよ」

報告も兼ねて本部に戻ってきた私を労ってくれた来馬先輩はお疲れ様とジュースまで買ってくれた。

「いえ。むしろ私で良かったのかなって。別役の代わりなら凍矢のが良かったんじゃないですか?」

別役が体調不良で任務に出れないからヘルプ要請が来た、と瀬尾ちゃんから連絡を受けたのは今朝のこと。今日はうちも同じ時間に任務だったし、狙撃手の欠員なら狙撃手である凍矢を行かせればいっかって思ってたらまさかの御指名を受けた。
来馬先輩は何と言えばいいか、と困った顔で隣にいる村上先輩を目をやって頬を掻いた。

「それもそうなんだけど……」
「悪い、オレが来馬先輩にお願いしたんだ。名前と組ませて欲しいって」
「鋼の意見もだけど、やっぱ一緒に組んだ事ある人の方が安心かなっ、て思って……」
「まあ確かに」

それは一理ある。正直、私が私以外の奴等をあんまり他の隊に送り込みたくないのもまた事実。実力を信用していないわけではなく、アイツらのコミュニケーション能力がちょっとアレなのだ。

「それに、村上先輩にそう言って貰えるって事はちょっとは私の力が役に立つって思って貰えてるって事ですよね。それなら良かったです」
「謙遜しなくていい」
「そうだよ、実際助かってるんだから」

二人の先輩にこう言って貰えると何だか照れる。鈴鳴と一緒に任務に行くと何時も私はこの人達に甘やかして貰ってばかりだ。任務の報告諸々を来馬先輩がやってくれるのも何時もの事。普段自分がやってる仕事を誰かがやってくれるというのは未だに慣れない感覚だ。

「すっかり遅く鳴っちゃったね。もう外も暗いし鋼は苗字さんの事家まで送ってってあげて」
「わかりました。行こう名前」

これも何時もの流れ。
最初こそ悪いからと断っていたが先輩の心遣いを無碍にも出来ないので最近は大人しく送られる事にしてる。私はこの時間が嫌いでは無いのだ。基地の外に出れば外はすっかり暗くなり、見上げた空には星がキラキラと輝いていた。

「村上先輩何時も有難う御座います」
「オレが好きでやってるんだから気にしなくていいよ」

優しい顔、柔らかい声。
失礼だけど普段はちょっとポヤーとしていてこんなに穏やかに話す人が、いざ戦闘になるとあんなに強いんだから世の中不思議で仕方ない。守られる事なんて少ないけれど、村上先輩の背中は、何時だって大きくて頼りになる。

「ていうか、まさかバンダーの後ろに村上先輩がいると思わなかったんですけど」
「オレも名前がいると思わなかったよ」
「絶対嘘だ、今先輩のオペレートがあるのにそんな訳ない。まったく……危うく村上先輩にぶった斬られる所でしたよ」
「逆に名前がメテオラ使ってたらオレも巻き込まれてたけどな」
「確かに」

二人で笑う。あの時メテオラで吹き飛ばさなかったのは何となくヤバい気がしたからだ。まさか本当に後ろに村上先輩がいるとは思ってなかったけど。

「村上先輩何時も援護に来てくれるから私もうちょっと楽しても良いのかなあ」
「荒船に言いつけるぞ」
「うっ……それはちょっと嫌だな……」

脳内再生された荒船先輩は「怠けてんじゃねぇばーか」と私を楽しそうにぶった斬ってきたので、首が取れるんじゃないかってくらいぶんぶんと振ってすぐにその考えを頭から吹っ飛ばした。師匠怖い。村上先輩は隣で笑ってる。

「でも村上先輩に背中預けるのって心強いし援護に来てくれるとなんか安心するんですよね」

緑は癒しの色、というけれど。鈴鳴の隊服はまさにそれだ。それを纏う村上先輩の背中は何時だって安心する。
強くて格好いい、目標みたいな人。

「あ、だからって毎回援護に来なくても大丈夫ですよ、そんなに危なっかしいですか私?」
「そうじゃないよ──オレが名前の事が好きだから放っておけないんだけだ」

誰がこんな事を吹き込んだのかわからないけど、村上先輩はこうやってサラッと爆弾を落としいく。これもまた何時もの事。

だから私はこの時間が嫌いじゃない。


ほんのり染まる心
(私も好きですよ、と言うと先輩は何時も困った顔して笑うんだ)


1 小娘と茶袋
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