「先輩この後お時間まだ平気ですか?」
「平気も何も晩飯行くんだろ」
「あ、いや、昨日はノリで押し切ってしまった部分もあったので一応確認しとかねばと……」

退院祝いと託けて振り回しては流石に悪い。ケーキも御馳走になったので我儘は言えない。そんな人の心配やら不安やら遠慮やらを余所に荒船先輩は「くだらねーこと気にすんなばーか」と人の頭をぐりぐりとしてきた。これがこの人なりの優しさなのは知ってるけど結構痛い。


「どっか行きたい所でもあるのか?」
「あ、はい。ちょっと本屋さんに用がありまして」

じゃあ行くか、とそのまま席を立ち店を後にする。駅中はちょっとしたショッピングセンターみたいになっていて本屋さんもそこにある。


「何買うんだ?」
「えーっと瀬尾ちゃんが読みたがってた小説の新刊と、あと、参考書とか…」

問題集やら参考書が並んだ本棚の前で立ち止まる。学校に行ってない凍也と瀬尾ちゃんは私達のお下がりの教科書や参考書で勉強している。そうなると自分達は自分達の参考書やら問題集が必要になってくる。今までは別に必要だとも思わなかったんだけどと、手にしたのは高校1年2年の復習用と大学受験向けのそれ。


「あんなに頭良い凛香ちゃんや荒船先輩が受験勉強してるの見てたら学校の授業だけじゃちょっと不安だなって」

任務で授業受けられなかったりする事はあっても凛香ちゃんは全然遅れとかあるように見せなかったし、荒船先輩や一部の人を除いた他も同じくだ。進学校組はとにかく賢い。同い年の奈良坂や辻を見ててもそれはよくわかる。だから、ちょっと焦る。


「別に名前は言うほど成績やばくないだろ」
「私学校サボってたツケがあるから内申点結構酷いんですよね。だから推薦は多分貰えないし学力だって進学校組と比べたら劣ってることばっかですよ」

奈良坂に勉強教わるのもそのせい。ただのテスト勉強なら一人でやってた方がむしろ気楽だけど、先を見据えて理解していく事を考えたら自分よりも先を行く奈良坂に教わった方が為になるとわかったから。おまけにアイツは教え方が上手い。


「今から頑張ってあわよくば先輩と同じ学校行けたらなーとか……って、痛っ!!」

硬い何かで頭を叩かれた衝撃は首にまで響く。何事かと思えば持っていた参考書を奪われて代わりに違う本を渡された。これはよく見る赤本というやつ。こんなぶっとい本で殴ったのかあの人は、痛いわけだ。


「買うならそっちにしろ」
「流石にこれはハードル高くないですか?」
「安心しろ、わかんねえ所は俺がみっちり理論から叩き込んでやるから」

ニヤリと笑う。嗚呼、先輩のこの顔は良く知ってる。孤月振り回してぶった斬りにかかってくる時とかに見る、好戦的で楽しそうでちょっとイラッとする格好いい顔だ。

予定通り小説の新刊と先輩に勧められた参考書やら問題集を無事に買い終わり、時計を確認すればまだ夕飯時には少々早い。適当にフラフラしましょうか?と問えばそうだなと軽い返事が返ってきた。そういえばあんまりこの辺見て回った事ない気がする。


「いろんなお店があるんですねー服屋さんとかいっぱい」
「女子ってこういうとこ良く来るんじゃねーの?」
「私こういうとこ一緒に来る友達居ないし。ボーダーのメンバーともあんまり遊ばないから来ても凛香ちゃんか小南くらい?」

凛香ちゃんはオシャレにも気を配れる完璧女子なので大体の事は凛香ちゃんに教わってます。荒船先輩はとっても意外そうな顔をしていた。実際私の持ってる私服の大半は凛香ちゃんのお下がり(もしくはプレゼント)だ。小南は付き合いが長い分よく出掛けたりもするけど大半は小南に付き合ってるだけ。凛香ちゃんや小南と出掛けると大抵着せ替え人形にされて終わるのに最近はそこに宇佐美が加わったから賑やかさが増した。


「放課後遊ぶことあっても出水米屋くらいだし、アイツらと居ると結局本部行ってランク戦しよーぜってなるし」

だから制服で遊びに行くということに多少なりとも憧れがあったのかも知れない。凛香ちゃんが好きなブランドのお店とかクラスの女子がキャーキャー言ってた所とか、すっかり先輩を振り回してしまっている。先輩は終始無言だ。


「すみません、何か振り回してばっかで」
「別に気にすんな」
「でもなぁ……あ、」

つい足を止めてしまったその場所は、ちょっと前に凛香ちゃんに教えて貰って好きになったお気に入りの雑貨屋さん。


「見ていくか?」
「え、あ、んー……」
「行きてーんだろ?なら行くぞ」

この人何でこんな男らしいんだろ。普通ならちょっと敬遠したくなるような可愛らしい雑貨屋さんにもズイズイ進んでいくからむしろ私の方がおろおろしてしまう。本日何度目かわからない遠慮するんじゃねーを頂いたので有難く店内を覗かせて貰う。

アンティーク調の小物とかキラキラしたアクセサリーとか、宝石箱をひっくり返したようなとは上手い表現だと思う。先輩は相変わらず無言だけどちゃんと付き合ってくれてる。サラッと見て店を出ようとしたら怪訝そうな顔した先輩に呼び止められた。


「何も買わねーのか?」
「ああ…実は特別欲しい物があったわけじゃないんです。こないだ凛香ちゃんから此処のお店の髪飾りを貰ったんですけどちょっと可愛すぎちゃって。普段使い出来そうなのないかなぁって思っただけなんです」

貰ったそれはとても学校にしていくには可愛すぎる代物で。体育の時とかうっかり壊してしまいそうだから怖くて付けられていない。凛香ちゃんは気にしなくていいって言ってくれてるけど折角だから大事にしたいのでお出掛け用として今は保管してある。


「そーいうわけなので大丈夫ですよ!さぁ先輩そんなことより私はお腹が空きました御飯食べに行きましょう!」

さぁ!と先輩の腕をぐいっと引っ張る。さっきまでぐいぐいされてたから今度は私がぐいぐいしてやる。案の定「引っ張るな」と小気味良い音を立てて頭ひっぱたかれた。だから痛いって!


優しさを何処かで買ってきて下さい
(生身なんだからもう少し手加減して欲しい)
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