真夜中に祝福を

久しぶりの残業で家に着いた頃には時計の針はてっぺんを越えていた。荒々しく外したネクタイとスーツをベッドの上に放り投げ、シャワーを浴び、やっと気分が落ち着いたそんな時、呼び鈴が鳴った。重い腰を上げ玄関の覗き窓から相手を確認すると、その人の口は「開けろ」と動くので急いで玄関を開けた。出迎えた人物は俺が口を開く前に、持っていたビニール袋を目の前に突き出す。


「誕生日プレゼント」
「覚えていてくれたんですか」

真夜中の突然の訪問に戸惑う俺を余所に、プレゼントを渡しに来た名前さんは用件が済んだことに満足そうだ。


「じゃあそれ渡しに来ただけだから帰るわ」
「帰るって…この時間じゃ終電もないでしょう? どうするつもりです?」
「タクシー拾うか漫喫で一泊か。もしくは野宿」

さらっと言い放った彼女に眩暈がした。


「…このまま帰せる訳無いでしょう。とりあえず上がってください」

遠慮する彼女を半ば強引に部屋の中へと入れる。ようやく諦めたのか、彼女は渋々靴を脱いだ。


「プレゼントありがとうございます。ちなみに中身は?」
「柏餅……ってのは冗談で、ケーキ買ってきた」

柏餅のが良かった?
嫌味ったらしく笑う彼女に俺は結構ですよ、と苦笑する。


「それにしても……終電も無いのにこんな時間にわざわざ来なくても」
「ついさっき帰ってきたくせに何を言うか」
「よくわかりましたね」
「髪が湿ってる。こんな時間にシャワー浴びてるってことは残業か浮気しかない」

なるほど、と思わず感心するが、しかしまぁ強引かつ大胆で極端な二択だ。


「だけど名前さん……浮気、かも知れませんよ?」
「そうだね。それだったら仕方ない。帰る」
「…冗談ですよ。俺が浮気すると思いますか?」
「さぁ? 男前で頭の切れるお方だから女性が放っておかないだろうから」

じゃあ、と玄関まで戻ろうとする彼女の腕を慌てて掴んだ。


「からかい過ぎました。俺は名前さんが一番ですから」
「……どうだか」

プイッと顔を背けられた。ただ振り払おうとしない所を見ると帰る気はないらしい。俺よりも年下なのにこんなにも大人びた彼女の時折見せる子供っぽさ。夜中にも関わらずこうしてプレゼントを持ってきてくれる優しさ。こんなに素晴らしい彼女がいるのに、浮気なんてするはずがない。いまだに腕を掴んだままの俺に彼女は大きく溜息を吐いた。


「私のこと、一番ってのは嘘だな」
「そんなことないですよ」
「…まぁいいや。私よりも大事な人たちが居るのはわかってるから」

ゆっくりと、掴んだ手を解かれる。ほんの少し、寂しそうな表情を浮かべた彼女に心がちくりと痛む。


「だからこんな時間にわざわざ押し掛けたわけだし」
「どういう意味ですか?」
「どうせ一緒に過ごせないならせめて一番に祝いたいっていう乙女心」

おどけてみせる彼女は、やはり何処か寂しげで俺はようやく彼女に気を遣わせていたことに気付いた。


「名前さん……その、」
「仕方ない。左近は大人だから付き合いがある」
「…すみません」
「まぁ三成さんから“左近は借りるぞ”って一文メールが来たときは流石にイラッとしたけど」

あの人ならやりかねない、と思わず頭をかかえた。確かに今夜は予定が入っていた。それは彼女とではなく、彼女のいう大事な人たちとのもの。隠すつもりは無かったし、彼女から先に誘われていれば断っていた。もっとも彼女が先に誘ってこなかったのは、こうなることを想定していたからかも知れないが。


「でもやっぱ三成さんたちに取られるの悔しいから、せめて一番に祝ってやろうと思って」
「それでわざわざ…」

俺と彼女は生活の時間が違うせいで、逢う時間があまりない。こうして時間を作ってくれるのはいつも決まって彼女の方だ。


「左近、お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」

彼女の言葉、彼女の笑顔。全てが愛おして、力一杯彼女を抱き締めた。


「本当にありがとうございます……ねぇ名前さん、もう一つプレゼント貰っちゃ駄目ですか?」
「なに?」
「貴女が欲しい」
「……それでいいなら」
「最高のプレゼントですよ」


翌朝彼女が目覚める前にスーツに着替え、夢の中にいる彼女の頬に唇を落とし部屋を出た。机の上のメモを見た彼女がどんな反応をするか、夜が楽しみだ。





(今日中に必ず帰りますんで待ってて下さいね)



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子供の日生まれとか可愛いなって勢いで書いたやつ。前サイトより。

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