▼ 体調も良好。支部長が手続きを済ませてくれたので予定通り午後には退院出来た。今日一日は防衛任務もランク戦も、勿論自主練も禁止だからなと先程支部長に釘を刺されたので残念だが本部に顔出すのは明日以降にしよう。それよりも今日はもっと楽しい事が待っている。 □■□ 思えば此処に来たのは初めてかも知れない。こんな時間にこんな所をうろうろしてると怒られてしまうかも知れないという恐怖心は有りながら、意外と何にも起こらないのが実際だ。 「早く来ないかなぁ…」 一月下旬。外は寒いなんてもんじゃなくて、はぁと吐き出した吐息は白く手を暖めようと摩っても気休めにしかならない。待ってるなんて言ってないからきっと驚くんだろうな。ていうか連絡すら入れてないや。早く来ないかな、こんなにもあの人が来るのが待ち遠しいなんて、恋する乙女みたいだなと思うとなんだか可笑しい。多分自分の中に渦巻くこの感情はそんな甘ったるいもんじゃなくて、単に驚く顔が見たいという悪戯心だ。 「名前?」 どれくらい待っただろうか。疎らではあるが帰路に着こうとする人々が続々と私の横を、前を、通り過ぎていく。不審に思って顔を覗き込んでいく人さえいる。なかなか失礼だぞそれ。そんな中で聞こえた私を呼ぶ聞き覚えのある声。 「やっぱり名前か。病院はどうした?もう良いのか」 「今日退院したんだよ。奈良坂お見舞い来てくれたんだってね、ありがと」 そうか、と僅かに微笑む。普段あんまり表情の変化が伺えない奴だけど、付き合いが長くなったせいかこういうちょっとの変化に気付けるようになった。奈良坂が現れた事で私に対する不審の眼差しは更に増した。某先輩ならブチ切れ案件だ。 「それはそうとこんな所で何をしているんだ?」 「人待ち。退院祝いで前に話してた例の喫茶店連れてって貰うんだ」 誰、とは言わなくても察したようで。あの人ならもうすぐ来るんじゃないか、とさして興味もないのか携帯端末弄りながら校舎の方に視線をやった。一人で待ってるのも暇だしつまらないからちょっと付き合ってよと言ったら俺はこれから任務だから暇じゃないと一蹴された。奈良坂この野郎。奈良坂が先程ポケットにしまった端末を取り出してまたしまう。任務があるって言ってたから三輪辺りから連絡でも来たのかと思って見てたら急にこっち見て小さく笑った。何事かと思った次の瞬間鬼の形相で走ってきた人に思いっきり頭叩かれて何かもう色んな物が吹っ飛んだ。 「いっ…たい!!!」 「何でお前此処に居るんだよ馬鹿!せめて連絡くらい寄越せ!」 「酷い!師匠が来るの待ってたのに!」 普段は叩かれてもトリオン体だからさして痛くはないけど今は生身だ。ましてやこの人力強いし痛いに決まってる。奈良坂は「じゃあ俺これから任務なので失礼します」とかサラッと居なくなるし。涙目で訴える私を物凄い目つきで睨んでくるからほんと師匠酷い。 「お前今日退院だって言ってたじゃねーか」 「そーですよ?さっき退院してきて学校に休んでた分のプリントとか貰いに行って時間が勿体なかったのでその足で来ました」 「だから制服なのか」 「え。ああ、制服なのはあれです。大規模侵攻の時、」 そこまで言ってああ、と納得された。 大規模侵攻の時、教室からそのまま現場に行って意識無くしたから生身の服装は制服しか持ち合わせていなかった。 何でそんなに制服に突っかかってくるのかと思えばどうやら一高の女子生徒が門の所に居る、とクラスで騒がれていたらしい。おまけに教室出てすぐ犬飼先輩に捕まって私じゃないかって言われてまさかと思ったら奈良坂から連絡来たとか。奈良坂の奴、端末弄ってると思ったら荒船先輩に連絡してたのかよ。お騒がせしてしまったのかは少々申し訳ないが時間が勿体なかったんだ仕方ない。それに、 「それに一回やってみたかったんですよね、制服デート」 へらりと笑ったら荒船先輩は「行くぞ」と私の腕を半ば強引に引っ張ってさっさと歩き出した。チラリと盗み見た先輩の顔が赤く染まっていたのを私は見逃さなかった。 本日照れ隠し不在 (今日は帽子が無いから先輩の顔がよく見える) |