▼ 雷蔵くんと別れ、そのまま向かったのは個人戦ブース。今日は此処に引き籠もってひたすらランク戦に明け暮れてやろう。普段は滅多に現れない私を見かけた他の隊員達は各々の反応を見せてざわつく。同僚から暴れてきなと言われたので遠慮なくそうさせてもらおう。しばらく籠もってから一息つくのにブースを出る。鈍った身体には丁度良い運動で、朝より気分も幾分か晴れやかだ。もう一暴れしてこようと、立ち上がった所で私を呼ぶ声がした。 「名前さん!なんか、珍しいっすね此処にいるの」 「出水くんじゃん。まぁね…今日は一人?」 「はい。槍馬鹿とランク戦しよーぜって言ってんすけど、あの馬鹿課題やってなかったとかで三輪に捕まって」 「あらら」 「名前さん暇ならおれとランク戦やりましょうよ」 好戦的な笑みを浮かべる出水くんは私の可愛い後輩の一人だ。だが事ランク戦、というか戦闘に関していえば彼と米屋くんはめんどくさい部類に入る。後、太刀川くん。彼が一番めんどくさい。普段なら軽くあしらってしまうところだが今日はむしろ有り難い。「一本だけね」と断りを入れブースへ入る。可愛い後輩には悪いけど、私は今日手加減出来る気はしないや。 戦闘体が転送され辺りを見渡す。 出水くんが居そうな所にふらふらと近付いていく。出てきてくれないとこっちは話にならないんだ。そして次の瞬間、火力抜群の弾丸が此方目掛けて飛んでくる。 「トマホーク!相変わらずえげつない火力してるなぁもう!」 「そんなこと言ってて全然ヨユーかよ」 爆煙で視界が遮られる。僅かに聞こえる出水の声と気配。崩れた建物の影に、ああ、見つけた。煙が完全に晴れる前にもう一撃飛んでくる。それはシールドで弾いて。煙が晴れるとほぼ同時に私は出水くんの懐に入り込んでいく。 「はい、捕まえた」 「は?名前さん、それ、」 それ、に気付いた時にはもう遅い。私の放ったハウンドは出水くんの無防備な背中から身体を突き抜けていき、驚きと悔しそうな顔を浮かべて光の筋となっていった。 「随分荒ぶってんなぁおい」 「…諏訪……」 ブースを出てすぐ呆れた表情の同期に私は顔をしかめた。別に荒ぶってない、と答えれば「嘘つけ」と間髪入れずに返ってくる。 「ていうかお前……それ、雷蔵に返して貰ったんだな」 「うん、さっき」 「名前さん!!もっかい!!もっかいやりましょう!」 「お前随分派手にやられてたな」 「諏訪さん!ていうか、諏訪さん見てました?名前さんのあれ!何時もと違う!」 「あぁ?…ああ…あれが名前の本来の戦い方だろ」 諏訪は当たり前みたいな顔で言うから出水くんは余計にヒートアップする。 「だって名前さん射手じゃないすか!確かに昔レイガスト使ってたの知ってるけど!ぶん殴ってくるとか…!!ていうか何で銃手装備だったんですか!」 「レイジのあれか。お前後輩にも容赦ねーな」 「違いますーあれは私が最初にやったんですー」 まじおっかなかった…と嘆く出水くんと、腹抱えて笑う諏訪。なんかムカついたから諏訪の脛を思いっきり蹴飛ばしてやった。いてぇよって言葉は無視だ。 「名前さん射手だったじゃないすか」 「ごめん出水くん。私もともと銃手だったんだ。ちょっと色々あってレイガストを手放さなきゃいけなくて……それで射手に転向してたんだ」 雷蔵くんがエンジニアに転向してレイガストを開発した時に私は銃手を辞めた。同期が作った武器で戦いたい、理由はそんなもん。出水が入隊してきたタイミングは多分私が銃手を辞め、レイガストと射手用トリガーを軸にしていた時だ。 「出水くも知ってると思うけど、私あんまりトリオンのコントロールとか得意じゃないからさ。まぁこの機会に元のポジションに戻ろうって、そんな感じ」 出水くんは弟子ではないけど私を慕ってくれて、数ある銃手射手の後輩たちの中ではダントツで可愛がっていた後輩だ。同じポジション同士ってのもあって慕ってくれていたのだろう。出水くんには少しだけ申し訳ない気持ちになる。 「別にポジション変わったって名前は名前じゃねーか」 「そうっ…なんすけど!おれ名前さんのこと目標にしてたっていうか、」 尻つぼみになっていく言葉に私は驚きを隠せずにいた。出水くんが私を目標にしてた?はっきりいって射手としての才能やらセンスは出水くんの方が上だし、なんなら私のレベルは多く見積もって中の上だ。常人に毛の生えた程度の私を目標にしていたとは、正直驚きだ。 「出水くんさ、メイントリガーは元に戻しちゃうけどたまになら射手装備で相手してあげるよ」 「っ!!ほんとですか!約束ですよ!」 パァッと花が咲いたように笑顔になった出水くんは「じゃあおれこの任務なんで!」と駆け足で去っていった。走り去る黒い背中を眺めながら彼はあんなに忙しない子だっただろうかと、まるで我が子を見つめる母親のように頬が緩むのがわかった。いや、我が子は居ないからよくわからないけど。どちらかというとあれは弟の部類か。どちらにしても私にとって後輩、年下は皆総じて可愛い存在だということには変わりないのだが。 「お前あんな約束していーのかよ」 「なんか罪悪感あって。まぁ仕方ない、こっちのトリガーホルダー返さなくていいか雷蔵くんに聞いてみよう」 彼のことだからきっとノーとは言わないだろう。そういえば諏訪は何をしに此処に来たのだろうか。此処に居るということはランク戦か。なんだか珍しい。訪ねてみたらどうやら私を探しに来たらしい。それはそれでまた、珍しい。 「今頃ランク戦ブースで暴れてる頃だって聞いたから来てみたらほんとに暴れてやがって」 「別に暴れてないし」 「懐かしいもん見たついでだ。一勝負しようぜ」 「諏訪から勝負ふっかけてくるなんて珍しい。雨でも降りそう」 「うるせー。それ終わったら飯行くぞ。あいつらも来る」 あいつら、で伝わるから同期って素晴らしい。彼らと食事をするのも何時以来か。当たり前にしていた行動ひとつひとつが、制約されていたあの頃。ああ、そうか。出水くんが私が此処に居るのが珍しいと言ったのも、私が諏訪をランク戦ブースで見掛けるのを珍しいと思うのも、全ては私の動きが制限されていたからであって。そう考えると私が気付いていない、いろんな所でまだあの人の柵があるのだなとげんなりする。 諏訪からの素敵な誘いに二つ返事で了承して、私達はブースへと入っていった。 (未来は明るいとあの時は信じていた) |