一歩一歩、村上先輩が近付いてくる度に私の心臓は大きく音を立てるのに、血の気はどんどん引いていくような気がした。

「おいコラ鋼、盗み聞きとは随分ヘタレな事してんな」
「荒船……」
「まっ、後は二人で何とかしろ。まったく、手間の掛かる弟子共だぜ」

鼻を鳴らして立ち去る師匠は何となく上機嫌だ。残された私と村上先輩はお互い気まずい空気かダダ漏れでほんと師匠今度ぶった斬るしかない。でもこれじゃあ一向に話が進まないので意を決して口を開いた。

「あの、何処から、聞いてましたか…?」
「荒船と加賀美が一緒に歩いてたら、てとこ辺りから、」

それはつまり村上先輩と今先輩がどうのの件はバッチリ聞かれていたということか。居たたまれない。何て言ってこの場を誤魔化せば良いのか。自分の気持ちを自覚してしまったせいで、とにかくこの場を穏便に早急に納めたいとしか思えない。鳴り止まない心臓がいっそ止まれば良いのにとさえ思ってしまう。

「名前」
「は、はい!」
「さっきのその、俺が言ってた″好き″の意味、なんだけど…、」
「あああ!!それはあの!忘れて下さい!」

勢いで立ち去ろうとした私の右腕を村上先輩によって捕まえられて。こないだの裏庭での光景が蘇る。

「待って、頼むから、聞いて欲しいんだ」

何時もとは違う、弱々しい声。
捕まれた右腕もすぐに離されて。先輩はズルイ。そんなのもう、聞くしかないじゃん。ゆっくりと先輩の方を向き直れば、何時もの優しい表情で先輩が笑うもんだから、ドクンとまた心臓が音を立てた。お願いだから心臓止まれ。

「俺は……俺も、名前と同じだよ。出水や米屋と一緒に居るとこ見ると胸がザワつくし、名前が可愛がってる笹森や半崎、太一や来馬先輩にだって嫉妬する…荒船と居る時なんて気が気でない」

あの時だって、と先輩は言葉を繋ぐ。

「名前が知らない男と歩いてて、当真が『また告白か』なんて言うから、いてもたってもいられなくて……」

だからお昼ご飯も食べずに来てくれたのか。先輩の言葉を聞く度に頭は幾分か冷静になっていく代わりに体温はじわりじわりと上がっていく。

「ちゃんと言わなきゃだよな。俺は名前の事が好きだ。他の誰にも渡したくない」

嗚呼、この声。この表情。

私が好きな村上先輩だ。

「……断るとか、ないです。どんだけ村上先輩の事見てきたと思ってるんですか」

その柔らかい声も。優しい表情も。戦ってる時の鋭い目付きも。ちょっと硬そうな千草色の髪も。私の為に怒ってくれるところも。普段はあんまり見られないグリーンティー色を纏ったその背中も、全部。

「ずっと、追い付きたいって、ずっと、隣に居たいって思ってたんですよ。



私も村上先輩の事、好きですから」

何時も私が好きって言う度に困った顔をする村上先輩が、今日は私の好きなあの顔で笑ってくれる。

ふわりと抱き締めてくれた村上先輩の、ずっと憧れていた、ずっと触れたかった大好きなグリーンティー色の背中に私は手を回した。


手を伸ばして届く距離
(やっぱりその顔が一番好き)


6 茶柱が立ちました
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