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年に一度のその日は何でもない平日で、学校もあれば防衛任務もある。「誕生日くらい休めば良かったじゃん」という犬飼の言葉は無視した。それはそれ、これはこれだ。さっきまで隊員達からの祝いの言葉とプレゼントで溢れていた隊室はようやく静かになり、当真達のせいで中断させられていた報告書の作成に取り掛かる。
「荒船!いた!」
折角静かになったのに、と溜息一つ。馬鹿デカい声をあげ、無断で室内に駆け込んで来たコイツは「当真に聞いたんだけど!」と更に声をあげる。
「うるせぇよなんだよ」
「さっきまで此処で誕生日会してたんでしょ!なんで呼んでくれなかったの!」
誕生日会、なんて大それたもんじゃない。同い年の野郎共がゾロゾロと押し寄せてクラッカーをぶちまけ、顔面パイ投げされ、挙げ句プレゼントと称した物を置いていっただけ。主犯は当真と犬飼らしいのでアイツらほんと許さない。チラリと机の上に乱雑に置かれたプレゼントの山を見る。コイツが呼ばれなかったのはその山の中央に置かれた18とデカデカと書かれた怪しい缶詰のせいだ。
“これで荒船もオトナの階段登れるね”
と、ニヤニヤしていた犬飼と当真の顔を思い出しただけでイライラする。アイツら今度ぶった斬る。
未だごねる名前に舌打ちして文句ならアイツらに言えと言ってやれば既に文句は言ってきたらしい。
「私も荒船の誕生日祝いたかったのに」
ボソリと聞こえた言葉に耳を疑った。が、問い質す前に机に積まれたプレゼントの山を勝手に漁り出す。
「おい、お前まじでやめろ」
「なによいかがわしいもんがあるわけじゃあるまいし」
あるから言ってるんだ!とも言えず。人のもん勝手にいじるなと発する前に、それは奴の手の中に渡った。
「あ、」
「なにこれ?て…ああ」
まじまじと缶詰を眺める名前に何だかこっちが居心地悪い。女子がこういうもん普通に眺めてるのってどうなんだよ。こっちの心配をよそに、名前はあっけらかんとした様子でその缶詰を元の場所に戻した。
「まぁ当真達だからね。水上とかカゲ辺りも悪ノリしてそうだけど」
「なんでそんな冷静なんだよ」
「逆になんでそんな照れてんのよ」
「お前はもう少し恥じらえ」
「私も誕生日の時同じの当真に貰ったもん」
「は!?」
その時は死ねって投げ付けてやったけど、しれっと言い放つ。いや、そういうことではなく。確かに名前は他の女子より取っつきやすいし、仲良いから冗談として受け取るだろうが。アイツらほんとに馬鹿なんじゃねーか。
なんだか頭が痛くなってきて、盛大な溜息と共に頭を抱えていると、また何か発見したのか「あ、」と、小さめな声が聞こえ、どうせくだらないものだろうと高をくくっていたら「婚姻届だ」と聞こえてきたので思わず吹き出した。名前から奪い取った紙切れはまさしくそれで、しかも御丁寧に俺の名前が妙に小綺麗な字で書かれてる。名前が言うには多分王子の字らしい。余計なことしやがって。乱暴に投げ打った紙切れを名前が拾い上げまじまじと見詰めてる。
「そっか。男は十八で結婚出来るようになるのか」
思い立ったように「よし」と聞こえた。何がよしなんだか。とりあえず報告書終わらせたら俺もアイツらに文句言いに行こう。最後の一文とサインを書き終えた所で俺の名を呼ぶ声。
「お誕生日おめでとう。これ私からのプレゼント」
眼前に差し出された紙切れは先程俺が投げ打ったもので。近ぇよ、と引き剥がすようにそれを受け取るとさっきは空白だった欄に丸みのある字で書かれている、名前。
「お前、馬鹿なのか」
「失礼なんだけど」
「本気か?」
「荒船次第」
挑発的に笑う。ムカついたから一発叩いて受け取った紙切れをポケットに突っ込む。痛いとか酷いとかっていう文句は無視だ。
「四年待て」
「は?」
「大学卒業したらちゃんとしたやつ書いてやるから、お前もそれにサインしろ」
「……くっ……なにそれ?プロポーズ?」
「わりーかよ」
「いや、最高っ」
「荒船、好きだよ」
真っ直ぐ見詰めてくる視線と、その後何が可笑しいのか名前が笑い出すから、こっちが恥ずかしくなってきて帽子のつばを思い切り引き下げた。
四年後の約束を
(とりあえず当真達には文句だけ言いに行こう)
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18歳で結婚は出来るんだよねって話が書きたかった。18ってデカデカ書いてある缶詰は察して下さい。
荒船哲次生誕祭2016