▼ お目当ての喫茶店は凄い可愛らしいというよりはどちらかというと少し落ち着いた雰囲気のお店で、これなら荒船先輩も入りづらくないだろうと内心ホッとした。そもそもこの人昨日此処にケーキ買いに来てるんだからそんな心配は愚問なんだけど。 ショーケースに並んだ色とりどりのケーキに心が踊る。昨日買ってきてくれたショートケーキとベイクドチーズケーキも美味しかったし、嗚呼でもレアチーズもあるのか…ミルクレープも美味しそうだな。奈良坂は絶対チョコっていうんだろうな、うんチョコも美味しそう。 「あ、先輩はどれにします?私まだ悩み中なので決まってたらお先にどーぞ」 「どれで悩んでんだよ」 「んー…レアチーズとミルクレープ」 頑張ってこの二択まで絞ったけど此処が悩み所。チーズケーキは外せないけどミルクレープも捨てがたい。ショーケースの中をぐるぐると眺め続けていた私の頭上で荒船先輩が今まさに私が悩んでるその二つとアイスコーヒーを二つ注文している。 「何とぼけた顔してんだばーか」 「いや、は?え?」 「悩んでんだったら二つ頼みゃいいだろ。俺はなんでもいい」 そのままサラッとお会計まで済ませようとしてるから慌ててお財布を出したらめっちゃ睨まれた。「先輩!お会計!」「いらねぇ」このやり取りはコンマ数秒で終了した。 二人分のケーキとドリンクを乗せたトレイを運んで席に着く。一応もう一度お財布を出したけどやっぱり睨まれたので此処は甘えておくことにした。好きに食えって言われたのでとりあえず私の方にレアチーズ、先輩の方にミルクレープを差し出した。何も言ってないのにアイスコーヒーにしてくれる辺り、先輩は私のこと良くわかってらっしゃる。扱いが上手いのだ、この人は。 いただきます、ちゃんと手を合わせる事は忘れない。ラズベリーだなんだと着飾ってないシンプルで真っ白な表面にフォークを差し込んで。見るからに濃厚そうなそれにあ、これ絶対美味しいやつだと確信にも似た何かを抱きながら一口。濃厚だけどしつこくないチーズの旨みとさっぱりとした酸味、爽やかな甘さ加減。これは美味しい。「旨いか?」なんて何時もより優しい声色で聞いてくるもんだから全力で首を縦に振った。 「先輩もどーぞ」 フォークに一口分取って、差し出す。 先輩はピタリと動きが止まった。何事かと思ってよく考えたらなるほど理解した。 「ん?あ、ああ……すみません出水達相手にしてるわけじゃないのに不躾でしたね。私のフォークじゃ嫌ですよね」 「あ、いや、そーじゃねー…つーかお前出水達にも同じことすんのか」 「アイツら人の箸とかフォークとか気にしないですから」 「そういことじゃなくて……」 何時になく歯切れの悪い先輩は少し考えた後、差し出したままのフォークをパクリと一口。「うめぇ…」と言ってくれた事は何よりなんだけど顔真っ赤にして前髪辺りをガシガシと掻き毟って。凄く照れてる荒船先輩を見てたら何かこっちまで恥ずかしくなってきてしまった。なんだこれ。得体の知れない恥ずかしさを誤魔化すようにコーヒーを胃に流し込む。ストローを噛みそうになってそういえば前に出水に怒られたのを思い出して止めた。 「先輩そっちもください」 レアチーズは勿論美味しかったけど、ミルクレープも美味しそうだ。一応断りを入れたらやっと普通に戻った荒船先輩が今度は自分の手元にあるミルクレープをさっき私がしたように差し出してきた。なんだ先輩他人のお箸とか使うの嫌なタイプなのかと思ったら違うのか。そうとわかれば遠慮なく頂いた。生地とクリームの絶妙なバランス、うん、こっちも美味しい。 「此処良いですねケーキどれも美味しいし。これは通っちゃうなぁ」 「太るぞ」 「そういう事女の子に言っちゃいけないんですよー私はちゃーんと訓練するから大丈夫ですー」 攻撃手の、ていうか私の運動量舐めるなよ!ってこの人は良く知ってるんだけど。 「でも狙撃手って攻撃手ほど運動量無いのに皆ちゃーんと引き締まってるしむしろ筋肉質ですよね。荒船先輩とか穂刈先輩とか」 「そりゃあ鍛えてるからな」 「奈良坂とかあんだけ甘い物食べてるのに細いし肌綺麗だし羨ましい。前にパフェ食べに行った時だって全然肌荒れとかしないし、此処最初に発見してきたのも奈良坂だし」 おまけに髪まで綺麗だし流石那須ちゃんと同じ血筋だよなほんと何なんだよアイツ。きのこのくせに。私が八つ当たりのように奈良坂の文句を言っていたら荒船先輩が妙に怖い顔してた。そんな怒る事言ったっけ。 「お前、奈良坂と仲良いんだな」 「へ?ああ……テスト勉強一緒にしたり甘い物食べに行ったりするくらいには仲良いですかね?」 奈良坂教え方上手いからテスト勉強捗るんですよね。甘い物食べに行きたい時とか着いてきてくれるし。答えれば答えるだけ荒船先輩は何だか不機嫌である。 「奈良坂は女子友達みたいな感じですよ。アイツ、私よりスイーツ女子だし」 「今度、」 「はい?」 「今度甘いもん食いたくなったら呼べ。付き合ってやる」 「え、でも先輩そんなの甘い物好きじゃ」 「名前に付き合って奈良坂が肥えたらボーダーとしても困るからな。優しい俺が付き合ってやるよ」 そんな自己管理出来ない奴だとは思わないけど。でもそうか、狙撃手運動量少ないし。「ついでに食後の運動も付き合ってやるよ」となんとも魅力的なお誘いを受けたので今度は荒船先輩も誘ってみよう。 甘さ増し増しでお願いします (今度スイパラ行きたいんだけど着いて来てくれるだろうか) |