登校途中で米屋と出水に出会したので仕方なく一緒に登校する事になった。

「あのさ、私ってモテるの?」

そういえば、と朝から五月蝿い馬鹿二人に質問を投げ掛けたのが全ての間違いだったと言葉を発してから後悔した。私のサイドエフェクトはこういう時に役に立たない。案の定馬鹿二人は「は?何言ってんの?」みたいな、まるで馬鹿を見るような眼でこっちを見てくるもんだから今は舌打ち一つで我慢して、本部で逢ったらぶっ飛ばすのが決定した。

「もういい、なんでもない。別役が変なこと言ってたから気になっただけ」

馬鹿に馬鹿にされるのは本当に腹が立つ。イライラを抑えるべく深く息を吐き出し、下駄箱の戸を開けたら上履きの上に置かれた一枚の封筒。これは、

「悪戯?」
「どう見たって違ぇだろ!ラブレターだろそれ!」
「出水五月蝿い」
「さっきの名前の質問の答え、まさにこれじゃん?」

ニヤリと笑う米屋と笑い出す出水。
ムカついたので出水のふくらはぎ思いっきり蹴飛ばしてやった。

「痛ぇよ!生身なんだから手加減しろ喧嘩馬鹿!」
「良かったな。トリオン体だったら今頃お前の片足吹っ飛んでるとこだぞ」
「名前の場合片足じゃ済まないだろーな、良かったな弾馬鹿」
「良くねーよ!」

出水の反論なんて全部無視だ。ちょこちょここういうものを入れられることがある。そして迷惑している。そうだ下駄箱に鍵を掛けよう。そうすればこんな物を入れられる事もなくなる。決意と共に手にしていた封筒がくしゃりと音を立てた。

「名前それ良いのか?まだ読んでないのに」
「そもそも読む気ないし。教室のゴミ箱とか捨てて掘り起こされたらウザいから本部で燃やす。トリオン体ならメテオラで一瞬」

鞄から教科書やらノートを取り出して、代わりに先程ゴミと化した封筒を鞄の中へ入れて机の横に引っ掛ける。米屋と出水がドン引きしてるけど気にしない。

「え、じゃあもしかして今までも?」
「手紙でコソコソ迫ってくるような奴と付き合う気もないし逢う気すらないね。教室まで押し掛けてくるのはその勇気に免じて話くらいは聞くけどさ。向こうの勝手な都合に私が合わせる必要ないデショ」
「いっそ潔い良いなお前」
「オレ、相手にちょっと同情しちまうなー」
「何処の馬の骨とも知らない奴から手紙渡されて呼び出されて告白されて付き合ってくれとか、そっちのが横暴じゃん」

チャイムが鳴った。担任が現れたので米屋はやべぇと小さく吐き出して自分の席へと戻っていく。出水は相変わらずお前おっかねぇなとか言ってるから無視だ。

昼休みになり、さてお弁当を食べようと鞄を手にした所でクラスの女子が私を呼ぶ声がした。声のする方を見れば、私を呼んでいる女子の隣に知らない男。盛大に溜息が零れた。

「おい、あれ。もしかして今朝の……って、おい、名前?」
「お昼食べ損ねる可能性あるから持ってくだけ。そのまま戻らなかったらバックレたと思って」

出しかけたお弁当とついでに机の中の教科書類をまとめて鞄に詰め込んで呼んでいるクラスメイトと見知らぬ男の元へ。話がある、という男に此処じゃ駄目かと聞けば人が居る所はちょっと、となんとも我儘な話だと思いながら仕方なく後ろを付いていくことにした。連れてこられたのは定番の裏庭。面倒くさいけど早く終わらせてお昼を済ませたいな。思考は完全に別のことに向いていた。

「で、話とは?」
「その感じだと手紙読んでくれてはないんだよね…」
「(やっぱり今朝の手紙か…)とりあえず用件は何かな?」
「俺、ずっと苗字さんの事好きで、その、良かったら付き合って欲しい」

顔を赤らめる目の前の男とは対照的に私はどんどん血の気が引いていくし体温も機嫌も大暴落だ。相手に気を遣う必要もない。盛大に溜息を吐き出した。

「あのさ、まず何処の誰かも知らないし突然呼び出されて告白されてはい付き合いましょうってなると思ってる?」
「え、苗字さん、俺のことわかんない?」
「知らない」

誰も彼もお前の事知ってると思ったら大間違いだぞ、という言葉は飲み込んだ。どうやら一年の時同じクラスだったらしいしサッカー部でエースなんだとか。全くいらない情報なので頭からすぐさま削除。記憶消去はお手の物である。

「そういう訳だからサヨウナラ」

もう話す事もないと、背を向けて立ち去ろうとしたら右腕を掴まれた。視なくてもわかる、これは面倒くさいやつだなとまた溜息。

「ボーダー隊員だが何だか知らないけどちょっと有名だからって良い気になんなよ」
「それがさっき告白してきた奴に対する態度かよ。良いから離してくれないかな」

離さないとでも言いたいのか。右腕を掴まれてる手に力が籠もる。どうでも良いけどいろいろ制御が効かなくなるから右腕は止めて欲しい。かといって手を出してしまって「ボーダー隊員が民間人に危害を加えた」とか言われても面倒くさい。私が怒られる。黙りの私に握る力は更に強くなり溜息は舌打ちへと代わる。

(面倒くさいな……戦神の鎖使うか……)

民間人に危害を加えず、この事実だけ無かったことにしてやるにはこれが一番早い。疲れるけど仕方ない。

「おい、そこで何やってるんだ」

意を決して金色の瞳を向けようとした時、声が聞こえた。

「名前此処に居たのか、探したぞ」
「村上先輩」
「悪いがこの後防衛任務なんだ、その手を離してくれないか」

その声は何時もの優しい声ではなく、敵意を含む冷たい声。普段自分に向けられる事のないそれを間近で聞いたせいか、ゾクリと恐怖にも似た何かが身体を襲った。私を掴むその手の上に、離せという意味を込められた村上先輩の手が乗せられる。男は舌打ち一つ、突き放すように私の右手を解放しその場から去って行った。

「……行ったか」
「有難う御座います、しつこかったんで助かりました」
「いや。腕、大丈夫か?」
「ちょっと痣になるくらい大丈夫ですよ」

掴まれていた腕は僅かに痣が残った。村上先輩は何時もの柔らかい表情でなく、ほんの少し苛立ちを滲ませた表情で男が去って行った方を向いた。

「それよりも、うち今日非番なんですけど」

そう、うちは今日非番。鈴鳴はどうか知らないけどそれはつまりさっきの発言が嘘であるということの証明。先輩の顔を覗き込めば、さっきの怖い顔から一変して困った顔で頬を掻いた。

「名前が嫌そうな顔で裏庭の方に歩いて行くのが見えたから、その、心配になって……悪いとは思ったんだが、追ってきたら、アイツが名前の腕を…」

私そんな嫌そうな顔で歩いていたのか、という事実よりも。たまたま見掛けた私の変化に気付いて助けに来てくれた事実が嬉しかった。ちゃんとお礼をしなくては、声を出そうとした私より先にお腹の虫が盛大に音を立ててそのまま絶句した。村上先輩には笑われた。

「……アイツのせいでお昼食べ損ねてるんですよ…笑わないで下さい!」
「悪い悪い。じゃあ一緒に食べようか」

カサッと音を立てた正体は購買の紙袋。なるほど、購買で買い物した時に此処に来るのが見られたのかと納得したと同時に、こんなくだらないことに巻き込んだせいで村上先輩のお昼の時間を奪ってしまった事に猛反省した。有難う御座いますすみませんをひたすら連呼して頭を下げまくる私に、気にしなくていいの一言で済ませてくれる村上先輩は仏か何かかと思った。流石来馬先輩の教えが行き届いてる。師匠も見習えば良いのに。

「任務あるって言っちゃったし、このままサボっちゃおうかな…」
「それも良いかもな」
「村上先輩はむしろ否定する派だと思ってました」
「その代わり怒られても助けないぞ」
「……やっぱちゃんと授業出ます」

村上先輩がまるで誰かさん、みたいな悪い顔で言うもんだから私は急いでお弁当を咀嚼し始めた。


新たな発見
(私はそんな顔の村上先輩、知らない)


3 茶々入れには酔うたふり
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