▼ 早起きしなくていいとは思っていても起きてしまうのは生活リズムのせいか、嫌な夢のせいか。起きてしまったからには仕方ないと眠い目を擦って身支度を済ませ部屋を出る。今日はイライラが収まらなさそうだ。 本部へ赴き、真っ直ぐ目的地へ。 すっかり行き慣れた道を進む足取りは僅かに重いが、歩む足は止まらずそのまま開発室の扉を叩く。すぐにお目当ての彼と目が合い、何も言わず此方へと向かってくる。「外で話そう」と一言だけ。彼は私の前を歩いていった。 「ごめんね、忙しいのに」 「いや大丈夫。それより苗字こそいろいろ大変だっただろう」 「あ、ああ…寺島くんへの迷惑を考えたら私なんて全然だよ」 彼、寺島雷蔵はあの人の上司だった。あの人が居なくなった事で、寺島くんへの負担が大きくなったことは言うまでもなく。それでも私の心配をしてくれるから、素晴らしい同期を持ったものだ。 「迷惑掛けてごめんね」 「苗字が謝ることじゃないだろ」 「でも…、」 「それよりも、俺は苗字が顔を腫らして此処に来ることがなくなるってだけで安心だよ」 それを言われてしまうと何も言えなくなる。あの人は何か嫌なことがあると私に当たっていた。暴力は日常で、反撃したら面倒だし、別にボーダーに居るときはトリオン体だから良いやと私は諦めていたのだけれど、目の前にいる素晴らしい同期は心を痛めていたようだ。 私と寺島くんの関係は今も昔も変わらない。それはあの人と付き合ってる時も例外なく。それ故にあの人は私と寺島くんの関係性を疑う事がしばしば。元の性格もあるんだろうけど、あの人が上司である寺島くんの言うことをまともに聞かなかったのはそういったところもあったに違いない。 だからこそ、私が顔を腫らしている所を一番目撃していたのは間違いなく彼だし、あの人の迷惑を一番に被っていたのも間違いなく彼だ。 何時の頃からか、私と私の周りにはほんの少しの距離が出来た。 それは単にあの人を鬱陶しく思ったのもあれば、私の身を案じてそうしたものも少なくない。彼がまさにそうしてきたように。 「俺が言うのもおかしいけど、苗字はちゃんと幸せになるべきだから。嫌な事は忘れて今は自分と向き合う時間にすればいいよ。色々諦めたままにするのは苗字の悪い癖だから」 「自分と向き合う、かぁ…」 「まぁすぐに忘れろなんて無理だろうから、はい」 手出して?と促されるまま差し出した手の上に置かれたのは、あまりにも馴染み深い── 「何時でも渡せるようにちゃんとメンテナンスはしてあるから、それで昔みたいに暴れてきなよ、名前」 「ありがとう──雷蔵くん」 昔のように名前を呼ばれ、私も同じく名前を呼んだら全てが元通りになった気がした。 (此が当たり前にあった日常) |