諏訪とのランク戦は6対4で勝った。付き合いが長い分、お互いの手の内は良く知っている。昔はもっと楽に勝てたのにブースから出てきた時には私の息はすっかり上がっていた。


「随分暴れてたみたいだね」
「だから暴れてないってば。雷蔵くんがそういうこと言うからいけないんだからね」

対面にいる雷蔵くんに文句をつけ、私はジョッキに注がれていたビールを一気に飲みほした。雷蔵くんの隣に座るレイジくんに「あんまり飲み過ぎるなよ」と窘められるが、それは私ではなくて隣でチビチビとカシオレを飲んでいる風間に言ってあげて欲しい。私から一番遠い席に座る諏訪は「散々暴れてたじゃねーか」ってゲラゲラと笑ってる。


「なんなのよ皆して!いーじゃん今まで我慢してたんだから!ちょっとくらい羽目外したって!」
「やはり我慢してたんだな」
「っ……我慢、じゃないよ……諦めてただけ……」

レイジくんに言われて言葉が詰まる。私は我慢していたんじゃなくて雷蔵くんが言ってように諦めてただけ。あの人と別れることも、暴力を振るわれることも、他の隊員と自由に会話することもランク戦をすることも、全てを諦めていただけ。


「もう何も諦めることもねーだろ」
「そうそう。今は名前の好きにすればいいんだよ」
「やだ皆が優しいどうしたの」
「俺達は少なからずお前を心配していたんだぞ」

呆れたように吐かれた言葉。そうか、私、皆に心配かけていたのか。ごめんね、の言葉に雷蔵くんは困った顔をするしレイジくんは溜息をつく。諏訪に至っては「謝んじゃねーよ」って悪態つく始末で私はぎこちない笑顔で新しく届いたジョッキに手を伸ばす。


「名前」
「かざ、」

言い終わる前に胸倉を掴まれて引っ張られる。寸での所でジョッキから手を離していたから大惨事にはならなかったが、引っ張られるまま、風間との距離が縮まった。


「ちょっ……!?風間!!近い近い近い!!!」
「もう諦める必要もないだろう。それでもまだ素直になれんというなら俺がお前を貰うぞ」
「は?」
「おい風間いい加減にしろよ」

焦点の合っていないゆらゆらと揺れる赤い瞳。完全に酔ってる風間は相変わらず胸倉を掴んだまま更にその距離を縮めようとしてくる。レイジくんが制止の声をかけ、雷蔵くんが手を離させ、諏訪がやや怒気を含んだ声を放ち風間の首元を掴んで引き剥がす。引き剥がされた風間は標的を諏訪に変更したようでぐるりと諏訪の方に向き直る。


「お前もだ諏訪。いい加減素直になれ」
「はぁ?何がだよ?意味わかんねーし酔っ払いまじめんどくせーな」

ちょっと寝てろ、と無理矢理水を飲ませて間もなく風間は静かになった。風間が酒に弱いのは知っていたがこんなになった所を見たのは初めてかも知れない。諏訪は盛大に溜息を吐き出し風間を自分が座っていた一番に追いやって、代わりに私の隣へと腰を下ろす。


「まじめんどくせー……なんなんだよったく……」
「お前が飲ませ過ぎだ」
「もう餓鬼じゃねーんだから自分でセーブくらいしろよな」

レイジくんと諏訪のやり取りをぼんやり見つめる。同期でこうして集まるのはいつ以来か。いや、私が参加していなかっただけで彼らは四人でよく連んでいると聞いていた。


「名前大丈夫?ボーッとして」
「ていうか、お前も飲み過ぎじゃね?そんな飲めなかっただろ」
「あまり無理をするな。風間みたいになるぞ」

上から雷蔵くん、諏訪、レイジくんの順に声をかけられて。確かにちょっと意識がふわふわしてるけど。あの人と別れてからお酒を飲む量が増えた。あの人が全く飲まない人で飲み会も好きじゃなかったからこういった場が疎遠になっていたけど。決してお酒に強い訳ではないが、私は皆で飲むのが好きだった。


「んーまえよりのむようになったからへーきだよー?さいきんおさけのまないとねれなくてさー」
「完全に酔ってるな……」
「うるさいなぁー……あー!もー!のんでものんでもはなれないんだよ!なんであんなひとといっしょにいたんだろーわかんなーい!!」

ダン、と叩いた机は大きな音を立てる。目の前のジョッキに手を伸ばそうとしたらそれは諏訪によって阻まれ、睨み付けても「怖くねーよばーか」って。へーきだって言ってるのに。代わりにレイジくんから渡されたグラスの中身を一気に飲み干す。火照った身体に染み込んでいく冷たい水は、鈍った思考能力を僅かに回復させるが後からどっと襲ってくるのは眠気だ。


「ほんとに……なんでばかみたいに夢みてたんだろ……」

ああヤバイなんか泣きそう。お酒飲むと泣き上戸にでもなるのかな。


(涙が出るだけ幾分かまし)
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