「俺たちは風間を送っていくからお前は名前を頼む」
「送り狼は止めときなよ」
「誰がするか!」

すっかり泥酔した風間をタクシーに押し込んでレイジと雷蔵は夜の闇に消えていった。風間同様泥酔しきった名前は足元が覚束ないどころか意識すらあってないようなものだ。こんな酔い方初めて見た。名前の家までタクシーを呼ぶ距離でもないが、このまま歩かせるのも危ない。

「めんどくせぇな…おい名前、後で文句言うんじゃねーぞ」

声をかけたところで返事は曖昧だ。本当に面倒だ。だがこのまま放置しておく訳にはいかないので仕方なく名前を背負って歩くことにした。

夜道は外灯こそあれど人通りなんてないし、住宅は寝静まっているから自分の靴音しか聞こえない。背中に感じる重さはこんなにも軽いのかってくらい、軽い。こんな小さい身体で俺たちと同じように戦ってるのか。


「お前少しは俺たちの事頼れよな」

投げた言葉に返事はない。代わりに規則正しい呼吸音が聞こえてくる。寝やがったなこいつ、と悪態を付いてもそれも夜道に消えていく。

そういえば前に一度だけこうやって酔い潰れた名前を家まで送り届けた事があったな、と思い出す。あれは何時だったか。あの時も風間と名前が酔い潰れて、帰る方向が同じだった俺が名前を家まで送り届けたんだったけ。んで、その時はあの人と付き合って一緒に住んでたから怒られるんだろうなぁってのは覚悟の上だったけど案の定玄関先で殴られたんだった。酔いもぶっ飛ぶ衝撃だったのか真っ青な顔した名前が自分が悪いんだってすげぇ謝ってたな。次の日顔に痣作った俺に何があったと聞いてきた風間達に説明したら「何故反撃しなかった」って真顔で言われて「出来るか馬鹿」って言ったのも憶えてる。
それからしばらく名前は本部に来なかったし大学でも会わなかったからマジで心配した。そういやあの時雷蔵が「名前に構わないでくれ」って釘を刺されたって言ってたな。


「何であんな奴と付き合ってたんだよ…もっと他に居ただろ…」

勿論返事はない。
俺は名前が幸せならとは思っていたがあの人の事は正直最後まで好きになれなかった。
吐き出した溜息もまた、夜道へと消えた。

ようやく名前の住むマンションに到着した。オートロック式のマンションで勿論解除コードなんて俺は知らない。揺すっても呼び掛けても起きないこいつのコートのポケットからキーケースを取り出して自動ドアを開ける。エレベーターで上へ昇り部屋の鍵を開ける。部屋の電気を点け、靴を脱がせ寝室まで直行。ベッドに落とした所でようやく名前が目を覚ました。


「あれ…すわじゃん…ここどこ…?」
「オメーんちだよ!ったく、人の背中でぐっすり寝やがって」
「おくってくれたんだ…ありがと…」
「おう。じゃあ俺は帰るぞ。鍵はコートの中に入って、」

帰ろうと背を向けた所で引っ張られる感覚。犯人は名前しかいない。


「んだよ、」
「…やだ」
「は?」
「かえっちゃやだ…いーじゃんとまってきなよ!すわがとまるのなんていまさらじゃーん」

駄々をこねる餓鬼のような言い草。確かに名前があの人と付き合う前はよく宅飲みしてそのまま泊まったりもあったけど。一瞬名前が見せた表情に、このまま流されてはいけないと脳みそが警告をしているようで。この酔っ払いをどうやって巻こうか、考えてる一瞬のうちに素早く腕を引かれてベッドにダイブする羽目に。酔っ払ってるくせにどっから出てくんだよこんな力。そのまま取られた腕にしがみついてきて。警告は更に大きく鳴り響く。


「おい、ほんと、離せ」

振り解こうと伸ばしたもう片方の手は、聞こえてきた規則正しい寝息のせいで触れることなく引っ込める羽目になった。


「…寝やがった……どうすんだよこれ…」

がっしりと確保された腕と小さく呟かれた自分の名前に俺は盛大に息を吐いた。


(悲しそうな声で笑う君)
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