【スクルドの時計は動かない】
~ヴェルザンディは誰が為に微笑む~




「皆に話したい事があるんだ」

夜も遅い時間。
私の言葉に誰一人文句一つ零さずに、彼等は亜里阿支部へと集まってきてくれた。

□■□

「何かあったら呼べ。話が終わったらすぐ帰るか泊まってけ、わかったな」

支部長はそれだけ言って部屋から出て行った。何も言っていないけど、自分は聞くべきではないと察したのだろう。五人分の珈琲を運んでくれた凛香ちゃんがテーブルに配置していく音と時計の針の音がやたらと耳に響く気がした。

「ごめん、こんな夜中に」
「そんなことどーでもいいから話って何?」
「亜里阿の役割、皆覚えてるよね」

亜里阿支部の役割。
ボーダー内部の規律を取り締まる事、それからもう一つ──

「黒トリガー生成の為に私達は居る」

黒トリガーの研究と生成
その為の生贄──それが私達亜里阿。

だけど、


「多分、私は黒トリガーに成れない」

亜里阿としての役割を恐らく私は果たせない。


「は?ちょっ…突然何なんだよ?意味わかんねぇし」
「凍矢落ち着きなよ。名前、僕達にもわかるように話してくれないか?その為に呼んだんだろ」

立ち上がり問い詰める凍矢を宥めてくれた悠士に礼をして、私は迅さんに話したのと同じように全てを伝えた。

「戦神の鎖が外せないとわかった以上、亜里阿の役割は果たせるかわからない。此処に居て良いのかも正直わからない」

死ぬまで外せない戦神の鎖。
黒トリガーを所持した状態で、というよりも、体内に戦神の鎖による鎖が張り巡らされた状態で私が黒トリガーに成れるかどうかわからない。
私が死ねば戦神の鎖がどうなるかも、わからない。
わからないことだらけなうえに、私が居ることで不要な戦いを招くかも知れない。それでも、

「私は皆と一緒に居たい。皆を守りたい」

大切なものを守る為に戦う。
その為に私の大切な人達を巻き込むのは嫌だけど。
それでも私は、亜里阿の皆と一緒に居たい。


「あのさ、」

暫くの沈黙の後、口を開いたのは瀬尾ちゃんだった。

「バカだバカだと思ってたけどやっぱり名前ってバカなんだねバカ名前」
「は?」
「亜里阿の役割?ナニソレ、任務は任務デショ。そんなの気にして此処に居る奴誰も居ないって。皆名前に惹かれて此処に居るんだよ?バカなの?居たいなら居れば良いじゃん」
「瀬尾ちゃん……」
「そーですわ!貴女が居たから私は此処に居るんです、亜里阿の役割なんてどーでもいいですわ!私は貴女の傍に居たい」
「凛香ちゃん……」
「おい名前。二回だ!俺はお前に二回も命救われてんだぞ。まだあの時の約束だって果たせてねぇのに勝手に居なくなろうとすんな馬鹿!」
「一人で何でも背負い込もうとするのは名前の悪い癖だよ。守りたい、なんて。僕達にも君を守らせて…いや、一緒に背負わせてくれよ」
「凍矢……悠士…はは…なんか想定外…」

拒絶されても可笑しくないって思ってた。
私達は生贄で、それは皆がわかってることで。来たる時が来れば私達はそう成る存在でしかなかったのに。

「名前、俺はお前に救われたあの日からお前の為に生きるって決めたんだ。お前が戦うなら俺はお前の楯にも戈にもなる」
「あら?貴方に二役もこなせますの?」
「凛香テメェなぁ、」
「戈には私が成ります。貴方は名前を守る楯に成りなさい。その代わり傷一つでも付けたら許しませんから」
「戦い嫌いのお前が戈かよ」
「″雨の殺し屋″を舐めないでくださらない?立ちはだかる全ての障害を薙ぎ払ってやりますわ」

凛香ちゃんがニコリと笑う。
それは良いと悠士も笑っている。

「それじゃあ僕は傘に成ろう」
「傘?」
「戈や楯じゃ、突然の雨や火の粉は防げないだろ?傘があれば雨にも濡れないし火の粉だって被らない」
「戈と楯と傘か…じゃあ瀬尾は?」
「オレは…、」

珍しく言葉を詰まらせる瀬尾ちゃん。
そういえばこの話になってから妙に静かだった気がする。

「オレは、皆みたいに強くないし、名前を守ってやれる力は、」
「瀬尾くんは家だな」

力なく呟かれたそれに食い気味に入ってきたのは悠士だった。家?と、瀬尾ちゃん含め全員が頭にはてなマークを浮かべている。そんなの気にせず悠士はニコニコしている。

「瀬尾くんは家。名前はすぐ無茶するから。還るべき場所、家が必要だろ?瀬尾くんがそれに成るんだ。亜里阿は僕達が還るべき場所、言うなれば三門市かな。でも家が無いと還る目的が無くなるだろ?それが瀬尾くん」
「還るべき、家…」
「なんかよくわかんねーけど悠士すげぇな!」
「よくわかってないのに馬鹿騒ぎするなんて本当に馬鹿ですわね」


何事からも守ってくれる楯

全ての障害を振り払う戈

火の粉さえ防いでくれる傘

還るべき家

守らなきゃいけないと思っていた存在は、私が思っていたよりも遥かに強くて優しくて、


「名前、オレ、ちゃんと待ってるから何があっても絶対還ってきてよ。約束」
「っ、そんなこと言われたら還ってくるしかないじゃん」


かけがえのない存在
(また守らなきゃいけないものが出来た)

そして僕達は朝を迎える

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